## 3話 効率化への第一歩
## 3話 効率化への第一歩
「うぐっ……もう食えないよ、母さん」
俺は、目の前の空になった木皿と、まだ卵炒めが残っている大皿を交互に見て、降参の意を示した。
母さんの作る朝食は、相変わらず豪快で量が多すぎる。大人の精神はともかく、5歳の肉体の許容量はとっくに超えていた。
「あら、もう終わり?ライムは食が細いわね!」
「これ以上食べたら、破裂しちゃう……」
母さんはケラケラ笑いながら、残りを父さんの皿に雑に移している。
俺は腹をさすりながら、さっき言い渡された今日のタスクを頭の中で反芻する。
〈薪の受け取りに、樽の返却、それに店の掃除……〉
まず、市場での薪の受け取り。
これは、ただ貰ってくるだけじゃない。
週に1度、懇意にしている薪屋のところで今週分の注文を確定させ、代金の一部――前金だ――を払い、自分では到底運べないので薪屋の人に手伝ってもらう。
要するに、5歳児がやるーー現場監督だ。
前世なら、メール1本。いや、ネットでポチれば定期配送されるようなことを、わざわざ歩いて交渉しに行かないといけない。
この非効率さが、どうにも歯がゆい。
次に、酒屋への空き樽の返却。
酒屋のベック爺さんの店は、ここから通りを2本曲がった先だ。
近いとはいえ、あのデカい酒樽を5歳の俺が1人で運べるわけがない。
〈……店の裏で仕込みの手伝いをしてる見習いのテトに声をかけるか〉
彼と2人で運ぶにしても、空樽はいくつかある。
何往復もしなければならないのは目に見えていた。
何かこう、1度に運べるような……例えば台車みたいなものがあれば。
「……ライム?聞いてるの?」
「ん?ああ、ごめん。何、母さん?」
いかん、物思いに耽っていた。
目の前では、母さんが腰に手を当てて、じとっとした目線を送ってきている。
「まったく、朝からボーッとしちゃって。父さんの言ったこと、わかってるの?」
「わかってるよ。薪の受け取りと、樽の返却だろ」
俺は慌ててそう答えた。
「それと!」
と母さんは人差し指を立てる。
「店の前の水撒きと掃除もだからね!」
「う……それもか」
「当たり前よ!ぜーんぶ終わらせたら、遊んでおいで」
母さんのその言葉に、俺はパッと顔を上げた。
「本当!?じゃあ、全部終わったら、隣のクララと遊んできていい?」
クララは、隣の洗い屋――この世界でいう洗濯屋だ――の娘で、俺と同じ5歳の幼馴染だ。
前世の記憶を持つ俺にとって、同年代の子どもと遊ぶのは少し気疲れする部分もある。
それでもクララは純粋で利口な子なので、一緒にいても苦にならない。
というか、この世界で唯一の「友達」だった。
「おや、デートのお誘い?」
母さんがニヤニヤしながら、俺の頬をつついてくる。
「ち、違うよ!ただ遊ぶだけだから!」
「はいはい。ま、その前にやることはしっかりやるのよ、ライム。お客様はピカピカの店が好きなんだから!」
「わかってるって!」
俺は椅子から飛び降りた。
〈よし、決めた〉
市場での交渉、樽の運搬、そして掃除。
どうせやらなきゃいけないなら、いかに効率よく終わらせるか。
5歳児の小さな頭脳――中身は大人――が、今、フル回転を始めた。




