月詠教・天照十二月『師走月』マサムネ①
トウマは歩みを止め、大岩に座るマサムネを見た。
「お、来たか」
マサムネは座っていた岩から飛び降り、首をコキコキ鳴らし、腕をグルグル回す。
そして、交差するように地面に指していた二本の刀……一本は大太刀、もう一本は脇差を手に取る。
大太刀を背負い、脇差を背腰に差し、両手を広げた。
「会いたかったぜトウマ。あの姉弟、無傷で殺したのか。ま、弱かったろ?」
「殺してないし、弱くなかった。あの弟の攻撃……正直、肝が冷えたぞ」
「あ、そう?」
マサムネは「へぇ~」と腕組みし、首を左右に揺らす。
つかみどころのない男だった。トウマは眉をピクリと動かし、マサムネの背腰にある脇差を見る。
視線に気づいたのか、マサムネは言う。
「あ、気になるか? お前の脇差……いやあ悪い!! 使いにくかったんで、オレ好みに調整しちまった」
「……マジかよ。あーもう、コンゴウザンの大事なモンなのに」
「悪い悪い。あ、この大太刀見ろよ。すげーだろ? お前の脇差を『成分分析』だの『コピープリント』だの、ポリデュクス先輩が苦労して分析して、同じ高度、同じ素材で作った特注品だぜ。オレ好みに長さも変えてある。お前には感謝だな、トウマ」
「……ふーん」
大太刀。
トウマの持つ打刀、太刀よりも長い。そして、脇差。
(こいつも二刀流……しかも、刀)
不思議な感覚だった。
目の前にいるマサムネは、こうして目の前にいても、強いのか弱いのかわからない。トウマにとって初めての感覚だった。
改めて、マサムネを見る。
白いジャケット、白いズボンにブーツ、天照十二月の紋様が描かれたマントを羽織っており、背中に大太刀、背腰に脇差を差している。
マサムネは言う。
「んじゃ、改めて。オレは天照十二月『師走月』のマサムネ。ま、新入りだ。よろしくな」
「おう。俺はトウマ・ハバキリ。月を斬る『斬神』だ」
互いに名乗る。
トウマは半身になり腰を落とし、マサムネは背負う大太刀の柄に手を添える。
「へへ、トウマ……ワクワクするな」
「おう!! へへへ……いくぜ、マサムネ!!」
「きやがれ、トウマ!!」
二人は、敵同士とは思えないほどワクワクし、激突した。
◇◇◇◇◇◇
全く同時に飛び出した。
トウマは『瀞月』を抜き、マサムネは大太刀を抜く。
(──やっぱデケえ、んで長い)
大太刀の輝きは、『瀞月』と全く同じだった。
ガキィィィン!! と、刃同士がぶつかり、火花が散る。
「っしゃぁ!!」
「──ッ」
マサムネの猛攻。
大太刀を振り回す。その速度は太刀を振るうのと変わらない。
鋭さもあり、技もある。
だが……トウマには遠く及ばない。
トウマは刃を躱す。そして、マサムネの懐に入り、抜刀。
「──っとおおお!!」
「おっ」
だが、マサムネがバックステップ。トウマの居合を躱した。
トウマは止まらない。
「刀神絶技、雨の章──『虎牙雨』!!」
振り下ろし、打ち上げをほぼ同時に繰り出す二連斬。マサムネはギョッとしつつも、大太刀で防御する。トウマはすぐに納刀。
「刀神絶技、雨の章──『五月雨』!!」
「ぬおおおおおっ!?」
抜刀し、何度も斬りつける技。だが、マサムネは全て大太刀で受けた。
そのまま斬撃の勢いに押され、地面を滑って後退する。
「おーおー、すっげえなあ……でも、いい感じだ」
「何が?」
「へへ、こっちの話……さあ、もっといこうぜ」
「いいけど、本気出せよ。じゃないと……すぐ終わっちまうぞ」
トウマのギアが上がる。
マサムネは、刀で倒したいと思っていた。
剣士は剣で……それは、転生する前から変わらない。
刀神絶技。雨の章、刹の章、空の章、舞の章……その四つを組み合わせ、マサムネを斬る。
「刀神絶技、空の章──『啄鴉』!!」
斬撃が降り注ぐ。
マサムネは大太刀を掲げ、トウマの斬撃を防御していた。
トウマは、違和感を感じていた。
(──こいつ、何なんだ?)
