ランチボックス作戦の全体図
## 100話 ランチボックス作戦の全体図
【レノ視点】
ライムさんが、あの大きな会議の後、体調を崩された。
無理もない。あれほどの負荷を、あの年齢で背負っているのだ。
幸いサラさんとテトさんは、会議の後の仕事を予定通りに進めてくれた。
あとは、集まった情報を整理し、判断可能な形にまとめるだけ。
そう。今日はその最終確認だ。
この頼りになる『ナンバーツー』と共に。
「では、お弁当事業の方ですが――」
「ランチボックス作戦だよ!」
「……ランチボックスですね」
クララさんは胸を張って頷いた。
本当にこの呼び方が好きらしい。
「製造所ですが、立地の良い方――組合そばの300平米の物件を第一候補にしたいですね。賃料の金貨3枚も、十分許容範囲です」
「んー、2つともはだめなの?」
「……2つとも、ですか?」
クララさんは当たり前のように首を傾げる。
「うん。1つだけでもいいけど、2つとも借りたら『お馬さんのおうち』をそっちに移せるでしょ。お弁当のお洗濯も、工場の近くにあった方が便利だよ」
「……なるほど」
私は思わず羽ペンを握り直した。
「確かに、馬が3頭になりますから、組合の馬舎から移動したほうが合理的です。弁当箱の洗浄スペースも、確かに製造所の近くの方が効率的です」
「そうだよ。私、洗い屋のクララだからね!」
「ええ、間違いありません。では――」
紙の上に線を引きながら続ける。
「広い方、400平米の物件を『生産+物流』の拠点にします。馬舎、洗浄場、製造所、資材置き場、馬車スペース……すべて入ります」
クララさんが得意げにうなずく。
「じゃあ、場所のいい広場の方は?」
「販売所にしてもいいですが……少し広すぎます。もう少し小さな所を探したほうが――」
「ううん!」
クララさんは勢いよく首をぶんぶんと横に振った。
「こっちは販売所だけじゃないの。炎の鍋亭2号店と、炎の夜明けのアジト!」
「……!?」
私は思わず息をのんだ。
「確かに……今、炎の夜明け商会には『本店機能』がありません。情報、書類、相談、会議……全部炎の鍋亭任せですから」
「でしょ?あとゴードンさんも喜ぶよ。2号店があったら、夜の店の負担も軽くなるし!」
「……なるほど。考えもしませんでした」
突拍子もなく見えるのに、理屈はしっかりしている。
数字に落とし込むのは俺がやればいい。
「収益の計算は、後で私が作ります。――では販売所の配置ですが、市場周辺は決まりですね」
「うん!おうちの多いほうは、ベックお爺さんのところがいいと思う。昼間、樽をどかせばスペースできるしね」
「人通りもありますし、母友ネットワークとも相性がいい」
「そうそう!あと鉱山の方は、マルタさんに小屋を建ててもらっちゃおう?」
「……建ててもらう、ですか」
「うん!薪屋さんだもん。木の小屋ならすぐ作れるよ」
私はふっと笑う。
「つまり、ランチボックス作戦で最初に調整すべき相手は――」
「ベックさんと、マルタさん!」
クララさんが指を2本立てる。
その表情は、自信とワクワクでいっぱいだ。
〈クララさんと話していると、時々ライムさんと話しているみたいだ〉
構造を見て、優先順位をつけて、そこから大胆な案に飛ぶ。
まさに、天性のナンバーツー。
クララさんは、すっと姿勢を正し、ピンと手を挙げた。
「はい!クララまとめ!」
「お願いします」
クララさんは指を1本立てる。
「1つめ!広い方(400平米)は、生産と物流のぜんぶまとめるところ!馬舎、洗浄、製造所、置き場!」
次に2本目。
「2つめ!立地のいい300平米は、販売所と炎の鍋亭2号店と炎の夜明けのアジト!」
3本目。
「3つめ!販売所は市場周辺とベックお爺さんのところ!鉱山はマルタさんに小屋を作ってもらう!」
最後に4本目。
「4つめ!お話するのはベックお爺さんとマルタさん!この2人から聞き込みする!」
指をぎゅっと握って、胸の前で両手をぽんと合わせた。
「――どう!」
「……完璧です」
私は素直に言った。
「ではこの計画を数字に落とし込むために、早速2人に会いに行きましょう」
クララさんはぱっと笑って、手を挙げた。
「はいっ!行こう!」
ライムさんが起きたとき、仕事が『いっぱい』ではなく、
『うなずくだけでいい』ように。
私たち2人は、資料を抱えて炎の鍋亭の居間を出た。




