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チーフテン解放戦⑦

 ポリデュクスは、手にある『タブレット端末』を操作。

 カストルの装備するタイプファイナル『ドラゴン』の調整、武装の起動、トウマの動きをデータ化し『ドラゴン』に送り最適化をしていた。

 カストルがずっと戦っているだけではない。ポリデュクスはトウマをずっと観察し、そのたびに動きをデータに変換し入力していた。 

 戦う力よりも、情報を収集する力。それこそがポリデュクスの真骨頂。

 だが……ポリデュクスは、冷たい汗を流していた。


(こいつ……データを入力しても、すぐにその上をいく。なんなのよ本当に……!! まるで、全力を出さず、カストルの強さに合わせて力を解放しているみたいな……そんな馬鹿な)


 トウマの強さは、データで測れない。

 だがやるしかない。トウマに勝つには、それしかないのだ。


「『ドラゴランサー』!!」


 カストルが持つ突撃槍による連撃。

 『神竜変化』による身体能力の爆増、そして『ドラゴン』の強化と合わせ、今のカストルは間違いなく『暦三星』に匹敵する力がある。

 さらに、ポリデュクスはこれまでのデータを統合し、トウマが攻撃を躱した回数をデータ化し、最も回避が苦手な場所と思われるところをカストルに送った。

 そこを狙っての連続突き、躱すのも受けるのも困難……と、思っていた。


「戦神気功、『木の葉の如く』」


 だが、フワフワと木の葉のように揺れ、全ての突きを躱す。

 そして、くるりと回転しながら刀の柄に手を添えた。


「カストル!!」

「──ッ!!」


 何か来る。

 カストルは『ドラゴン』で最も硬度の高い両腕を変形させ防御態勢を取る。

 そして、トウマの目がギロリと開かれた瞬間、背筋が凍り付いた。


「刀神絶技、刹の章──『魔鏖(まおう)』!!」


 ズバン!! と、トウマが通り過ぎ、一瞬で両腕の装甲だけが叩き斬られた。

 『ドラゴン』で最も硬い装甲が、紙くずのようにバラバラとなる……そして。


「っぐあああああああ!!」


 両腕の竜麟が裂け、血が噴き出した。

 カストルは歯を食いしばって耐える。竜化した状態なら一分と経たず治る傷だが……トウマを前に一分も耐えるのは、軽く十回は死ぬことを覚悟しなければならない。

 すると、トウマの前に。


「やめろおおおおおおおお!!」

「ね、姉さん!?」


 人型戦闘兵器『アームストロング』に乗り、さらに『神竜変化』で竜化したポリデュクスが、トウマに向かって来た。

 トウマは驚かなかった。なぜなら、最初からこの戦いはカストルとポリデュクスの二人が相手。

 弟を想う姉の特攻。だがトウマは迷わない。

 でも……使ったのは、刀ではなく拳。

 特攻してくるポリデュクスに、人差し指で刺突を繰り返した。


「武神拳法、突の型──『雷鳴突』」

「あ、っが!?」


 ドドドドド!! と、連続で身体に突きを浴び、神経に落雷が落ちたような激痛が走る。

 アームストロングから落ちて地面を転がり、アームストロングは停止。

 そして、カストルは姉を守るよう、傷だらけの両腕を上げてトウマの前に立った。


「やめろ……姉さんの前に、オレをやれ」

「カストル!! 馬鹿、やめなさい!!」

「うるさい!! 姉さん、ダメだ。『ドラゴン』でもこいつに勝てない。でも、姉さんは今のこいつの動き、全部データ化できたろ? そのデータを持って逃げて、こいつを倒せるくらいの『月兵器』を作るんだ!!」

