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チーフテン解放戦①

 チーフテン王国、支配地域との国境に、三千以上のマギナイツが集まっていた。

 総指揮を執るのは、ピュリファイ公爵家当主メルキオール。そして、陣営の最後方の天幕には、国王のエードラムがいた。

 エードラムの周りには、精鋭のマギナイツが守っている。

 本来、国王であるエドがここまで前線に出ることはない……が、エドがどうしてもと出てきたのだ。

 エドの座る玉座の隣には台座があり、そこには大剣が差してある。


「陛下。やはり、最後方とはいえ前線に出るのは……」


 護衛隊の隊長が、もう何度言ったかわからない言葉を言う。

 エドは、玉座に深く座って言う。


「くどい。それに、自分の身は自分で守れる。忘れたのか? 朕の実力を」


 護衛隊長は何も言えない。そもそもエドは、エドを守ろうとしている護衛隊長よりも強い。元マギナイツとしての実力は健在である。

 エドは、ひじ掛けに肘をつき、足を組んで言う。


「さて。支配地域の解放……チーフテン王国が四国目になれば、半分を取り返したことになるな。くくく……さあ、戦いの始まりだ」


 エドは、パチンと指を鳴らした。


 ◇◇◇◇◇◇


 メルキオールは、杖型マギア『アスクレピオス』を掲げた。


「全軍、進撃せよ!! 月詠教による支配を終わらせる!!」


 マギナイツたちが、マギソルジャーを率いて部隊ごとに前進する。

 敵は『待宵』ギームスの配下である司祭、司教、大司教。

 数ではこちらが圧倒的に有利。先手を取れるかどうか……メルキオールは思う。


(本命を倒せるかどうか……さて、斬神トウマのお手並み拝見)


 ◇◇◇◇◇◇


 一方、支配地域の奥では。


「はぁぁ? 人間が攻めてきた!?」


 ポリデュクスが、『タブレット端末』を操作しながらフラジャイルの報告を聞いた。

 そして、ジロリとフラジャイルを睨んで言う。


「どういうこと? アンタの見立てじゃ、あと二日は準備に時間かかるんじゃなかったの?」

「いやあ、それは間違いないんだけどねぇ……やられたよ。人間たち、こっちの準備があと二日はかかるとどっかで情報手に入れたのかねぇ。準備が完了するまえに、進軍してきた」


 つまり、人間側もまだ準備不足。

 進軍しながら、準備を進めている。

 ポリデュクスは舌打ちする。


「チッ……仕方ない。とりあえず、七曜月下のナンチャラと、その配下にやらせて。こっちも急ピッチで仕上げるから」

「はいはい、わかりましたよ、と」


 今更だが、ポリデュクスは自慢の『月兵器』で全部やるつもりだった。支配地域を管理する七曜月下『待宵』ギームスのことは、完全に忘れていたようだ。

 フラジャイルは、特に指示を受けておらず、普通に部屋に待機していたギームスを呼び出す。


「あー、ポリデュクスちゃんの準備に時間かかるから、司祭たちを連れて人間の迎撃してきて」

「……え」

「あと、今回人間の国、亡ぼすから」

「え……」

「はい。じゃあ、頑張って」

「…………えと」


 こうして、七曜月下なのにかなり雑な扱いを受ける『待宵』ギームスは、向かって来る人間たちがどういう布陣で、どういう戦術で来るのか全くわからないまま、戦いに出るのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 一方、トウマたちは。


