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異世界で社長になる。   〜5歳児から始める異世界ビジネス革命〜  作者: Mizunoki.Kawai


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鉱山との初顔合わせ

## 108話 鉱山との初顔合わせ


朝の炎の鍋亭には、いつも通りのいい匂いが漂っている。


大きな皿に山盛りになったスクランブルエッグとベーコン、それに煮豆と焼き立てのパン。

父さんと母さん、そして俺とレノは、黙々と――というよりガツガツと、それを胃の中に収めていく。


「今日は鉱山に行くんだっけ?」


パンをちぎりながら、母さんが何気ない調子で聞いてきた。


「うん。レノとテトと鉱山に行ってくるよ。お弁当の販売員のことと、鉱山の様子を聞きに行ってくる」


俺がそう答えると、母さんはうんうんと頷く。


「弁当も街では完売だし、鉱山でも喜ばれるわよ」


〈現場で働いてる人たちだもんな。ちゃんとしたご飯は絶対うれしいはずだ〉


父さんがマグを置いて、ふと思いついたように口を開いた。


「手土産にいくつか持っていったらどうだ?」


〈父さんナイスアイディア〉


「それはいいですね。いくつか持っていくようにします」

レノもすぐに賛成してくれた。


「じゃあ、あとでエッタさんに頼んでおくよ。5個もあれば足りるかな」


そう言いながら、俺は最後のベーコンを口に放り込む。


朝食を終えると、それぞれがいつものように片付けと開店準備に散っていく。

俺とレノは帳場のほうで簡単な持ち物の確認をしてから、テトを探しに外へ出た。


---


「おまたせ」


裏手の馬小屋の前で、テトが手綱を整えながら振り向く。


「おう、準備できてるぜ。弁当も受け取ってきた。5個な」


荷台の前のほうには、きちんと包まれた弁当がまとめて置かれている。

ミナの字で「鉱山の人たちへ」と書かれた、簡単なイラスト付きの札まで付いていた。


「ありがとう。じゃあ、行こうか」


俺とレノが馬車に乗り込むと、テトはひょいと御者台に飛び乗った。


馬車で街道を西へ向かって飛ばすこと、1時間少し。

森を抜けた先に、むき出しの土と岩の山が姿を現す。


「……本当に、山が丸ごと削られてる感じだな」


〈街のほうからだと分かりにくいけど、近くで見ると迫力がある〉


山の手前には、木材で組まれた建物がいくつも並んでいる。

そのうち一つ、少ししっかりした造りの建物が、鉱山の事務所らしい。


「見えてきたよ。職員の人とはここで待ち合わせしてるんだ」

テトが御者台から振り返る。


「ここから少し行ったところに鉱山の入り口があるみたい」


この事務所の手前に、俺たちの販売所用の土地を融通してもらっている。

その確認のために、ここには何度か来ていた。


〈今日は、いよいよ中の人とちゃんと話す日か〉


馬車を脇に寄せて止めると、俺たちは弁当の包みを1つずつ手に持ち、事務所の中へと足を踏み入れた。


中は、まさに「事務所」という感じだ。

大きな机と書類棚、壁には簡単な地図や表が貼られていて、思ったよりも人が多い。


「すいませーん。炎の夜明け商会の者です。ダリオさん、いますか?」


テトが受付らしきカウンターに声をかけると、奥からがっしりした体つきの男が顔を出した。


「テトさんですね。こんにちは。皆様も。お待ちしていました」


胸元の札には「鉱山事務 ダリオ」と書かれている。


〈この人がダリオさんか。思ったより柔らかそうな人だ〉


「炎の夜明け商会の代表人、ライム=ハースです。今日はお時間ありがとうございます」


俺が頭を下げると、ダリオさんは目を丸くした。


「聞いていましたが、本当に少年なんですね。はじめまして、ダリオです。こちらへどうぞ」


俺たちは案内されて、奥の来客用の部屋へと通された。


簡素な机と椅子が並ぶ部屋の真ん中に腰を下ろすと、ダリオさんが改めて口を開く。


「弁当の件ですね。今日はわざわざありがとうございます。街でテトさんが販売しているところを見かけてね。見ての通り、ここは街からも離れていて何もないので、今回はありがたいです」


「はい。販売所の場所を手配いただいてありがとうございます。本当に無料でいいんですか?」


「はい、場所だけなら整えればいくらでもありますので」


〈土地は余ってる、ってことか〉


「分かりました。では、お言葉に甘えさせてもらいます。……あ、その前に、これよかったら」


俺は持ってきた包みを差し出した。


「街で売っている弁当です。まずは味見をしてもらえたら」


「おお、これはありがたい。あとで皆でいただきますよ」


ダリオさんが嬉しそうに受け取るのを見届けてから、俺は本題に入る。


「じゃあ、細かいところなんですけど――」


そこで、レノが一歩前に出た。


「はい、では私から」


レノは手元のメモを軽く整えながら、落ち着いた声で続ける。


「販売についてですが、立地的にこちら側から販売員を手配するのが難しくてですね。できれば、そちらの人員やシフトを確認しつつ、販売員を融通していただけないかと考えています」


