表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で社長になる。   〜5歳児から始める異世界ビジネス革命〜  作者: Mizunoki.Kawai


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

112/266

鉱山販売員の顔合わせ

## 112話 鉱山販売員の顔合わせ


朝の炎の鍋亭のテーブルには、今日も山盛りの朝食が並んでいる。


焼きたてのパンに、具だくさんのスープ。

香ばしいソーセージと、ふわふわの卵料理。山盛りだ。

俺とレノ、父さんと母さんの4人で、それを片っ端から片付けていく。


いつもの光景だ。


朝食が一段落してきたところで、母さんがカップを置きながら口を開いた。


「それじゃあ、テンドーさんが一緒に行ってくれるのね。よかったじゃない」


「うん。やっぱり4人だけじゃ、アインズさんもエッタさんも心配だったみたいだし、父さんと母さんに相談しておいてよかったよ」


父さんはパンをちぎりながら、ふっと笑う。


「お前は、大人でもできないようなとんでもないことを、平然とやってのけるが……変に常識的なところが抜けているからな」


「う……」


反論しづらい。


〈うん、自覚はある〉

〈5歳ってことを忘れて、この異世界ではしゃぎすぎてるんだよな〉

〈最近は前世の夢もあんまり見なくなったし……今が楽しくて、充実してるってことなんだろう〉


レノが、ナイフとフォークを揃えながら真面目な声で言う。


「そのあたりは、王都の学院まで行って学んできた身として、しっかりサポートさせていただきます」


「そうよ」


母さんが楽しそうに目を細める。


「私たちには、なんでも相談しなさい。ゴードンが全部の責任を取ってくれるしね」


「おい、サラ」


父さんが苦笑する。


「はは……みんな、ありがとう」


そう言った瞬間、胸のあたりが少し温かくなった。


〈この家に生まれてきたのが、この異世界転生の一番の幸運だな〉


そのとき――


「おーい、ライムいるかー!」


下の階からテトの声が響いた。


「いるよ! 居間まで上がってきて!」


俺が返事をすると、階段を駆け上がる足音がして、元気なニキビ顔がひょいっとのぞいた。


「お、お邪魔しまーす。食事中にすまねぇ」


母さんが笑顔で手を振る。


「いいのよ。ちょうど今、食べ終わって話してたところだから」


テトは少しほっとした顔をしてから、懐から封筒を取り出した。


「ダリオさん――鉱山の職員――から手紙で返事が来たよ。

 販売員やりたいって人、集まったってさ。都合のいいときに来てほしいって」


「早いね!」


思わず身を乗り出してしまう。


〈さすが、半日で銀貨3枚の破壊力〉


「そっか。それなら、エステル訪問もあるし……今日のうちに行っちゃおうか」


「販売員のことなら、私も話をしに行くわ」


母さんがすっと立ち上がる。


「流れの説明は、任せてちょうだい」


「ありがとう、母さん」


「では、馬車を回してきますので、少しお待ちください」


レノが席を立ち、身支度を整えに行った。


---


それから1時間後。


レノが馬をつないだ馬車を店の前に回してきたので、俺と母さん、それに御者役のレノの3人で鉱山事務所へ向かった。


今日の馬は、足の速い1頭だ。

金貨3枚で買った、炎の鍋亭きってのエース。名はセキトバだ! 俺が赤くもないけどそう名付けた。


〈さすがに金貨3枚の馬だけあって、馬力が段違いだ〉


石畳の道を、車輪が心地よいリズムで進んでいく。

店と市場を抜けて、やがて林の中の道へ。坂道に差し掛かっても全然へっちゃらだ。


「見えてきました」


前を向いたまま、レノが声をかけてくる。


小高い場所に、鉱山事務所の建物が姿を現した。


「じゃあ、行こうか」


馬車を止めて降りると、俺たちは事務所の扉の前まで歩いていった。


レノがノックして、声を張る。


「すみません。ダリオさん、いらっしゃいますか?」


中から足音が近づき、扉ががちゃりと開いた。


「あぁ、ライムさんにレノさん。手紙を見てすぐ来てくれたんですね! 助かります」


顔を出したのは、鉱山職員のダリオさんだ。

俺たちを見るなり、ほっとしたように笑う。


「そちらは……?」


「俺の母さんで、サラです。えっと」


そこで、少し言葉に詰まる。


〈母さんってなんて説明すればいいんだろ……〉


母さんが一歩前に出て、軽く会釈した。


「サラ=ハースです。街のほうでは、販売所の販売員の調整もしています。

 こちらでも、販売の流れなどの説明をさせていただきますね」


レノが、ほんの一瞬だけ「え、この人だれ?」みたいな顔をした。


〈大丈夫。俺は知ってる。うちの母さんは、『ちゃんと』もできる人なんだ〉


