## 23話 クララの洗濯工程(ワークフロー)
## 23話 クララの洗濯工程
〈……なんか、父さんを説得して、やること考えて……と、色々と考えすぎて頭がパンクしそうだ〉
俺は歯磨きを終えると、市場へ向かおうとした足を止めた。
〈うーん。よし、まずはクララに癒やされよう〉
我ながら不純な動機で、俺は炎の鍋亭を引き返し、隣の洗い屋に向かった。
「ごめんくださーい」
店の入り口ではなく、奥の作業場の方から賑やかな声が聞こえる。
「クララ、そっちの袋、ちゃんと番号振ったかい!」
「はーい!」
どうやらクララだけじゃなく、クララの父さんと母さんもいるようだ。俺が作業場を覗き込むと、クララが一番に気づいた。
「あ!ライム!」
「よう、クララ。今日は1人じゃないんだな」
「うん!朝は一緒なの!」
クララのお父さん――アインズさん――が、汗を拭いながら手を振ってくれた。
「おお、ライムくん。おはよう。いつもクララと遊んでくれてありがとうな」
〈そうか、朝に来ることってあんまりなかったな〉
「うちは大体、朝一番で洗濯物を全部洗っちまって、午後から配達に回るんだ。ただ、最近は妻も配達に出ることが増えちまっててね。ライムくんが店番を手伝ってくれると、本当に助かってるよ」
「今は忙しいですか?」
「大丈夫よ!」
クララのお母さん――サクラさん――がタライから顔を上げた。
「クララ、ライムくんに『お仕事』教えてあげたら?」
「うん!」
クララは満面の笑みで俺の元へ走ってきて、俺の手を引いた。
〈マジ癒やされる〉
「ライム、見てて!クララのお仕事!」
クララは、山積みになった洗濯物の袋の1つを指差す。
「まずね、お客さんごとの袋を開けて、入ってる服に、袋の『番号』が書いてある木の札をつけるんだよ」
〈なるほど。袋ごとに中身に採番して、取り違えを防いでるんだな〉
「全部終わったら、お色でまとめるの!」
〈色移り防止。基本だな〉
「それで、このおっきな桶で洗うんだ!お手伝いさんもいるんだよ」
クララが指差す先には、うちの店の仕込み用の樽より遥かに巨大な桶と、そこで汗だくになって洗濯板をこするバイトらしき女性がいた。
「そいでね、これで水を飛ばすの!」
クララが指差したのは、その巨大な桶の隣にある、側面に無数の穴が空いた、もう1つの桶だった。中心には太い軸が通っており、それを馬鹿でかいハンドルで高速回転させる仕組みらしい。
〈おお……遠心分離機。原始的だけど、脱水機があるのか!〉
「で!干す!」
〈最後、雑だな〉
「乾いたら、おんなじ『番号』を探して、袋に入れるんだ」
〈すごい。めちゃくちゃシステマチックだ。でも、どの工程もかなりの重労働だ。脱水機だって、あれを回すのは並大抵の力じゃない〉
「クララ、ありがとう。いっぱいお手伝いしてるんだね!偉いや!」
俺はクララの頭を撫でてから、アインズさんに尋ねた。
「おじさん。服の洗濯以外には、何かあるの?」
「ああ?」
アインズさんは腕を組む。
「ああ、シミ取りとかな。ああいうのは手間がかかる分手間賃もいいんだが、今はとても手が回ってなくてね」
「あ、質問がわかりにくかったですね。えっと、お洋服『以外』に、何か洗うこともあるんですか?例えば……お弁当箱とか」
「弁当箱?」
アインズさんは、変なことを聞く、という顔をした。
「んー、まぁ、あのデカい桶があるからな。食品用の洗剤――灰汁か何かだろう――を使えば、洗えんことはないだろうね。でも、そんな物をわざわざ洗ってくれって持ってくる人もいないけどね」
彼は「はは」と笑う。
「まぁ、どっちにしても、今のこの状況じゃ、新しい仕事なんて無理だなぁ。やっぱり配達の人を雇うのがいいんだろうけど」
〈よし、情報は取れた〉
「おじさん、そんなに忙しいんだね。俺、何かできないか考えてみるから、ちょっと待っててね」
「ははは、そうか。頼りにしてるよ、ライムくん」
〈……あの反応、5歳児の戯言だと思って信じてないな。まあいいや〉
「おじさん、本当だよ!ちょっと待っててね!」
俺は、ダメ押しで――前世の営業スマイルだと思われるもので――言った。
「あ、そうだ。この前おじさんが面白いって言ってたリバーシなんだけどさ。例えば、あれ、金貨1枚(100,000円相当)だったら買う?」
「金貨!?無理無理!」
アインズさんは笑い転げる。
「でも、本当に面白いよな、あれ。最近、友達にも教えたんだけど、みんな面白いって言ってたぞ。うーん、おじさんだったら、銀貨10枚(10,000円相当)とかなら、買っちゃうかもなぁ」
「参考になりました!」
「??よくわからんが、これからもクララと仲良くしてやってくれよ」
「クララ、いっぱい教えてくれてありがとうね!また来る!」
「うん!バイバイ、ライム!」
洗い屋を後にした俺の頭は、フル回転していた。
〈めちゃくちゃ収穫があった!〉
第一に、クララが賢い――再確認。
第二に、リバーシの市場価格。組合長は金貨1枚という破格の値段を付けたが、庶民感覚だと銀貨10枚が妥当なラインか。
第三に、洗い屋の配達は午後がメイン。
第四に、彼らは弁当箱を洗う設備――巨大な桶――と技術――食品用洗剤の知識――を持っている。
第五に、彼らは本気で配達員を雇うことを検討している。
〈……試算してみよう〉
この前のマルタのおっちゃんの話だと、従業員3人の配達で、銀貨25枚分のコストがかかってる計算だった。洗い屋の配達手数料が、仮に1回銀貨5枚だとしよう。アインズさん夫婦の2人体制になっているということは、1日6件以上、多ければ10件の配達がある。
〈間をとって1日8件だとしても、銀貨40枚分の人件費だ〉
〈もし、うちのテトと馬車を「午後の配達代行」として、銀貨30枚で洗い屋に貸し出したらどうだ?〉
洗い屋は、銀貨10枚以上のコスト削減になるうえ、クララの両親の手が完全に空く。
〈手が空けば、単価の高いシミ取りもできるし、俺が企画してる「弁当箱の洗浄」も請け負ってもらえる〉
〈うち――炎の鍋亭――は?〉
テトへの駄賃を、今の「半日銀貨5枚」から「1日銀貨10枚」に倍増させても、洗い屋からの配達料――銀貨30枚――で、馬車の購入費(これは投資だ)を差し引いても、日当で銀貨20枚の利益が出る。テトは給料が上がって大喜びだ。
〈……よし、頭が回ってきたぞ〉
俺は、金貨を握りしめ、市場へと向かった。
〈まずは、カチさんのところに行って、プレス機のレンタル料と、弁当箱の金型の相談だ!〉




