マールーシェ・アマデトワール
城内にある訓練場に、トウマたちは移動した。
トウマはすでに訓練場で待機。アクアリオ、ガルフォスは観覧席で勝負を待つ。
そしてアシェは、マールーシェの支度を手伝っていた。
「どーいうつもり、マール」
「あら。強者と戦いたいという願いは、剣士にとって当たり前では?」
「何度も言ったけど、アイツの強さマジで異常よ。マギアとかの次元にない強さよ」
「ええ。だからこそ、挑みたいのですわ。ふふ、お父様には申し訳ないことをしましたわね」
薄い水色の胸当てを付け、戦闘用ドレス、ブーツ、双剣型マギアを納める鞘を交差させて装備し、長い髪はアシェが櫛で梳き、ポニーテールにまとめていた。
アシェは言う。
「アイツはアンタのこと殺しはしないと思うけど……本当に気を付けなさいよ」
「はいはい。幼馴染の言うことはしっかり聞きますわ」
「ったく……」
「……ね、アシェ。あなた……彼とどういう関係?」
「はぁ!? いや、アンタが思うような関係じゃないわよ。旅の同行者で、まあ恩人」
アシェは、どこかめんどくさそうに言う。
するとマールは顔を近づける。
「本当に?」
「本当」
アシェはのけぞる。この、マールの楽しむような、探るような視線は昔から苦手だった。
幼馴染……アシェは実家で『落ちこぼれ』とみなされているが、マールは違う。
アシェと同じで、上には兄と姉がいる。決定的に違うのは、マールは『優等生』ということだ。
「ね、休暇が終わるまで滞在するんでしょう? 学園には一緒に行かない?」
「いいけど……って言いたいけど、アタシ他国の領地で『月読教』の連中に喧嘩売ったし……落ちこぼれで期待されていないとはいえ、戻ってお父様に報告しないといけないのよね」
「そんなの、お父様から御願して報告してもらうわ。というか、一人で休暇を利用して強くなる旅に出るとか、男の子みたいねぇ」
「う、うっさいな……でもまあ、アタシもヒント得たし、もう落ちこぼれなんて言わせないから。ふふん、『イフリート』の改良プラン、帰って早く実戦したいのよね」
「それ、ここでできないの? 素材なら用意するけど」
「あー……まあ、早くやりたい気持ちはあるけど」
「じゃ、決まり。報告はお父様経由で、素材は準備する。休暇の終わりまでウチに滞在ね」
「……へいへい。さ、終わり。行きなさい」
「ん、ありがと」
苦手だが、アシェはマールのことは嫌いではない。
喋っていて楽しいこともある。
マールは、訓練場へ、トウマの前に立った。
「お待たせしました、トウマ様」
「おう。なんかアシェと楽しそうだったなー、友達なのか?」
「ええ。友人で、幼馴染ですわ」
「そっか。さて、さっそく始めるか。お前の剣術、見せてくれよ」
「ええ、存分に」
トウマは腰を落とし、右手を前に、左手を胸の前で構える。
武術の構え……マールは何も言わない。
「私の双剣型魔導器……『ハールート』と『マールート』による、アマデトワール双剣術と、『水』の力をご堪能下さいませ」
双剣を抜き、逆手で構えを取るマール相手に、トウマはワクワクしながら挑むのだった。
◇◇◇◇◇◇
「ほー、意外だな、格闘か?」
「いえ……恐らく、アマデトワール流双剣術を知るために、敢えて素手を選択したのでしょう。だがあの構え……素人ではない」
アクアリオ、ガルフォスは観戦席から伺っていた。
そして、少し離れたところで一人見ているアシェを手招き。
恐る恐るやってきたアシェに、アクアリオは言う。
「アシェ、彼との付き合いは長いのかね?」
「い、いえ……まだ一週間も経過していません」
「ほう、そうなのか」
「はい……でも、アタシ……じゃなくて、私は見ました。あいつの剣……とんでもなく鋭くて、その、防御しても、防御なんて意味ないみたいに斬っちゃうというか」
「ふむふむ……面白いな」
「……陛下。動きますぞ」
マールが双剣を抜くと、周囲に『水の球』がいくつも現れた。
「『水球』……アマデトワール公爵家の水属性、基本技ですな」
「いち、にー、さん……すごいな、二十以上あるぞ。あの若さで大したものだ」
「はい。マールーシェの兄、姉は五十以上『水球』を操りますが……十六で二十以上出したことはありません。息子と娘も才能あふれていますが、マールーシェには敵いません」
「ほほう、べた褒めだなあ」
「…………」
アシェは黙りこむ。
才能……マールにはあり、アシェにはない。
こんな風に、父親が誇らしく思うような娘では、絶対にない。
