## 29話 最後のピースと事業計画
## 29話 最後のピースと事業計画
〈よし、弁当箱のCAPEXも、マルタのおっちゃんとカチさんの需要も確認できた。これでいい。クララのところに遊びに行こう!〉
ホクホク顔の二人に礼を言い、俺は鍛冶屋を後にした。向かった先は、隣の洗い屋だ。
「こんにちはー!」
店をのぞくと、クララと、今日はクララのお母さん――サクラさん――もいた。
「あ、ライム!」
「ライム君、こんにちは。いつもありがとうね」
サクラさんが、濡れた手で優しく微笑む。
「またリバーシやろうぜ」
「うん!」
俺たちは端っこに座り、さっそく盤を広げた。
〈……クララさん、また上手くなってるな。5歳児相手に本気でヒヤッとする場面が何回かあった。これは近いうちに負けるかもしれない〉
「あー! 今日も勝てないかぁ」
「いや、ほんと強くなってきたね。危なかったよ」
「ほんとう!? 早く勝ちたい! お父さんとか、お父さんの友達には、たまに勝てるんだよ!」
〈クララさんはマジで末恐ろしいな……〉
本題に入る。最後の確認――洗い物の値段だ。
俺はカチさんのところでもらった、ヒノキの弁当箱(試作品)を取り出す。
「おばさん!もし、この弁当箱を毎日100個洗うとしたら、いくらくらいかな?」
「え?100個も?」
クララのお母さんは驚いた顔をしたが、すぐに考え始めた。
「うーん、そうねぇ……1個あたり銅貨1枚かしら。主人に聞かないとはっきりは言えないけど、慣れればもっと安くできるかもしれないわ。でも、ごめんなさい。今のうちは、新しい仕事は受けられないと思うの」
「そっか。今は配達が忙しいもんね」
俺は、待ってましたと言わんばかりに尋ねる。
「もし、その配達が全部なくなったら、できるかな?」
「え?配達がなければ、余裕よ!」
即答だった。
「形が全部同じなら、あの大きい桶でまとめて洗えるし、そんなに時間もかからないと思うわ」
「そっか!ありがとう!」
〈よし!最後のピースはハマった!〉
クララとしばらくリバーシを楽しんでから、俺は店を後にした。
家に戻る道すがら、頭の中は興奮でいっぱいになっていた。
〈じゃあ、そろそろ父さんたちへの「事業計画書」を作るか。作りながら、また足りない情報も見つかるだろうしな〉
2階の自室――という名の居住スペースの隅――に戻り、羊皮紙を広げて数字を書き出していく。
初期投資(CAPEX)
・中古の馬車(荷車):金貨1枚
・年取った馬:銀貨50枚
・弁当箱の金型:金貨2枚
・弁当箱(200個):銀貨80枚(銅貨4枚 × 200)
= 合計:金貨4枚+銀貨30枚
――――――――――
売上(見込み)
・洗い屋の配達代行:銀貨30枚/日
・お弁当100食:銀貨60枚/日(銅貨6枚 × 100)
= 合計売上:銀貨90枚/日
・20日稼働時の月売上:金貨18枚
――――――――――
コスト(OPEX)
〈ランチボックス事業〉
・御者(テト+ヤト):銀貨15枚/日
・調理人(エリーナ母・妹):銀貨10枚/日
・経理(エリーナ母):銀貨5枚/日
・弁当の材料費100食:銀貨20枚/日(銅貨2枚 × 100)
・弁当の洗浄費100個:銀貨10枚/日(銅貨1枚 × 100)
→ 合計:銀貨60枚/日
→ 20日分の小計:金貨12枚
〈馬まわりの固定費〉
・馬の維持費:銀貨6枚/日
(内訳:馬小屋代銀貨4枚+餌・手入れ銀貨2枚)
→ 30日分の合計:金貨1.8枚
――――――――――
月粗利
金貨18枚 − 金貨12枚 − 金貨1.8枚 = 金貨4.2枚
〈投資額の金貨4.3枚(430,000円相当)は、約ひと月で回収できる!
リバーシが未知数でも、弁当と配達代行だけで十分回収できる〉
〈リバーシは、売値が銀貨10枚で、コストが銀貨3枚。
売れれば売れるだけ、丸ごと“おいしい”利益になる〉
〈そして、みんなのメリットは……〉
・テトとヤト:馬の仕事で大喜び。給与も上がる。
・洗い屋(クララ両親):配達地獄から解放。洗浄という固定収益が生まれる。
・サラ:苦手な経理から解放される。精度もアップ。
・市場の人たち:ランチ難民問題が改善。
・エリーナ:母と妹の仕事が生まれる。
・マルタ:板材・塗装・端材の継続取引。
・カチ:作業費と金型でしっかり稼げる。
・父さん(ゴードン):テトは抜けるが、調理人が2人増えて仕込みがラクに。
・炎の鍋亭:弁当が広告塔になり、酒札で請求漏れも解消。
・クララ:両親と店で過ごせる時間が増える。
・俺:クララと遊べる!
〈よし。これで提案は、ほぼオッケーだろう〉
算出した投資額を眺める。
〈俺の金貨1枚を引いた、残りの330,000円分は……父さんに“何とかしてもらう”!〉
〈急いでプレゼンスライドを準備するぞ!〉




