## 31話 プロジェクトマネージャーの初仕事
## 31話 プロジェクトマネージャーの初仕事
〈よし……〉
俺は水場で歯を磨きながら、さっきの興奮を必死に鎮めていた。
事業計画の承認は、父さんから取り付けた。
だが、本当の仕事はここからだ。
あの羊皮紙に書いた「完璧なWin-Win」は、まだ俺の頭の中にしかない。
〈これからは、父さんと一緒に、関係各所への挨拶と契約交渉だ〉
俺は、5歳の体には不釣り合いな「プロジェクトマネージャー(PM)」としての自覚を新たにする。
自分が中心になって、この複雑な計画を滞りなく進めなければならない。
〈まずは面談の調整だな〉
打診と交渉が必要な相手は、テト、洗い屋――アインズさん――、マルタのおっちゃん、カチさん、そして組合長のアイザットさん。
採用面接が必要なのは、テトの弟のヤト――これはテト経由――それと、エリーナさんの母さんと妹さんだ。
〈プレゼンで決めた条件は、あくまで俺からの打診レベルだ。これからちゃんと詰めていかないと〉
いきなり5歳児が1人で乗り込んでも、さすがに失礼だ。
父さんの威厳と「炎の鍋亭の亭主」という看板は必須になる。
となると、父さんの仕事の調整も必要だ。
〈まずは父さんの予定確認からだ〉
居間に戻ると、父さんと母さんは、まだ俺が作ったプレゼン資料――羊皮紙の束――を2人で眺めていた。
「父さん、母さん。さっきの件なんだけど」
父さんは顔だけ上げて、短く応じる。
「おう」
「これから、関係するみんなと、ちゃんと話し合いをしたいんだ。いきなり俺が行っても話にならないと思うから、父さんにも一緒に行ってほしいんだけど……行ける日、ある?」
すると、父さんは羊皮紙から目を離さず、重々しく言った。
「……ああ。明日は店を休みにする」
「えっ!」
店を休むなんて、よほどのことがないとあり得ない。
父さんが、この計画をどれだけ真剣に受け止めているかが伝わってくる。
「そ、そっか。わかった」
俺は興奮を抑えて頷いた。
「じゃあ、明日は午前中に隣の洗い屋さん、午後に市場のみんな――マルタさん、カチさん、組合長――のところに挨拶に行くってことでいい?」
「ああ、それでいい」
「ありがとう! じゃあ、今日はテトと話をしたいから、後で声を掛けるね」
〈よし、メインの商談は明日で決まりだ〉
洗い屋は隣だからアポも簡単だが、市場の3人――マルタ、カチ、組合長――は忙しい。
アポなしで父さんを連れ回すのは非効率だ。
〈市場のみんなには、先に手紙を出しておこう〉
俺は机に向かい、羊皮紙の切れ端にインクで、「明日、父と共に正式なご相談と契約のため伺います」という旨の簡単な手紙を3通書いた。
この世界にも郵便屋という商売はある。
店の場所は、ベック爺さんの酒屋の隣だ。
街の中の配達だけでも、少し値が張る――1通 銅貨5枚――分、直接届けてくれるので、相手には丁寧な印象を与えられる。
5歳児の俺が直接走り回るより、よっぽど信用が置ける。
俺は母さんからもらった銅貨15枚を握りしめ、郵便屋で3通の手紙の配達を依頼した。
そして、その帰り道。俺は隣の洗い屋に寄った。
「ごめんくださーい!」
店の入り口ではなく、奥の作業場の方から声が聞こえる。
「はーい!」
作業場をのぞくと、クララが駆けてきた。奥には、父のアインズおじさんもいる。
「あ、ライム!」
「おお、ライム君。こんにちは」
「クララ、おじさん、こんにちは。あのね、この前の配達の問題なんだけど」
「おお?」
「俺、いろいろ考えて父さんに説明したら、父さんも『ぜひ』って。それで、おじさんたちに、うちの父さんからちゃんと説明したいって言ってるんだけど……」
アインズさんは、「やっぱりか」という顔で笑った。
「ははあ。そういうことかい。ライム君が、うちの配達を手伝ってくれるって話だね?」
「あ、うん!〈まあ、半分合ってる〉」
「いやあ、そりゃ助かるよ!ゴードンさんも話してくれるなんて、ぜひぜひ。いつがいいかな?」
〈勘違いしてるが、まあいいだろう。食いつきは完璧だ〉
「明日、父さんが店を休みにするから、配達に出る前の午前中に、少し時間をもらえないかな。おじさんとおばさん、2人そろって聞いてほしいんだ」
「おお、ゴードンさんがわざわざ休みを! わかった、気合が入るなあ」
アインズさんは腕を組む。
「よし、じゃあ少し早めに作業を始めて、時間を作るよ。明日の10時ごろに来てくれるかい?」
「わかった!10時だね!」
「ライム、遊ぼう?」
クララが俺の袖を引っ張る。
「ごめん、クララ。今からテトと大事な話があるんだ。午後にまた来るよ」
「わかった!待ってる」
〈よし、これで明日の予定は決まった〉
洗い屋を後にし、俺は店の厨房へと急いだ。
〈次は、この計画の『実行部隊長』――テトのところだ〉