ほんの少しだけ胸が痛み、アシェは俯いた。
その背中を、ガルフォスは見て、ややバツが悪そうに言う。
「……だが、マールもまだ甘い。アシェ嬢……これからも、マールの友人として、いやライバルとして、共に高め合ってほしい」
「……はい。そのつもりです」
アシェは頷く。
確かに、アシェに才能はない。だが……それ以外はアシェにもある。
強くなるためのアイデアはある。あとは、それを形にし、実戦するだけだ。
◇◇◇◇◇◇
「ふふ、行きますわ!!」
「!!」
マールの全身に、モヤのような光が包まれるのをトウマは見た。
アシェの言葉を思い出す。
『マギソルジャー、マギナイツの基本技能で魔力による身体強化があるわ。普通は見えないけど、上級マギナイツの身体強化は、魔力が視認できるわ。それくらいの強化ができるやつは間違いなく一流よ』
身体強化。
速い……そう思うとすぐ、マールはトウマの目の前に迫っていた。
「武神拳法……おお?」
「『アクア・イリュージョン』」
トントントン、とマールはステップを踏む。
同時に、周囲の水球も激しく動く。
トウマは気付いた。激しくステップを踏んで舞うマールが、水球の影に隠れると消えた。
すると、上空にいた……そして、右に、左にと、マールの姿が幾重にも重なって見える。
「水の反射か……」
「正解、ですわ」
「!!」
水球が目の前で爆ぜ、背後から双剣を振るマールが現れた。
トウマはとっさにしゃがんで回避、水が派手にかかり髪が濡れる……さらに、目がずきずきした。
思わず目を閉じて擦る。
「なんだこりゃ!?」
「酸を混ぜた水ですわ。私、作り出した水の性質を変えることができますの」
ゾッとした。耳元で声が聞こえ、さらに反対側から空を切る音。
側転で躱すと、再び水球が破裂。地面が濡れ、側転の着地部分が濡れて滑ってしまう。
慌てて態勢を立て直す。
「『アクアパッション』!!」
「ッ!!」
重なり、巨大化した水球がトウマに向かって放たれる。
トウマは呼吸を整え、バク転してその場から回避。トウマのいた位置に巨大水球がぶつかり、爆発するように爆ぜた。
トウマは呼吸を整え、大きく息を吐く。
「目が痛くて見えない。周囲には水の球がいっぱい、地面は濡れて滑る……か」
「ふふ、あなたの斬撃は素晴らしいですけど……戦い方なんて、いくらでもありますわ」
「ああ、その通りだ」
トウマは呼吸を整える。
「戦神気功、『霧の如く』」
トウマの身体に、濃密で薄い膜が張る……魔力ではない、気功の力だ。
眼を閉じたまま、トウマは言う。
「よし、わかった。さあて、ここからはもう当たらないぞ」
トウマは再び構えを取る。そして、今度は刀の柄に手を乗せた。
マールは、無数の水球を複雑に動かし、トウマに向かわせる……が。
「……っ!?」
トウマは、目を閉じたまま水球を避けた。そして回し蹴りを放ち、水球を一つ破壊。
そして、そのまま回転を利用して拳を繰り出し、腰に差した剣を抜いて水球を両断する。
ずっと、目を閉じたまま。
「なっ……見えていますの?」
「いや? 気配でわかる。っと……」
トウマは目をパチパチさせ、ようやく目を開いた。
「よーし、見える。さあて……ここからが本当の戦いだ」
気功が消え、トウマは腰を落とし刀の柄に触れる。
「刀神絶技、雨の章」
「面白い!! では……決着です!!」
マールの双剣に細かい水球が纏わりつき、さらに大小さまざまな水球がマールの周りを旋回する。
「『スプレッド』!!」
マールが命じると、地面から大量の水柱が噴き出した。
だが、トウマは構えたまま動かない。
そして、無数の水球を一気に放出し、全ての形を槍のように変え、トウマに向け一気に放出。
さらに、マールもその槍に交じり、双剣を手に突っ込んだ。
「『アクア・ストレイヤー』!!」
水の槍、そしてトドメの双剣……トウマに逃げ場はない。
だが、水の槍よりも、身体強化で向かうマールよりも、トウマの抜刀は早かった。
「『催涙雨』」
抜刀をすると同時に、トウマを支店に無数の斬撃が飛び、全ての水の槍を両断し、さらにマールの身体に峰打ちの連撃を喰らわせ吹き飛ばした。
「がはっ!?」
吹き飛ばされ、訓練場の壁に激突するマール。そのままズルズルと崩れ落ちた。
「マール!!」
アシェが飛び出し、マールを支える。
トウマは、マールに近づいて手を差しだした。
「強かった。いいもん見せてくれて、ありがとうな」
「……ふふ、私の負け、ですわね」
こうして、摸擬戦はトウマの勝利で幕を閉じたのだった。