## 11話 頑固な父の説得
## 11話 頑固な父の説得
「父さん、母さん。ちょっと、相談したいことがあるんだ」
俺がそう切り出すと、父さんは、昨日母さんから「面白い話が聞ける」と予告されていたせいか、怪訝な顔でお茶をすすり、俺の出方を待った。
俺はテーブルに、昨夜書いた「プレゼン資料」――羊皮紙――を広げる。5歳児の拙い――フリをした――文字で、今のやり方と、新しいやり方(俺の提案)のメリットを並べて書いたものだ。
「まず、今の『薪の仕入れ』と『酒樽の返却』についてなんだけど――」
俺は、マルタのおっちゃんの従業員が3人がかりで運んでくる現状と、俺とテトが樽を何度も往復して運んでいる現状を説明した。
「――そこで、こうしたいんだ」
組合での馬車のレンタルと、テトへの御者の委託、そしてマルタのおっちゃんからの値引き交渉について、数字を交えて話し始める。
だが、頑固な父さんが、黙って最後まで聞いているはずがなかった。
「待て」
低い声が俺の言葉を遮る。
「マルタさんが、銀貨25枚も値引きするだと?……ライム、お前、無理やり値引きさせたんじゃないだろうな」
鋭い目が、俺が取引先を脅した可能性を疑っている。
「違うよ」
俺は即答する。「マルタのおっちゃんも、最近忙しくて『配達が大変だ』って言ってたんだ。配達に3人も人を割かれるのが厳しいって。だから、こっちが馬車で取りに行けば、向こうも3人分の手間が浮く。お互いWin-Winなんだって話したら、納得してくれた」
「……うぃん、うぃん……」
父さんが、聞き慣れない単語に眉をひそめる。
「それに、うちのテトは、本当に馬車の御者ができるのか。安全面はどうなんだ」
「昨日、テトに確認したよ。実家が農家で、馬で荷車はよく引いてたって。それに、最初は俺も一緒に行って、ちゃんとできるか確認する」
「5歳のお前が、15のテトをか?」
「……俺が見て、危なそうだったらすぐに父さんに言う」
父さんは「ふん」と鼻を鳴らした。
「そもそも、薪を運ぶ馬車を、ベック爺さんの酒樽の返却に使っていいのか」
「組合で借りるのは半日って約束だから大丈夫。薪を積んで店に降ろした後、そのままベック爺さんのところに空き樽を返しに行けば、一回で全部終わるよ」
父さんは、なおも食い下がる。
「テトへの駄賃、銀貨5枚は高いんじゃないか」
「高くないよ。それは『料理見習い』じゃなくて、『御者』っていう専門の仕事のお金だから。組合で御者付きの馬車を借りたら、馬車代の他に銀貨10枚が余分にかかる。テトに頼めば、テトは銀貨5枚もらえて大喜びだし、店は銀貨5枚安く済む」
俺の淀みない回答に、父さんはついに沈黙した。話がうまくいきすぎて、逆に戸惑っているようだ。
「………」
父さんは、俺が書いた羊皮紙と、俺の顔を、交互にじっと見つめる。
〈まずい、ここで『5歳のくせに』とか『小賢しい』とか思われたら……〉
俺は、最後の切り札を切った。
「お、俺……父さんが喜ぶと思ったんだ!」
「!」
「最近、店は忙しいのに、父さんは夜遅くまで仕込みをしてるし、母さんも計算が合わないって悩んでたから。これなら、みんなが少し楽になって、お店にお金も残るかなって……」
俺がそう言うと、待ってましたとばかりに母さんが身を乗り出した。
「そうよ、あなた!」
「お、おい、サラ」
「ライムは、マルタさんも、うちのテトも、それに私やあなたのことも考えて、この小さな頭で一生懸命、知恵を絞ったのよ!うちの子は信じられないくらい優秀なのよ!あんたもガツンと褒めてやりなさい!」
母さんの強力な援護射撃に、父さんはぐっと言葉に詰まる。しばらく腕を組んで目を閉じていたが、やがて、重々しく息を吐いて目を開けた。
「……よし、わかった」
「!」
「その話、お前が進めろ。来週からだ」
「本当か、父さん!」
「ただし、何かあったら、どんな小さなことでもすぐに俺に言え。俺が責任を取る。……ライム」
父さんは、俺の頭にゴツい手を置いた。
「よくやった」
〈よっしゃああ!〉
心の底からガッツポーズが出た。
「良かった!それじゃあ父さん、今日の『お使い』、一緒についてきてくれる?組合とマルタのおっちゃんに、父さんからも挨拶して、来週からのことをちゃんと話したい」
「……わかった」
〈危なかった……。昨日のうちに母さんを巻き込んでおいて、本当に良かった〉
俺は、この世界でも「根回し」が最強のビジネススキルであることを、あらためて確信するのだった。