攻撃が、ゆるいのだ。
素人ではない。構えも堂に入っており、太刀筋も悪くない。
だが、達人というわけではない。あまりにも『弱い』が……なぜか、『強い』と感じていた。
トウマの斬撃を受け、細かい傷だらけのマサムネ。
「いてて……あーいってぇな。へへ」
「……お前、何なんだ? やる気あんのか?」
「あん? やる気はあるぜ? だってオレ、お前とずっと戦いたかったし」
「……その割には、なんか弱いし、やる気も感じねぇぞ」
「やる気はあるぜ。あと、弱いのはまあ仕方ねぇ……今はな」
「マジで意味わからん」
「お? はは、観客が来たぜ」
マサムネは刀を肩で担ぐ。
トウマが背後に視線を向けると、そこにいたのは。
「トウマ―!!」
「トウマさん!!」
「だいじょうぶー!?」
アシェ、マール、カトライアの三人。
その後ろには、セリアンとアスルルがリヒトを肩で担いでいた。
どうやら、七曜月下との戦いに勝利し、ここまで来たようだ。
アシェは、ずっと気配を殺して見ているビャクレンに聞く。
「状況は?」
「見ての通り。奴を倒せば、この国での戦いも終わる」
「了解。一つ情報、妙な鉄のマギアかな……月詠教のでっかい金属のマギア兵器は止まったわ。司祭たちも投降したり、逃げだしてる。人間側の戦いは、間違いなくこっちの勝利!!」
「そうか……」
ビャクレンはあまり興味がないのか、トウマに視線を戻す。
マールは、警戒しつつ言う。
「あの仮面の方が、天照十二月……」
「新入りだそうだ。私も知らない……が、不気味だ」
「不気味?」
カトライアが聞き返すと、ビャクレンは頷く。
「なんというか……強いのか、弱いのか、判断できない」
「「「……はあ?」」」
「ええい、私にもわからんのだ。ともかく、邪魔だけはするな」
「あ、あの……」
と、息も絶え絶えのリヒトが言う。
「トウマくん、回復は……必要?」
「いらね。ありがとな、リヒト」
「うん……」
「リヒト、無理は……」
「ありがと、セリアン」
セリアンは、本気でリヒトを心配していた。
そして、マサムネは言う。
「わーお、美少女ばっかじゃん!! なになにトウマ、まさかお前……ヤるのか!? そこの三人と!?」
「おう、そのつもりだ。まだ予定立ってないけどな」
「いいねいいねぇ、羨ましいぜ!! 三人とも超美少女じゃん!!」
「だろ? なんだお前、話わかるじゃん」
「おいこら!! 変な話で盛り上がんな!! そんな予定ないし!!」
「ま、まあ……わ、わたくしも?」
「……うー、男って」
アシェが怒り、マールは頬を染め、カトライアは眉をピクピクさせた。
マサムネは笑いだし、大太刀を構える。
「あっはっは。さて、ひとしきり笑ったし……トウマ、そろそろオレも反撃するぜ」
「おう、いいぜ」
「じゃあ──行くぜ」
ドン!! と、マサムネは走り出す。
トウマも同じように走り出す。
(さあ、どんな技を──)
トウマは、マサムネの剣を見極める。
どんな技が来るのか、受け流し、受けとめ、弾き飛ばそうとする。
そして、仮面で表情の見えないマサムネは。
◇◇◇◇◇◇
「『刀神絶技』」
◇◇◇◇◇◇
大太刀による、連続斬り。
トウマは目を見開いた。一瞬だけ反応が遅れた。
そして、一撃……トウマの右頬が切れ、肩から血が噴き出した。
「…………おい、今の」
「おいおい、なーに驚いてんだ? お前の技だろ? まあ……オレの技でもあるけど」
刀神絶技。
トウマの技を、大太刀でマサムネが繰り出した。
すぐにトウマも理解する。
「俺の技、摸倣したのか」
「まあ、そんなもんだ。それ以上の理由もあるけどな」
コピー……それが、マサムネの能力。
トウマはゾクリとした。
(……もし、こいつが俺の技を全てコピーして……俺に匹敵するくらい強くなれば)
ゾクゾク、ワクワク、ドキドキと、トウマは震えた。
マサムネとの斬り合いが、さらに楽しくなる予感がしたのだ。
トウマはぶるっと震え、笑みを浮かべた。
「いい顔してんなぁ。へへへ……じゃあ、やるか」
「おう」
トウマ、マサムネが互いに真正面から激突する。
「「刀神絶技、刹の章──『鬼汪』!!」」
全く同じ技が同時に放たれる。
だが、大太刀のぶん、威力がマサムネの方が上。
トウマの技は弾かれ、トウマはマサムネが座っていた岩に激突する。
「いっだぁぁ……へへへ、へへ、へへ……く、ははははははは!!」
「笑いたくなる気持ち、わかるぜぇ? なあ、トウマぁぁ!!」
「ああ!! いくぜ、マサムネぇぇぇぇ!!」
戦いは、まだ始まったばかり。