「んじゃ、行くか」


 トウマは、いつもと変わらない感じで言う。

 腰には二本の刀。一本は『瀞月』であり、もう一本は違う。


「俺の敵は、天照十二月が最低でも三人か。わくわく」

「……てか、普通はワクワクなんて言えないでしょ」


 アシェがドン引きして言う。

 アシェは制服で、腰にガンベルトに『ヴォルカヌス&ウェスタ』を差し、背中に『イフリート』を背負っている。

 マールは双剣、『ルサールカ』と『ヴォジャノーイ』を差し、カトライアに言う。


「カトライア。緊張してますの?」

「少しね。なんだか不思議……あなたたちといると、あまり緊張しないわ」


 カトライアは、地のレガリア『ガイア』を背負い、腰に手を当てて胸を張る。

 そしてリヒトは、背中に『トゥアハ・デ・ダナン』を背負い、ブツブツ何かを言っていた。そんなリヒトを見て、ビャクレンが言う。


「おい、小僧。緊張するなよ」

「は、はい」

「教えたことを出せ。いいな。できなければ罰を与える」

「う……は、はい」


 リヒトがビャクレンと何かをやっていたことは知っているアシェたち。詳しい内容は知らなかった。

 リヒトはビャクレンに頭を下げ、アスルル、セリアンに言う。


「義姉さん、セリアン……よろしくね」

「……フン」

「……ええ」


 アシェたちは、作戦通り、まずは森へ向かった。

 リヒト、セリアンにとっては忌まわしき森。森に入ると、リヒトは俯いてしまう。

 すると、セリアンがリヒトに言う。


「ここ、懐かしいね。リヒト……覚えてるよね」

「……忘れるわけ、ないよ」

「うん。私にとって、永遠の傷ができたところだから」

「…………」


 セリアンは、リヒトを追い詰める。

 アシェが何か言おうとしたが、トウマがそっと止め、首を振った。


「セリアン……きみを傷付けて、消えない傷をつけたことは事実だ。でも……永遠にはしない」

「え……?」

「ちゃんと、きみに向き合うよ。だから……少しだけ、待ってくれ」

「…………」


 セリアンは、リヒトのまっすぐな視線に驚きつつ、小さく頷いた。

 トウマはウンウン頷きながら、アシェを見てリヒトを指差す。


「な? リヒト、なよなよ君のままじゃないだろ?」

「驚いた。ちょっとカッコイイわね……」

「ふふ。というか、リヒトさん……何かあったのですか?」

「確かに、急に凛々しくなったわね」


 マール、カトライアもリヒトの変わり用に驚いていた。

 すると、ビャクレンが言う。


「なんてことはない。私が、性根を叩き直しただけだ」

「……トウマ。ビャクレンに何やらせたの?」

「うんにゃ、ちょ~っと鍛えるようお願いしただけだ。マギアの使い方訓練の他に、ビャクレン仕込みの特訓をな。まあ……俺の見立てだと、リヒトは……ごにょごにょ」

「「「……え?」」」


 トウマの『提案』に、アシェ、マール、カトライアは驚いていた。

 ビャクレンは言う。


「師匠の言う通りでした」

「だろ? ま、そういうこった」

「おい。見えて来たぞ」


 と、アスルルが言う。

 見えたのは、横幅がある大きな川だった。

 流れも速く、思った以上に深さもある。

 周りもかなりひらけており、日差しが心地いい場所だった。


「なんだか、ピクニックとかするのにいい場所ね……」

「まあ、お魚も泳いでいますわ」

「ここ、野営とかするのにいい場所ね」


 アシェたちは意外なロケーションに喜んでいた。

 アスルルが咳払いすると、我に返る。


「こほん。じゃあ、作戦のおさらいね」


 アシェは咳払いし、作戦を振り返った。


「まず、この川は支配地域の奥まで流れてる。マールのマギアの力で、水中を進んで一気に奥まで行くわ。そして、アタシたちは『待宵』のギームスを討伐……トウマは、天照十二月を討伐ね」

「枢機卿など、多数の勢力は父上が相手をする。我々は頭を刈るだけでいい」

「ええ。よし……じゃあマール、お願いね」

「はぁい」

 

 マールは双剣を抜き、踊るように剣を振る。

 すると、周囲に大きなシャボン玉がいくつも現れ、アシェたちの身体を包み込んだ。


「おおお、すっげえ!! グニャグニャしてるぞ!!」


 シャボン玉の中に入るという体験にトウマは興奮し、指で膜をツンツンつつく。

 マールがシャボン玉を操作すると、ふわりと浮きあがる……そして、全員が川の中に入った。


『すげええ!! なあ、めっちゃ深いな!!』

『確かに……あれ、言葉聞こえる?』


 水中でも会話ができた。シャボン玉の中に直接声が響く。

 マールは誇らしげに言う。


『うふふ。この程度は朝食前ですわ』

『朝飯前か。なあなあ、昼飯前に終わるかな。終わったらリヒトの家でごちそう食おうぜ』

『いいけど……というか、本当に深いね』


 川底近くまでシャボン玉が落ちた。

 高さは十メートル以上あり、意外な深さだった。


『マール、このまま前進。支配地域まで進んで、地上を確認しながら進むわよ』

『了解ですわ』

『みんな、気を引き締めてね。これから戦いになるから』


 アシェの指揮のもと、トウマたちは支配地域の奥に向かって進み始めた。

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