ランチボックス作戦ver2
## 103話 ランチボックス作戦ver2
「じゃあ――この地図を、ちゃんと数字でまとめよう」
ここから先は、俺の仕事だ。
父さんがぽつりと言う。
「ん?もうまとまってるじゃないか」
「うん、地図としてはね」
俺は笑って首を振った。
「ここからは、お金と、誰が何をするかを1個ずつ確認していくってこと。仕組みと数字を決めておかないと、続かないからさ」
まずは、今見えている地図のどこに、どれくらいのお金と人が動くのかを、はっきりさせる。
「まずは――ランチボックス作戦から」
紙の端に、さらさらと数字を書き出していく。
「弁当は、当面1日1000食を目標にしよう。20日稼働で、売上は金貨120」
母さんが思わず声を上げた。
「120!?」
「うん。1食銀貨6枚で1000食だから、1日銀貨600枚。それを20日だから、金貨120って計算だね」
〈売上も、もう1つの事業として見えるレベルだな〉
「で、製造コスト。食材と薪と調味料、それに弁当箱の洗浄込みで――だいたい金貨60かなって見てる」
レノがうなずく。
「はい。余裕を持たせた見積もりで、食材と薪代で銅貨2、洗浄で銅貨1で、そのくらいですね」
「人件費は――」
俺は指を折った。
「エッタさんとミナで、月金貨2。母友ネットワークの人たちが、今のところ8人で金貨4.8。販売所に立つ人が3か所で3人、月金貨1.8。1000食なら、この人員かな」
合計を書き込んで、ペンの先でとんと叩く。
「それに、製造所の賃料が金貨2。全部合わせて、粗利は月金貨50。これが、ランチボックス作戦のざっくりした数字だね」
〈売上から全部引いても、50残る。フル稼働すれば、その倍以上。ちゃんと回る事業になってる〉
俺はクララの方を見る。
「クララ。洗い屋さんは、弁当箱1000個の洗浄を、製造所の方に来てやってくれそうかな?」
クララは胸に手を当てて、うなずいた。
「うん!聞いてみる!」
〈元気のいい返事だ〉
今度は、母さんを見る。
「母友さんたちは、集められそう?今8人だから、販売所の3人と交代要員を考えて、最低でも追加で10人くらい欲しい」
母さんは、まるで当然だと言わんばかりに笑った。
「母友はあと10人は余裕ね。声をかけておくわ。昼だけ、弁当だけって言えば、手を上げる人は山ほどいるもの。むしろ、入りたい人を断る側になるかもしれないわよ」
〈母友ネットワーク、やっぱりおそろしい〉
母さんは、ふっと表情を引き締めた。
「ただね――鉱山は、母友じゃ引き受け手はいないと思うわ。あそこは遠いし、子どもを置いていくのは不安だから」
テトが、だよな、と小さくうなずく。
「鉱山職員の人とは顔見知りだから、俺が聞いてみるよ。中から手伝ってくれる人がいないかどうか」
「ありがとう、テト。じゃあ、俺も話したいから――面会の約束、取ってほしいな。鉱山側の人と、ちゃんと話しておきたい」
「了解!」
テトの返事は、いつも通り気持ちいいくらい即答だ。
「メニューの方は――」
俺は視線をエッタさんに移した。
「今のところ、3種類まではいけるんだよね?」
エッタさんは、少し指折りしながら考える。
「ええ、3種類はいつでも出せる形になってるわ。ただ、将来的には全部で10種類くらいのレパートリーは欲しいかしらね」
「そうだね……」
俺は少し考えてから、首を振った。
「まぁ、始めは5種類くらいでいいと思う。まずはそれで、様子を見よう」
父さんが口を挟んだ。
「ああ、それくらいなら、いくつかアイデアもある。エッタさん、仕込みの段取り、相談させてくれ」
「もちろん。ゴードンさんの料理なら、いくらでも活かしようがあるわ」
ふたりの料理人チームが、目を合わせてうなずく。
〈味は、完全にこの二人に任せていい〉
「お店の看板も欲しいね」
俺がそう言うと、エッタさんがすぐ反応した。
「それならミナに言うわ。きっと喜ぶわよ。炎の夜明けランチボックスって、燃えるようなの描いてくるんじゃない?」
クララも勢いよく手を挙げる。
「お手伝いする!かわいい部だからね!」
テーブルの空気が、少しだけ和らいだ。
「じゃあ次、投資の話をしようか」
俺が言うと、レノが紙束の中から新しい1枚を取り出した。
「鉱山の小屋が、建設費金貨5です」
「土地は?」
「未確認です。ただ、空き地が多いことは聞いています。鉱山側の管理者に、正式に確認が必要ですね」
「そっか。じゃあそこも、鉱山職員の人たちと話すときにまとめて聞こう」
レノは別の欄を指さした。
「それから弁当箱。200個で銀貨80。前回と同じ条件で、2000個作るとすると、金貨8です」
「そうだね。本当は、最初から2000個もいらないかもしれないけどね」
〈箱が足りないから売れません、は一番やっちゃいけない〉
「うん、2000個いこう。これからも増やす気でいるしね。これはマルタのおっちゃんに注文しておくよ」
レノがうなずく。
「よし。じゃあ――母さん。不動産屋には、できるだけ早く行って、物件を押さえてきてくれる?なくなったら、さすがに泣くから」
母さんは、にっと笑った。
「任せなさい!今日の夕方、さっそく行ってくるわ」
父さんも腕を組んだまま、静かに口を開く。
「俺も行こう。2号店の外観も気になるしな」
〈あ、もう2号店って言ってる……〉
なんだかんだで、父さんはこういうところ、乗りが早い。
「うん!二人に任せる。賃料はこっちで計算済みだから、条件が変わらないかだけ見てきて」
「了解!」
父さんと母さんは、同時にうなずいた。
ひと通り話し終えたところで、俺はペンを置いた。
「――ランチボックス作戦は、ひとまずこんなところかな」
そのとき、クララがぴんと手を挙げた。
「はい!」
〈出た。クララまとめ〉
みんなの視線が自然とクララに集まる。
クララは指を1本立てた。
「1つめ!ランチボックスは、1日1000食が目標!20日で金貨120。ごはんの山もり!」
指が2本になる。
「2つめ!作る人は、エッタさんとミナ、それから母友が8人!交代要員が追加で10人!洗うのは洗い屋さんが製造所に来て、じゃぶじゃぶする!」
3本目。
「3つめ!売る場所は3つ!市場のそばの2号店、ベックお爺さんの酒屋の前、それと鉱山の小屋!小屋は、売る人は要確認!」
4本目。
「4つめ!箱は2000個!マルタさんにお願いして、いっぱい作ってもらう!」
最後に、ぎゅっと握りしめる。
「5つめ!お金はちゃんと残る!金貨50が、みんなで次に進むためのたからもの!」
言い終えると、クララは胸の前で手をぽんと合わせた。
「――以上!あってる?」
母さんが吹き出し、エッタさんも笑う。
「完璧よ」
「ほんと、社長とナンバーツーって感じだわ」
俺は大きく息を吸って、うなずいた。
「じゃあ――次は、配達事業の方も、同じように棚おろししていこうか」
炎の鍋亭のテーブルの上で、会議はまだ続く。