「そうですね、遠いですからね」


ダリオさんは少し顎に手を当ててから、現在の状況を説明してくれた。


「今こちらは、鉱夫が350人ほどいます。早朝と午後で二手に分かれて作業をしています」


〈やっぱり300人以上いるんだな。二交代制か〉


「であれば、何人か交代で入れるように、午後の部の人で早くから働ける人を募ってもらうことはできますか?」


俺は、事前に考えてきた条件を口にする。


「給金は銀貨3枚で、販売員は2人体制で考えています。休みたい時もあるでしょうから、複数人で交代できる形が一番いいと思います」


「半日で、銀貨3枚もですか。やりたい人は多いでしょうね」


ダリオさんが少し目を見開く。


「計算できる人、という条件を付けると少し絞られるでしょうが……それでも候補はいるはずです」


〈そうか、計算が苦手な人もいるんだよな〉


レノが続けて頭を下げる。


「お願いします。販売所はもうすぐ完成しますので、あとは人が揃えばすぐに開始できます。他に、欲しいものや要望などはありますか?」


「分かりました。……他ですか」


ダリオさんは少し考えてから、指を折りながら答える。


「鉱石の輸送隊は別でいるのですが、ここで売っていたら喜ばれそうなのは、細かい物資でしょうね。水と軽食、布なんかも。まぁ、あれば、ですが」


〈全部を一気に取り込もうとしなくてもいいか。今は水くらいからでも――〉


「輸送隊って、どんな感じなんですか? どこに運ぶんですか?」


俺は、前から気になっていたことをそのまま聞いてみた。


「え? えぇと、輸送隊は先ほどの350人の中から、50人ほどが交代で担当しています」


ダリオさんは慣れた口調で続ける。


「手押し車でノール川のほうにある基地まで鉱石を運んで、そこから船でエステル方面にある製鉄工場へ移送します。そこから先は、いろんなところに行きますね」


〈おお、製鉄工場!〉


川と船を組み合わせて、鉄の道が伸びている。

頭の中で、街道と川と工場の位置が線で繋がっていくのが分かった。


「すごいですね。みんなで人力で運んで、船で……。工場の燃料は?」


「え……と、こちらは木材も豊富なので、木炭にして船で移送しているみたいですよ?」


〈木材でやるのか。いやぁ、参考になる〉


レノが苦笑しながら口を挟む。


「すいません、質問ばかりで。最近は銅山も見つかったとかですが」


「いいんですよ。こちらも何かの役に立てばうれしいからね」


ダリオさんは苦笑しつつ、頷いた。


「あぁ、そうだね。最近増員があって、急激に人が増えてね。ただ、正直、鉱夫だけ送られてきても手が回っていないところもあるから、運営主体を探しているんだ。金貨1200枚で募集をしているよ」


〈金貨1200枚で、運営主体……これがガラワ組の話に繋がるのか〉


「おじさんのところが運営しなくていいんですか?」


俺が思わず聞くと、ダリオさんは肩をすくめた。


「それは問題ないよ。基本は鉄が大量に必要だからね。銅はおまけ程度だよ。どこかが頑張って流通してくれるなら、そっちを買ったほうが助かるんじゃないかな」


少しだけ間を置いて、付け足す。


「私は領の役人の端くれだからね。詳しいところは偉い人たちの仕事さ」


〈この人は現場寄りの役人、って感じか。そして銅の用途は通貨と道具くらい……だから、鉄のほうが需要が多い〉


「いろいろ聞いちゃってごめんなさい」


俺は姿勢を正し、改めて本来の目的に戻る。


「まずはお弁当を、200食から始めます。また何かあれば、相談に乗ってください!」


「こちらこそ、これからよろしくお願いします」


ダリオさんは笑って頷いた。


「人員が整ったら、手紙で知らせますね」


「何から何までありがとうございます」

テトも頭を下げる。


こうして、炎の夜明け商会と鉱山との最初の打ち合わせは、いい形で終わった。


---


事務所を出て、馬車に戻る道すがら、冷たい風が頬を刺した。


「どうだった?」

御者台に先に飛び乗ったテトが、後ろを振り返る。


「上々ですね。販売員も問題なさそうですし、弁当も200食でスタートできます」


レノがそう言って、手帳を閉じる。


「それに――」


俺は振り返って、遠くの山肌を見上げた。


〈銅山の話も、ちゃんと聞けた。金貨1200枚、運営主体……ガラワ組の話に繋がる〉


「まずは弁当ですね」


俺は小さく笑って、馬車に乗り込む。


「うん。目の前の仕事をきっちり回して、その先で銅山も――だ」


テトが「おう!」と返事をして、手綱を鳴らした。


馬車がきしむ音を立てて動き出す。

帰り道の空気は冷たいけれど、胸の中は、さっきより少しだけ熱かった。

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