「か、カストル……」

「あとはたのん──ぶへっ」


 ズドン!! と、トウマのチョップがカストルの脳天に直撃した。

 カストルの鎧、さらに竜化が解除され頭を押さえて蹲る。

 ポリデュクスも変身が解け、カストルを守ろうと前に出る。

 トウマは、二人に言う。


「今、お前……『俺を倒せるくらいの月兵器』って言ったよな? ポリデュクスだっけ……できんのか?」

「「え」」

「できんのか?」


 トウマは、ポリデュクスをじーっと見る。

 ポリデュクスはウンウン頷いて言った。


「で、できるわ!! この月詠教最高の頭脳を持つあたしなら、アンタなんかけちょんけちょんにできる兵器、作れるわ!! 今回はその、データ足りなかっただけだし、月詠教だけのデータで作ったから、想定外というか」

「よし。じゃあ作れ!! んで、完成したら持ってこい」

「「…………は?」」

「カストル。お前、才能あるぞ。もっともっと対人経験積んで、さらに強くなれ。んで、ポリデュクスの月兵器と合わせて、超カッコいい鎧着て戦えば、次はもっといい勝負できる」


 トウマはニヤッと笑った。

 カストル、ポリデュクスはポカンとして、顔を見合わせ、もう一度トウマを見た。

 トウマは言う。


「今回はここまで。いや~いい運動になったぜ。あ、そうだカストル、対人経験積むんだったらオオタケマルんとこ行け。あいつも強くなってると思うけど、お前がいればもっと強くなるぞ!!」

「……えと、じゃあ、ボクら、見逃すってこと?」

「そういうこった。じゃ、俺は別な用事あるから。楽しみにしてるぞー」


 そう言い、トウマは手を振って行ってしまった。

 姉弟はポカンとするだけ。未だに事態が飲み込めない。

 だが、ビャクレンが近づいてきた。


「命拾い……いや、敗北だな」

「ビャクレン……どういうことなのよ」

「そのままの意味だ。師匠は、強くなるために戦っている。お前たちに更なる可能性を見たから、『また次回』と言っただけだ」

「……甘いやつだね、あいつ」

「甘いんじゃない。誰よりも自分に厳しいお方だ。わからないか? お前たちは、師匠のデータを手に入れたんだろう? それを利用した『月兵器』を作り、さらにカストルが強くなることで何倍もの強さを手に入れることができる……師匠は、それを倒そうとしているんだ」

「「…………」」

「助言だ。ポリデュクス……これから作るであろう『月兵器』は、師匠のデータの百倍以上の強さを想定し作れ。カストルも、それを使いこなせるよう精進しろ。それでも、師匠は超えられないかもしれんがな」


 そう言い、ビャクレンはトウマの跡を追った。

 カストル、ポリデュクスは地面に横になる。


「……負けたわ。くそー」

「姉さん……なんか、笑えるね。なんでだろ」

「さーね……でも、目標できたわ。あたし、『斬神』を絶対にぶちのめす!!」

「奇遇だね。ボクもだ……オオタケマルのところ、行かないとな」


 カストル、ポリデュクスは敗北した。

 だが……どこか晴れ晴れとした、爽快さが漂っていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 フラジャイルは、ドームのてっぺんにいた。


「姉弟は敗北、メジエドは……もう行っちゃったねぇ。七曜月下は死亡で、月兵器は……動いちゃいるけど、どうなるか」


 劣勢。いや、敗北に近い。

 天照十二月が二人敗北。七曜月下は人間に敗北。もうこのチーフテン王国も人類に取り返され、支配領地の半分が取り返されることになる。

 フラジャイルは傘を開き、大きなため息を吐く。


「はぁぁ……新人クンが頼りとはねぇ。まあ、勝てるわけないけど、報告もあるし、ちゃんと見いとねぇ」


 トウマが向かったのは、姉弟が使っていたドーム。

 そのドーム前に、仮面を被った、男か女かもわからない天照十二月『師走月』のマサムネがいた。

 二本の剣を地面に刺し、自身は岩に腰掛けている。

 フラジャイルは、マサムネがトウマと戦うところを記録すべく、移動を開始するのだった。

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