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異世界で社長になる。   〜5歳児から始める異世界ビジネス革命〜  作者: Mizunoki.Kawai


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銅山と人集めの話

## 109話 銅山と人集めの話


馬車の車輪が、がたん、と石を踏む音がした。

御者台ではテトが手綱をさばき、その隣にレノが腰掛けている。

俺は荷台の板に背を預けて、ゆらゆら揺れながら、さっき鉱山で聞いた話を反芻する。


〈……よし。いろいろ聞けたな〉


一番大きかったのは、「鉱山の生の情報」をもらえたことだ。

鉱山は、領が運営している。

目的は、鉄。

銅は、あくまで「おまけ」という印象だった。


〈だから、銅山の運営主体を金貨1200枚で募集なんてことになるんだよな〉


銅は銅貨や一部の道具に使うけれど、道具にするなら正直、鉄のほうがいい。

重くても丈夫で、刃物にもなるし、壊れても修理しやすい。


〈そして、おそらく製鉄所も領の直営……か、少なくとも領の強い影響下だろう〉


鉱石をノール川沿いの基地まで手押し車で運んで、船でエステル方面の製鉄所へ。

そこから先は、王国中に広がっていく。


〈このラインに、俺たちは『後から乗せてもらう側』だ〉


もし、ガラワ組との共同で銅山をやるとしたら――。

人を雇って銅鉱石を掘って、領のルートに乗せて売る。

それだけのビジネスになる。


〈製錬所なんて、ガラワ組に一から作れるとは思えないしな〉


作ったとしても、燃料の調達、炉の管理、技術者の確保……。

それを全部、あの組が回せる未来は、どうしても想像しづらい。


〈つまり、掘って売るだけ。利益率は、かなり低い〉


馬車が少し揺れて、俺はバランスを取りながら息をついた。


「ライムさん、どうかしましたか?」


御者台から、レノの声が降ってくる。


「あ、ごめん。さっきの銅山の話のこと、考えてた」


俺は荷台から体を起こして、前の二人に聞こえるように話し始めた。


「たぶんなんだけどさ。銅山をガラワ組と一緒にやっても、利益はそんなに出ないと思うんだ」


「と、言いますと?」


レノが少し体をひねって、こちらを振り返る。


「鉱山も製鉄所も、主役は鉄だろ? 銅はおまけ。

 で、鉱石の運搬ルートも、製鉄所も、ぜんぶ領の管理。

 ガラワ組ができるのは、『人を雇って銅を掘るところまで』なんだ」


俺は、さっき頭の中で組み立てた理屈を、そのまま言葉にしていく。


「製錬所を新しく作るにしても、技術も設備も燃料の調達も、全部一から。

 結局、銅鉱石をノール川まで運んで、領に買ってもらうだけの形になると思う」


レノはしばらく黙って、ゆっくり頷いた。


「……なるほど。言われてみれば、そうですね。

 銅山が売りに出されて、すぐに買い手がつかないのも、うなずけます」


「うん。だから、たぶんガラワ組は、人を安くこき使って小銭を稼ぐくらいしか考えられないと思う」


「それは……続かないでしょうね」


レノが苦い顔をする。


「だよねえ。だからさ――」


俺は、荷台の縁に片手を置いて、山の方角をちらりと振り返った。


「ガラワ組が銅山を引き受けて、鉱夫たちの不満がたまってきたところで……お譲りいただく」


レノが、ほんの一瞬だけ沈黙してから、ふっと笑った。


「ライムさん……怖いですよ」


「いや、鉱夫の人たちが可哀想だからね」


俺は肩をすくめる。


「ちゃんと働いてる人たちが、ずっとギリギリの生活をさせられるのはおかしいだろ?

 ガラワ組だって、うまくいかなかったなら諦めがつくだろうし。もちろん、ちゃんとお金は払うよ」


レノは、少し困ったように笑ってから、真面目な声に戻る。


「見事な、うぃんうぃん、ですね」


「うん。で、問題はその後なんだ」


「その後?」


「うちが普通に運営するだけじゃ、あんまり意味がないと思っててさ」


俺は胸のあたりを、ぎゅっと握るみたいにしながら言った。


「正直、『鉱石の利益がちょっと手に入る程度』なら、やる意味がないんだ。

 俺は――銅を、がっつり使いたいんだよ」


頭の中で、言葉が次々に浮かぶ。


〈モーター! 発電! 電線! 機械化!〉


見たことのない機械。

前世で当たり前だった電気のある世界。

それを、今のこの世界で形にするイメージ。


「だから、精錬所も作るよ」


気付いたら、口が勝手に動いていた。


「これは絶対」


「マジですか」


レノが素で返してくる。


「うん。大マジ」


俺は笑いながら言い切った。


「銅鉱石を売るだけじゃなくて、自分たちで精錬して、銅として使う」


〈もちろん、いきなり全部は無理だ。でも、やる前提で進めたい〉


「だから、そのためにも人を集めないと。もっと、もっと」


御者台のテトが、そこで振り返った。


「ライム、人は集めたいって、はじめから言ってたもんな!」


「そうなんだよ」


俺は笑って、荷台から身を乗り出す。


「今までは、知り合いと紹介でなんとか回してきたけど……そろそろ、それだけじゃ足りない気がする」


レノが少し考えるように視線を落とし、それから顔を上げた。


「いっそのこと、採用するのはどうでしょう」


「採用?」


聞き慣れた言葉だけど、この世界ではまだあまり聞かない響きだ。


「はい。学校で、卒業予定の生徒を募るんです。

 来年の3月に卒業する子たちの中から、志もなく、何となく役所や家業を継ぐつもりの子たち……そういう人たちを狙ってみるのはどうでしょう」


〈……新卒採用だ〉


頭の中で、前世の会社説明会の景色みたいなものが、ふっと蘇る。


〈なんで今まで、思いつかなかったんだ〉


「それ、いいね」


気付いたら、声が弾んでいた。


「学校と繋いでもらって、説明会をやって、うちの仕事をちゃんと話す。

 『世界の夜明けの灯火になりたい』っていう話も、ちゃんと伝えられるし」


レノは、少し照れくさそうに笑った。


「ありがとうございます。ノーラ……姉がよく、『うちの支部にも、なんとなく流されて就職してくる子は多い』と言っていたので……。

 目的意識がある場所のほうが合う子も、きっといると思うんです」


「うん。帰ったら、計画から作ろう」


俄然、やる気が湧いてきた。


鉱石運搬の鉄道。

超高効率の精錬所。

その先にある、電線と灯りと、誰も見たことのない機械たち。


〈何をやるにしても――人が必要だ〉


「はい!」


レノが、きりっとした声を出した。


「では、テトさん。炎の夜明け商会本部まで、飛ばしてください!」


「おう、任せろ!」


テトが笑い、手綱を鳴らす。


馬車は、夕日に向かって速度を上げた。

冷たい風が頬に当たるのに、胸の中だけは、不思議と熱かった。

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