チーフテン解放戦③
トウマの新たな刀、『淵月』は、打刀よりも長い『太刀』だった。
コンゴウザン・クガネの子孫、トウマの計らいにより鍛冶職人として再起した、現代の名工。その最初の作品であり、今現在、最高の刀である。
「いい輝きだ」
トウマは言う。
コンゴウザンはかつて、『最高傑作は最後の一つでいい』と言った。
トウマは知る由もないが、グラファイトも同じ考えた。
だから、この刀は最高傑作ではない。
これは、グラファイトが今できる全て、全身全霊を込めた『最初の一本』だ。
最初の一本。そのままの意味である。
『トウマに渡す剣だから納得のいく刀を打とう』ではない。再起すると決め、最初に打った刀だ。練習などしていない。再起を決めてすぐに打った、魂を込めた刀。
今も、グラファイトは刀を打ち続けている。だが、この『淵月』を超える刀は打っていない。今やっている刀鍛冶としての仕事は全て、自身の腕を鈍らせないため。
トウマは、グラファイトの覚悟を知っている。
だからこそ、『淵月』を美しいと思った。そして、『瀞月』と共に腰に差すと、刀が喜んでいるように感じていた。
「コンゴウザン。少し時間かかったけど……お前の子孫は、お前に負けないくらいの刀鍛冶士だよ」
ポツリと呟く。
すると、トウマの背中に、バシッと衝撃が走ったような気がした。
煙管を咥え、子供のようにニカっと微笑むコンゴウザンが、いつものようにトウマの背中を叩いた……トウマは、そんな気がした。
そして、目の前にいる天照十二月が、何もしてこないことに感謝した。
「待っててくれたのか。ありがとな」
「隙だらけだったけど、感極まってたからね。まあ……仮に攻撃しても、キミなら対処するでしょ」
カストルが言う。
ポリデュクスは「なんでやらないのよ!!」と怒っていたが、カストルが手で制して止める。
ビャクレンは、少し離れた場所で胸に手を当て、黙とうしていた。
「じゃあやろうか。正直なところ……ボクもけっこう、ワクワクしてるんだよ。姉さんもだろ?」
「まあ、そうね。アタシの『月兵器』、そして最高傑作たちをフルに使う機会なんてないし。この『月獣帝機』も、その性能をフル解放できる」
ポリデュクスは人型月兵器から降り、前に出る。
カストルの隣に立ち、改めて言う。
「改めて、自己紹介を」
ポリデュクスはスカートを広げ、片足を後ろに引き、膝を曲げて体をかがめる。
カストルも、右足を引き、体を傾けて左手を横に差し出す。
「天照十二月『神無月』のポリデュクス」
「天照十二月『霜月』のカストル」
「私たち姉妹、全身全霊を持ち」
「『斬神』トウマ・ハバキリ……あなたを殺す」
双子、同じ顔。髪で片目が隠れているが、それぞれお右目と左目、別々の目が隠れていた。
ポリデュクスは一歩下がると、三メートル近い鋼の人型月兵器が肩に座らせる。
カストルは、ベルトのバックルのような物を腹部に充てると、それがベルトのように腰に巻かれた。
「『月着』」
カストルが言い、バックルを軽く叩くと、ポリデュクスの傍に控えていた金属の『オオカミ』が飛び出し、変形し、カストルと合体した。
「おおおおお!! な、なんだなんだ!?」
驚くトウマ。
カストルは、オオカミが変形した全身鎧を見に纏った。
肌の露出が一切ない、完全なフルスケイルメイル。
ポリデュクスが言う。
「アタシの最高傑作、『ダージュオブスケイル』よ。さあ、カストル……思う存分」
「ああ。タイプワン『フェンリル』の力、地上で思いっきり発揮するよ」
カストルは構える。その構えは武術の構え。
トウマは、抜いた『淵月』を鞘に戻し、自身の拳を構えた。
「ワクワクが止まんねえ!! ああそうだ、ちゃんと名乗らないとな」
トウマは構え、拳をグッと握りしめる。
「俺の名はトウマ・ハバキリ。月を斬る『斬神』だ」
戦いが、始まった。
◇◇◇◇◇◇
「始まりましたか……」
月詠教、トウマたち、天照十二月、七曜月下……どの勢力圏からも離れた小さな丘の上に、『断罪者』の執行者であるメジエドはいた。
手には黒い本がある……が、その本には何も書かれておらず、メジエドはペラペラとページをめくるが、何か書かれているわけでもない。
ただ、本のページをめくるのが好きなだけ……と、メジエドを知る執行者は知っている。
「さて……私は、私の仕事をしましょうか」
メジエドの仕事。
それは、月と、月詠教と、月神の脅威となる者の排除。
メジエドの目に最初映ったのは、トウマ。
「…………脅威度、最上」
かなり距離があるが、メジエドの目にはしっかりトウマが映っていた。
そして、明後日の方を見て、もうひとり。
「……危険度、中。成長中……ふむ」
メジエドの目に映っていたのは、赤いツインテールの少女……アシェだった。