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異世界で社長になる。   〜5歳児から始める異世界ビジネス革命〜  作者: Mizunoki.Kawai


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出発と版画と知識の話

## 115話 出発と版画と知識の話


翌日の朝。

ノール川の船着き場には、見慣れた顔ぶれが勢ぞろいしていた。


俺と父さんと母さん。

レノ。

クララと、アインズさんとサクラさん。

ミナ、エッタさん、エリーナさん。

それからテンドーさん。


今日は、いよいよ領都エステル出張の出発の日だ。


〈こうしてみると、ちょっとしたツアー客の見送りみたいだな〉


そう思っていたところに――


ドスン、と地面を踏み鳴らすような足音が近づいてきた。

広背筋だ! いや、マルタのおっちゃんだ。


「嬢ちゃん、約束の版画だ。これでひと暴れしてこい!」


分厚い木板を肩から下ろし、クララにドンと差し出す。

表には、ミナが描いた炎の夜明け商会の紋章とタイトル文字が、細かく彫り込まれていた。


「ありがとうマルタさん! これで仲間、いっぱい――100人くらい集めてくる!」


「100人!?」


思わず声が出る。


〈それはさすがに多すぎる……〉

〈でもクララさんなら、本当にやりかねないから怖い〉


俺は笑いながら、マルタのおっちゃんに頭を下げた。


「おっちゃん、特急対応ありがとう!」


「おう! 俺が直々に彫ったからな。期待しとけ!」


マルタのおっちゃんはガハハと笑い、手をひらひら振りながら帰っていった。


「母さんには手紙出しておいたから、まっすぐ実家に寄るのよ?」


母さんが、改めて念を押す。

母さんの母――リーネおばあちゃんの家だ。


「うん、ありがとう!」


アインズさんも、心配そうにクララを見る。


「クララ、無理するんじゃないぞ」


「うん! いっぱい遊んでくるね!」


〈クララにとっては“遊び”なんだよな〉

〈そしてアインズさんの心配は、たぶん100割くらいクララに向いてる。その気持ちは、わかるぞアインズさん〉


その後も、みんなが思い思いの言葉をかけてくれる。


「ミナちゃん、ライム君のお手伝いするのよ?」


エッタさんが笑う。


「ミナ、しっかりね! なるべくライム君の近くを陣取るのよ」


エリーナさんまで乗ってきて、ミナは顔を赤くして抗議した。


「ちょっとやめてよ、2人とも」


「「うふふ」」


エッタさんとエリーナさんは、何やら別の方向性だ。


「バルド支部長にはよろしくな」

父さんが言う。

「くれぐれも勧誘なんてするなよ」


〈もうしないよ〉


レノはきちんと姿勢を正し、全員に頭を下げた。


「お見送りどうもありがとうございます。道中の安全は任せてください。行ってまいります」


ミナとクララは、最後まで大きく手を振っている。


そして俺たちは――

クララ、ミナ、レノ、テンドーさんと一緒に、エステル行きの船に乗り込んだ。


ノール川の水面がきらきらと光り、ロンドールの街並みが少しずつ遠ざかっていく。


〈よし。ここからが『遠征採用』の本番だ〉


---


船が川をさかのぼり始めてしばらくすると、テンドーさんが紙束とインク壺を抱えて立ち上がった。


「では、紙とインクを持ってきましたので、パンフレット作りを始めましょうか」


船室の机の上に、マルタのおっちゃんの版木が置かれる。

インクを練る音、紙を揃える音が重なっていく。


クララが版木にインクをのせ、ミナが紙を並べ、俺とレノも横で手を動かす。


ペタッ――。

ペタッ――。


版木を押しつけるたびに、同じ紋章と文字が紙の上に浮かび上がっていく。


〈こんな流れ作業も、みんなでやると楽しいな〉


作業の合間に、前から気になっていたことをテンドーさんに聞いてみた。


「そういえば、印刷ってこういう感じで版画を作ってやるのが普通なの?」


「そうですね。簡単なチラシなどは、このような方法で刷ります」

テンドーさんは、インクのつき具合を確かめながら答える。

「ただ、ここまで文字が多い版木は、かなりの加工技術が必要なので珍しいですね。マルタさんだからできたと言ってもいいと思います」


「へぇ……じゃあ本は、どうするの?」


「本、ですか」

テンドーさんは少し懐かしそうに笑った。

「本は文字だけなので、基本は手で写します。写本屋という仕事がありましてね。学生には、いいお小遣い稼ぎになるんですよ。私も学生のころは、写本屋から仕事をもらってよく写しました。なので、本は高価なんです」


