## 28話 弁当箱のCAPEXと、見えてきた需要
## 28話 弁当箱のCAPEXと、見えてきた需要
俺はカチ鍛冶屋の前まで来ると、立ち止まって今日の目的を確認した。
〈よし、今日は弁当箱の費用だな〉
中に入ると、いつも通り工房の熱気と槌の音が響いていた。カチさんの姿が見えないので、防音室をのぞくと先客がいた。
「おっちゃん、カチさん、こんにちは!」
「おう、ライム坊」
マルタのおっちゃんが、カチさんと図面を広げていた。
「酒札、昨日の夜に店で使ってみたけど、すごく好評だったよ! 父さんも給仕のみんなも分かりやすいって! 二人に相談して、本当に良かった!」
俺の報告に、無骨な二人の顔がわずかに緩んだ。
「ま、まあな。お前さんのおかげで、最近はこっちも充実してる」
カチさんが照れくさそうにそっぽを向く。
「がっはっは! お前とやり取りするのは面白いからな。これからも頼むぜ!」
マルタのおっちゃんも豪快に笑った。
「それで、坊主」
カチさんが黒板を指した。
「ちょうどお前さんの言ってた『弁当箱』の打ち合わせをしてたところだ。ラークも張り切っててな。昼間は俺が弟子の指導で手が離せねえから、あいつが拙いながらも金型の練習をしてるぞ」
「本当!?」
「やっぱり材料はヒノキがいいみたいだな」
今度はマルタのおっちゃんが続ける。
「お前んとこの弁当を入れるなら、マツのヤニはまずいだろ。ヒノキはちいと値が張るが、食い物を入れるなら悪くない」
「それでな」
カチさんが腕を組む。
「あのプレス機でただ圧力をかけるだけじゃ木が割れちまう。試した結果、一度湯で柔らかくしてからプレスすると、いい感じに曲がって固まる」
「なるほど。一度茹でるんだね。じゃあ、コマより手間がかかるね」
「まあな」
カチさんは頷く。
「火を使うのは鍛冶屋だからどうってことはねえが、茹でる手間と、曲げた後に乾かす時間がいる。だからコマみたいな安値じゃ出せねえ。それに、プレス機の大きさ的に一度に作れるのは2個が限界だ」
「そっか……使い捨て感覚とはいかないね」
「そうだな。これが試作品だ」
差し出された木箱はタッパーのような形で、ヒノキの香りがほのかに立った。
「すごくいいね! これなら塗装もいらないね」
「そうだ。で、肝心の値段だが……」
カチさんとマルタのおっちゃんが頷き合う。
「ヒノキの板は、2個分で銅貨4枚(400円相当)」
「プレス作業は、茹でて乾かす工程があるからな。同じく2個で銅貨4枚だ」
〈1個あたり銅貨4枚か……。再利用前提なら悪くない〉
〈1日100食売るとして、回収→洗浄→再利用……最低でも200個は必要だな〉
俺が計算していると、マルタのおっちゃんが真剣な目つきで言った。
「坊主。もしプレスの仕事が本格的に増えるなら、ラークに1回当たりで払うより、専用で人を雇った方が安上がりだろ」
「え?」
「なんなら、うちの製材工場の空いてる場所を貸してやるよ。プレス機をそっちに移せば、材料の移動も楽だろうが?」
〈すげえ……流石マルタのおっちゃん。計算が早い。それに場所提供はありがたすぎる!〉
「二人とも、ありがとう! 助かるよ!」
〈よし、弁当箱のCAPEXも量産体制も見えてきた。必要な情報はだいたい揃った〉
すると、カチさんがボソッと言った。
「……おい小僧。例の弁当とやら、うちの弟子たちの分も卸してくれると嬉しいんだが」
「え?」
「うちもだ!」
マルタのおっちゃんがすかさず続ける。
「この前のサラさんの弁当、うちの工場の連中が、そりゃあ物欲しそうに見てたぞ!」
〈きた!〉
「わかった! 任せて!」
カチ工房の弟子は10人。マルタの工場は……規模がでかいから20人はいる。
〈この2つだけで30食は固い。市場組合も合わせたら、1日100食は余裕だ〉
「じゃあ、父さんにも相談して、本格的に準備始めるよ!」
「おう!」
二人に礼を言い、俺は鍛冶屋を後にした。
〈よし、これでいい。クララのところに遊びに行こう!〉