ダリオさんは、目を瞬かせてから、ようやく状況を飲み込んだようだ。


「そ、そうですか。しっかりした大人の方もいるのですね。

 てっきり、子どもばかりかと思っていましたよ」


〈こいつ、今さらっとディスったな〉


母さんは、笑顔のまま受け流す。


「えぇ。夫は街で飲食店の経営をしています。

 私たち夫婦で、しっかり支えながらやっています」


そう言ってから、俺の背中に軽く手を添えた。


「でも、この炎の夜明け商会は、紛れもなく、ここのライムが運営している商会です。

 どうぞ、よろしくお願いしますね」


「え、えぇ……もちろんです」


ダリオさんが、少し焦ったように背筋を伸ばす。


そこで、レノもグイっと一歩前に出た。


「私も、学院で学んだ身ですが――ライムさんの手腕に惚れ込んで、ここで働いています。

 そちらにご迷惑をおかけしないよう、努めさせていただきますので、よろしくお願いします」


「が、学院生……ですか。す、すごい。いえ、すみません。そんなつもりではなかったのですが……失礼しました」


ダリオさんの声が、さっきより小さくなっていってる気がする。


〈2人の圧がすごすぎて、ダリオさんがちっちゃくなってるな……〉


「ダリオさん、すみません」


俺は慌てて口を挟んだ。


「誰だって、5歳の子どもが商会代表って聞いたらびっくりしますよね」


ダリオさんの肩が、ほんの少し楽そうに下がる。


「で……お手紙の件なんですけど」


「あ、はい!」


ダリオさんは姿勢を正し直した。


「やりたいという声が多かったので、人当たりのよくて計算のできる者を4人に絞って、販売員を任せようと思っています」


〈やっぱり、半日で銀貨3枚は破格だもんな〉


「やりたい人が多かったんですね」


俺は頷きながら聞く。


「その人たちは、普段はどれくらいの給金で働いてるんですか?」


質問した瞬間、ダリオさんの視線が泳いだ。


「そ、それはちょっと……」


〈まぁ、さすがに言いづらいよな〉


「で? いくらなの?」


母さんの声が、すっと差し込んだ。


ダリオさんが、びくっと肩を震わせる。


「……銀貨4枚です」


一拍おいて、母さんが静かに頷いた。


〈母さん怖い……今の一言だけで、ダリオさん完全に観念してた〉

〈それにしても安いな。危険手当もあるだろうに。やっぱりこの世界、肉体労働では稼げないんだな〉


「であれば、やりたい人が多いのも納得ですね」


俺は受け取るように言葉を続けた。


「は、はい。ですが、計算ができて、けんか……いえ、人当たりのいい者となると、だいぶ絞れまして」


〈大体、計算もできなくて喧嘩っ早い人が多いんだろうな〉


母さんが一歩前に出る。


「少しくらい元気が良いほうが説明のしがいがありますね。その4人はどこにいるの?」


「?もうすぐ出勤しますので、少しお待ちください」


---


それから少しして、ガタイのいい兄ちゃんたちが4人、事務所にやってきた。


みんな、日焼けした腕に筋肉がついていて、いかにも鉱夫という感じだ。

その彼らを前に、母さんが堂々と説明を始める。


弁当が届く時間。

受け取る場所。

代金の扱い方。

売れ残りの数え方。

鉱山内での声かけと、強引な売り方まで。


いつの間にか、いつもの、炎の鍋亭の「姉御モード」だ。


「じゃあ、明日から弁当は200食で行くわよ!いい?必ず全部売り切るのよ!」


説明を一通り終えると、母さんは腰に手を当ててビシッと指をさした。


「あんたたち、教えたとおりに、ちゃんとやるのよ!」


「へい! 姉さん、承知しました!」


4人が、声を揃えて返事をする。


〈あ、もう地元の先輩後輩みたいなノリだ。完全に手なづけてる〉


さっきまで事務所で縮こまっていたダリオさんも、どこか羨ましそうな顔でそれを見ている。


「じゃあ、ダリオさん。よろしくお願いします」


俺は改めて向き直る。


「追加が出たり、困ったことがあれば、配達担当に言ってください」


「こちらこそ、よろしくお願いします。

 弁当が来ることで、鉱夫たちの士気も上がるでしょうしね」


ダリオさんは、今度ははっきりした声で頭を下げた。


事務所を出て、外の空気を吸い込む。


ノール川から吹いてくる風が、冷たくて気持ちいい。


〈よし。これで鉱山の販売員も固まった〉

〈弁当は、計画どおり明日から1日1000食体制だ〉


エステル行きの準備と、新卒採用。

銅山と精錬所の構想。

そして、鉱山で働く人たちの昼飯事情。


全部が少しずつ、線でつながっていく感覚がある。


「さ、帰るわよ」


母さんが振り返る。


「うん」


俺は頷いて、レノの待つ馬車へと歩き出した。


こうして、鉱山販売員との顔合わせは、無事に終わったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