〈やっぱり、印刷機はないのか〉


うちにある食材の本が1冊きりだったことを思い出す。

普通の家庭で、本が何冊も並ぶ世界ではない。


〈活版印刷機か……〉

〈あんなシンプルな仕組み、真似ようと思えば誰でも真似できるだろうし、印刷機そのものを売っても大きな儲けにはならないだろう〉


でも。


〈この世界に“活版印刷”が広がったら、知識の広がり方が一気に変わる〉

〈写本屋何人分もの仕事を、鉄の機械が一気にやるんだ〉


想像するだけで、胸が少し高鳴る。


〈知識革命。コンテンツビジネス。……夢が膨らむな〉


「ライム、またなんか考えてるの? ニヤニヤしてるよ?」


隣で紙を並べていたクララが、じっと俺の顔を覗き込んできた。


「ん? みんなが手軽に本を読める世界になればいいな、って思ってただけだよ」


ミナが、ぱっと顔を明るくする。


「それ、すごく楽しそう!」


「そんな世界、見てみたいですね」

テンドーさんが穏やかに笑う。

「ライム君なら、さらっとやってしまいそうで怖いです」


「ライムさんなら簡単にできるでしょうね」

レノが、相変わらず真顔で続ける。

「ただ、この国でも学びの場は限られていますし、字が読める人もそこまで多くありません。『みんな』となると、少し難しいかもしれません」


〈みんな俺をなんだと思ってるんだ〉


苦笑しながらも、鉱山で聞いた話を思い出す。

読み書きと計算ができる人材は、やはり中流以上の家に限られるらしい。


「それも含めてさ」

俺は版木についたインクを眺めながら言う。

「そんな将来が来たらいいなって、思ってるだけ」


「よし! これで最後だよ!」


ミナが刷り上がった紙束を指さした。

5人で手分けしたおかげで、パンフレットはあっという間に必要枚数が揃う。


〈船にいる時間は、まだまだ長い〉

〈せっかくだし、あの話もしておくか〉


俺はタイミングを見計らって、クララに声をかけた。


「なぁクララ。プレサントなんだけどさ」


「ん?」


「予定より広がり方が遅いんだ。新しいお酒だし、まだ知らない人が多いからだと思うんだけど」


「うん。知らないと飲めないもんね」


レノも会話に入ってくる。


「なので、『欲しい人にどう届けるか』というところを、もう少し考えたいのです。何か案はありますか?」


クララは少し首をかしげて、それからシンプルに聞き返した。


「んー。プレサントは美味しいんだよね?」


「はい」

テンドーさんが、そこで口を挟む。

「ただ新しいというだけでなく、サントエールの味を引き立てる、とても美味しいお酒だと思いますよ」


「だったら、初めに試飲会してもらえばいいんだよ」

クララの答えは、迷いがない。

「前にみんなで集まって飲んだ時みたいにさ。美味しいのに、知らないから飲まないだけでしょ?」


〈恐ろしくシンプルで、恐ろしく本質だ〉

〈知らないから飲まないなら、“知ってもらう”ところから始めればいい〉


「うん、試飲会いいね」

俺は頷く。

「でも、サント工場に全員来てもらうわけにはいかないし」


「ランチボックスの販売所とか、炎の鍋亭とか、テンドーさんのところとか、ベックお爺さんのところでいいと思う!」


クララが、指を折りながら次々と場所を挙げていく。


「……確かに、今ある販路を活用すればいいですね」

レノがすぐに整理してくれる。

「プレサントは少量の試飲でも味が伝えられますし、どの場所も酒を飲む可能性が高い層が集まっています。やはり、クララさんはすごい」


「やっぱり、クララに相談すると整理できるよ!」

俺は笑ってしまう。

「構えないで、まずは試してもらうほうが早いよね」


〈マーケティングの基本、試供品拡散〉

〈コストも製造から輸送、配布まで自社でできる。かかるのは原料コストのみ。広告費だと思えば安いものだ〉


「私も手伝いますよ」

テンドーさんが、楽しそうに言う。

「道具屋としても、新しい飲み物を広めるのは商機になりそうです」


「私、役に立った?」


クララが、ちらっとこちらを見る。


「もちろんだよ!」

俺ははっきり答えた。

「戻ったら、ヤブタさんとガレンさんにも相談してみよう」


船は確実に領都エステルへ近づいていく。


---


翌日、俺たちはエステルに到着し、母さんの実家であるリーネさんたちに温かく迎え入れられた。

その夜は前回と同じように、親戚も交えたリバーシ大会で大いに盛り上がり――


こうしてエステル1日目の夜は、楽しくにぎやかに更けていくのだった。


いよいよ明日は、商工会での打ち合わせだ。

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