頼もしき二人と職人たち
## 101話 頼もしき二人と職人たち
【ゴードン視点】
2階の居間から、
「よし!行こう!」
と、クララの元気な声が響いてきた。
まったく、あの子はいつでも全力だ。
あの会議のあと、ライムが熱を出して寝込んでしまった。
無理もない。あの歳で、まるで大商会の当主みたいなことをやっている。
だが、商会は止まっちゃいない。
サラとテトは情報集めをしてきたみたいだ。
今日は店も休み。
あの2人が動き出すというなら――
〈顔を出しておいた方がいいか〉
そう考えたところに、ドカドカと階段を降りてくる足音。
「2人とも、どこか行くのか?」
クララがぴょこっと顔をのぞかせた。
「マルタさんとベックお爺さんのところに、作戦会議!」
その横のレノを見ると、俺の意図を汲んで、落ち着いた声で説明してくれる。
「薪屋さんには配達と小屋建設のご相談を。酒屋さんには配達と販売所の件を話しに行きます」
なるほど、もう骨はできているらしい。
「わかった。俺も今日は手が空いてる。一緒に行くか!」
「子どもだけで行くのもどうかと思っていました。ご一緒いただけると助かります」
あの2人が相手なら、今さら舐められる心配はないだろう。
だが、間に大人が1人いるだけで、話は格段に通りやすくなる。
まず向かったのは、マルタの薪屋だ。
――ガン、ガン、ガン。
薪割りの音が路地に響く。
山と積まれた薪に向けて、いつもの声。
「マルタさーん!こんにちは!」
クララが元気いっぱい叫ぶ。
「おう、嬢ちゃん!……それに、レノにゴードンじゃねえか。なんだその取り合わせは、迷子か?」
マルタが斧を肩に担いで、ガハハと笑った。
「迷子のわけねえだろ」
俺がそう返すと、クララが一歩前に出た。
「ライムが熱出しちゃってね!代わりに作戦会議しにきたの!」
「おう、あの坊主も人並みに子どもなんだな。安心したぜ」
マルタは斧を立てかけ、腕を組んだ。
「で?話ってのはなんだ?」
クララが指を2本立てる。
「配達がどれくらい困ってるかと、小屋建ててほしいんだ!」
「この前のテトの話の続きか。で、小屋?」
ここからはレノの出番だ。
「まず配達の方ですが――」
レノは紙をちらっと確認してから口を開いた。
「薪の定期配達が1日10〜20件。そのほか、大きな品物の搬入が月に数件。現状、それで人手が取られている、と」
「ああ。うちの若えやつらが丸1日潰れることもある。困ってるっちゃ困ってるな」
マルタは、欠けた爪をじっと眺めながら言う。
「炎の夜明け商会の配達部隊が一手に引き受ければ、手間は大きく減るはずです」
「ほう。それで、いくらでやるんだ?」
マルタの目が、急に商売人の光になる。
「1日で銀貨30枚くらいでやってくれんのか?」
クララが首をかしげた。
「え?炎の鍋亭のときは銀貨25枚引いてくれたんでしょ?1回25枚じゃないの?」
マルタがニヤリと笑う。
「嬢ちゃん、なかなか度胸があるが、まだまだ甘ぇな。あれは単体の特価だ!1軒だけだからこそ、あの値だ」
「ええ〜?」
「まとめて任せるなら話は別だ。それなら手間はかかるが、うちのもんでやっちまったほうが安い」
ガハハと笑いながら、ちらっとこちらをうかがってくる。こいつ楽しんでるな?
レノは淡々と受け止めた。
「洗い屋は1日銀貨30枚。ただし、半日で終わります。これがお互いに得なラインでした」
そのまま続ける。
「薪屋の量なら、1日銀貨60枚。これが、マルタの薪屋さんが得をするラインです。違いますか?」
「……」
マルタの口元から笑いが消え、代わりに薄い笑みが浮かぶ。
「やるじゃねえか。よし、全部ひっくるめて1日銀貨60枚だ」
クララがすかさず口を挟む。
「大きいのも忘れてるよ」
マルタは、バレたかという顔をしている。
レノがさらりと付け加える。
「はい。大物は日々の銀貨60枚とは別で、1件銀貨50枚です。これはマルタの薪屋さんもかなり助かるはずです」
マルタは鼻を鳴らした。
「ちっ……抜け目ねえな。あの坊主と同じ顔でそういうこと言いやがる」
クララが勢いを取り戻したように続ける。
「これで『うぃんうぃん』だね!でね、小屋!」
「小屋ねえ……どのくらいのもんを欲しいんだ?」
レノが答える。
「10〜20平米。馬車が横付けできて、人が2〜3人入れれば十分です。お弁当の販売所に使います」
マルタは顎をさすりながら、さらっと言った。
「よし、金貨5枚で建ててやる」
「安い……ような気がしますが」
レノが確認すると、マルタは肩をそびやかした。
「いいんだよ、ちゃんと儲けの出る値段だ。それに道具置き場だの、増築だの、お前らなら、いずれまた言いに来る」
「……否定はできませんね」
レノが苦笑すると、マルタはガハハと笑った。
「先に貸しを作っときゃ、あとで面白えだろ?坊主のやることは見てて飽きねえからな」
「うちの子が、いつも世話をかけるな」
俺が言うと、マルタは肩をすくめた。
「世話なんざかかってねえよ。むしろあいつのおかげで面白くさせてもらってるのは、こっちだ」
「……そうか」
「それとな」
マルタはクララとレノを交互に見て、口の端を上げた。
「お前ら2人で来ると、ほとんどあの坊主だな」
確かに。
度胸のクララと、数字のレノ。
合わせると、ちょうどライムになる。
「条件はそれでいい。細けえ紙の話は、坊主が起きてからでもいいぜ。決まったら連れてこい」
「ありがとう、マルタ」
「おうよ!」
豪快だが、ちゃんと数字で見ている。
やっぱり、いい経営者だ。
次は、酒屋のベックのところだ。
ベックはもともと配達に困っていたのか、話を聞くとすぐに顔をほころばせた。
腰の具合もあり、樽や瓶の配達は負担が大きかったらしい。
レノが洗い屋と同じ銀貨30枚の案を出し、クララが昼の販売所として店先を借りたいことも合わせて話すと、ベックは何度もうなずいて、快諾してくれた。
助かるよと言いたげな顔で、こちらに頭を下げる。
俺の方も、少しだけ背筋が伸びた。
あいつの父親として、きちんとした話を持って来られたのは悪くない。
店を出ると、クララがくるっと振り向く。
「うまくいったね!」
クララはいつものようにルンルンだ。
「はい。これでだいぶそろいました。提案書を作れます」
レノが満足げにうなずく。
2人の姿を見ながら、ふっと思う。
〈ライムは、本当に心強い仲間を得たな〉
俺も負けてられん。
2号店?任せろ。
あいつが戻ってきたとき、ただ驚くだけで済むように――
俺は俺の仕事を、きっちりやっておこうと思った。




