## 32話 ロジスティクス主任、誕生
## 32話 ロジスティクス主任、誕生
〈よし、明日のアポは取れた。次は、この計画の“実行部隊長”――テトのところだ〉
洗い屋を後にした俺は、店の厨房へと急いだ。
中に入ると、父さん――ゴードンが、いつものように仕込み台で肉の塊と向き合っていた。
「父さん、ちょっといい?テトと話がしたいんだけど」
父さんは手を止めずに頷く。
「わかった。テトを呼んできてくれるか。裏で野菜の仕込みをしてるはずだ」
〈テトのやつ、本当に野菜の仕込みしかしてないな〉
裏口へ向かうと、案の定、山積みのジャガイモと格闘するテトがいた。
「よう、テト」
「お、ライム坊」
「父さんが呼んでるから、ちょっと厨房まで来てくれるか?」
「えっ、親方が?」
テトは一瞬ビクッとしたが、すぐに何かを悟ったように目を丸くした。
「……!もしかして、この前の話か? 俺も親方に報告があるんだよ!よし行こう!」
テトは慌てて手を洗い、俺と一緒に厨房を抜けて店のテーブルへ移動した。そこでは父さんが腕組みをして待っていた。
「テト、来たな。ライムから大体の話は聞いていると思うが、俺からも少し話をさせてくれ」
「は、はい!」
テトは緊張した面持ちで直立した。
父さんは、昨日の俺のプレゼン内容を驚くほど正確に伝えていく。
馬車と馬を買い、弁当配達と洗い屋の配達代行を始めること。そして、その中心としてテトに「御者」を任せたいこと――。
〈父さん、すごいや。完璧に理解してくれてる〉
「……という訳だ、テト。これからは厨房の見習いではなく、“配達担当”として、馬の世話、洗い屋の配達、弁当の配達、そういう業務で協力してほしい」
父さんの言葉を聞いたテトは、感極まったように叫んだ。
「っ!はい!親方!ありがとうございます!俺、正直、厨房の仕事では迷惑ばっかりかけてるって思ってて……!」
ニキビ顔が赤く染まる。
「でも、馬のことなら!実家でもずっとやってましたし、馬の世話も荷車を引くのも自信あります!絶対に配達で役立ってみせます!」
「そうか」
父さんは静かに頷き、わずかに頭を下げた。
「……テト。悪かったな。お前さんの得意なことじゃなく、苦手なことばかり押し付けて、俺もつい怒鳴ったりして……申し訳なかった」
「お、親方!?」
「これはライムが立てた計画だ。ライムの指示に従って、あいつを支えてやってくれ」
「はいっ!ありがとうございます!」
テトは泣き出しそうな顔で、父さんのごつい手を両手で握りしめた。
「それで!」
テトは勢いのまま俺の方を向く。
「馬の件だけど、実家に手紙を書いたらすぐ返事が来て!農作業が辛くなってきた馬がいるから譲ってくれるって! それと、お代は要らないって父ちゃんが!」
「本当か!」
〈馬がタダ……最高だ〉
だが、すぐに頭を冷やす。
「……いや、待って。それはダメだ。タダで貰うのはビジネスとしておかしい。ちゃんと買うよ」
「えっ?」
「ああ」
父さんも頷く。
「ライムの言う通りだ。タダという訳にはいかん。こちらの誠意として、格安だとは分かっているが銀貨50枚は払わせてくれ。これは俺からお父上にお願いする」
「そ、そんな……! わ、分かりました。そう伝えます!」
テトは恐縮しながらも嬉しそうに続けた。
「あと、うちの両親が、これを機にぜひ一度挨拶したいって言ってて……」
「農家! 行きたい!」
〈異世界の農家……行くしかない〉
「父さん、いいだろ!?」
「ああ、わかった」
父さんは俺の食いつきに苦笑する。
「じゃあ馬を正式に譲ってもらうついでに挨拶に行こう。テト、お前とサラとライムで行ってきてくれ」
「やったー!」
「はい!」
「それと、弟のヤトの件だけど!」
テトが思い出したように言う。
「あいつ、鉱山の仕事が体に合わなかったみたいでさ。ライム坊の計画――馬車の仕事――を手紙に書いたら、『ぜひやりたい!』って!」
「良かった!テトと一緒に働けるなら、ヤトも嬉しいだろ。近いうちに顔合わせしたいな」
「わかった!あいつに手紙を出しておくよ。日程が決まったらすぐ言うな!」
〈よし、これで役者は全員揃った〉
俺は“人事”の仕上げに入る。
「テト、給金の話なんだけど」
「え?」
「この仕事は見習いじゃないから給料も変わる。ヤトと2人で、1日合わせて銀貨15枚で考えてる」
「じゅ、15枚!?」
テトの目が飛び出しそうになる。
「内訳は、御者として1人銀貨5枚ずつ。それと、馬の世話や馬小屋の管理費として、2人合わせて銀貨5枚。どうだ?」
「月――20日稼働なら……1人銀貨150枚!? 今の3倍だ……!」
「ああ。その代わり、テトには馬車を使った運搬業務の全部を任せる。今日からテトは『炎の鍋亭』のロジスティクス主任だ」
「ろじす……?ちーむ?」
「運搬責任者だよ」
「お、俺が……責任者……!?」
テトは“主任”という新しい肩書と、これまで縁のなかった責任に完全に固まっていた。
〈よし、今日のタスクは全部クリアだな〉
呆然としているテトの背中を軽く叩き、俺は厨房を後にする。
「じゃあ、俺、クララのところに遊びに行ってくる!」




