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異世界で社長になる。   〜5歳児から始める異世界ビジネス革命〜  作者: Mizunoki.Kawai


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## 15話 頼る、という戦略

## 15話 頼る、という戦略


洗い屋から店に戻ると、案の定、母さん――サラ――が店のテーブルで帳簿の束を広げ、計算盤そろばんもどきを睨みつけていた。


〈……よく考えると、母さん、かなりの時間この帳簿とにらめっこしてるな〉


彼女は実家が商店だから読み書きと計算はできるはずだが、その明るく破天荒な性格に、地道な経理作業は絶対合っていない。

昔は店の看板娘だったというし、あの美貌(と俺は思っている)なら、それこそ呼び込みとか接客の方がよっぽど向いてるだろう。


〈まあ、その接客をやらせたら、勘定を間違えるわ皿は割るわで、父さん――ゴードン――が2階に追いやったんだろうけど……〉


「あー、ライム! ちょうどいいところに!」


俺の姿を見るなり、母さんが泣きついてきた。


「また合わないんだけど、ちょっと見てくれる?」


羊皮紙を覗き込むと、また計算違いをしている。おまけに、俺が昨日教えたはずの「収入と支出を分ける」書き方が、すっかり元に戻ってごちゃ混ぜになっていた。


〈……こりゃダメだ。根本的にやり方を変えないと〉


「うん、いいよ!また『計算の練習』したい!」


俺は、母さんと一緒に計算盤を弾きながら、さっきの出来事を話した。


「あのね、さっきクララの店に行ったら、クララが1人で店番してたんだ」


「へえ、クララちゃんが?」


「うん。おじさんもおばさんも、配達で出払ってて忙しいんだって。1人で寂しそうだったよ」


「あらあら、そうなのねえ」


母さんは、俺がクララの話をするとすぐにニヤニヤする。


「どこも大変みたいねえ。……その話、父さんに相談してみたら?」


「え?父さんに?」


「だあって」


母さんは俺の頬をつつく。


「父さん、あんなに格好つけて『何でも相談しろ』『俺が責任取る』なんて言ってたでしょ?」


「う……まあ、言ってたけど」


「また何か新しいこと考えてるんでしょ、ライム」


母さんが、全部お見通しだという顔で笑う。


「父さんって、ああ見えて頼られるの好きだからさ。事を起こした後に言うより、最初から『相談』って形で打ち明けておいた方がいいわ」


〈……母さんの言う通りだ〉


破天荒だが、父さんの操縦法は熟知している。確かに、父さんの性格からして「頼られたい」に違いない。


「わかった。明日の朝ごはんのときに、相談してみるよ」


――そして次の日、朝食。


今日も山盛りの卵炒めを何とか腹に収め、俺は切り出した。


「父さん、ちょっと相談があるんだけど」


「……なんだ」


父さんは、お茶をすすりながら俺を見る。


「あのね、俺、『リバーシ』っていう遊びを考えて、クララと遊んでるんだ」


「リバーシ?」


「うん」


俺は懐から、あの黒と白の木片コマを数枚取り出して見せた。


「それで、昨日クララの店(洗い屋)に行ったら、クララがこれと似たような『木の札』をお客さんに渡してたんだ」


俺は、洗い屋の色付き木の札のシステムを説明する。


「うちの店、最近忙しくて、特に鉱山の連中が来た時なんか、お酒の追加注文が誰だか分からなくなってない?」


俺がそう言うと、父さんは図星だったのか黙って頷いた。


「だから、このコマみたいに、お酒の種類ごとに色を分けた札をテーブルのカゴに入れていったら、最後にそれを数えるだけで、母さんでも――いや、誰でも――勘定を間違えなくなると思うんだ。父さん、どう思う?」


俺はあくまで「相談」の体で、父さんの意見を求めた。


父さんは、俺の手の中にあるコマを1つ取り、指先で弾きながら興味深そうに聞いている。


「……なるほどな。『酒札』か」


「うん」


「……ライム。それは、すごくいいと思うぞ」


「本当!?」


「ああ。それなら、給仕の連中でもすぐに覚えられる」


俺がパッと顔を輝かせると、父さんは少し嬉しそうだった。


「父さん、ありがとう!」


「ふん。……そのコマ、マルタさんのところに持っていって相談してみろ。あいつは薪屋だが、製材所も持ってる。ああ見えて、こういう木工の細かい細工も意外と得意なんだ」


「そっか! さすが父さん、参考になったよ!」


〈よし、完璧だ。父さんから『マルタに相談しろ』という言質も取れた!〉


父さんも、頼られたのが嬉しかったのか、どことなく満足げだ。


「あら、ライム」


話が終わったのを見計らって、母さんが声をかける。


「じゃあ、マルタさんのところに行くついでに、うちの炭も買ってきておくれよ」


「はーい」


「あ、そうだ、父さん」


俺は思い出したように付け加えた。


「昨日、クララが1人でお留守番してて、寂しそうだったんだ。洗い屋も、鉱山の配達ですごく忙しいみたいで」


「そうよねぇ」


母さんが「かわいそうに」と補足する。


「……そうか」


父さんは、腕を組んでうなる。


「あそこも大変なんだな……。うちも、そろそろ本気で人をもう1人くらい、増やさないといかんなぁ」


朝食を終え、俺は水場で口をゆすぐ。


〈よし、今日の予定は決まった〉


炭を買いに、マルタのおっちゃんのところへ行く。そこで「酒札」の製作を相談する。

〈ついでに、組合にも寄って、馬車の予約状況でも聞いてみるか。来週からの初仕事、失敗は許されないからな〉


俺は、新たな改革への第一歩に、静かに闘志を燃やしていた。

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