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月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~  作者: さとう
第四章 支配解放組織『斬月』

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月詠教・天照十二月『神無月』ポリデュクスと『霜月』カストル③

 ポリデュクスは、今目の前にある『刀』を見て、冷たい汗を流していた。


「どうっすか?」

「…………」


 持って来たのはマサムネ。

 朝の散歩から戻ったと思えば、短い『刀』を手に持ち、それをポリデュクスに分析するように依頼。

 いろいろと準備があり忙しかったが、その『刀』の輝きが気になり、ポリデュクスが作った『分析機』にかけて刀を分析……そして、その構造に汗が流れる。

 言葉が出ない。ポリデュクスは、初めて絶句していた。


「それ、さっき散歩中に会った『斬神』から奪った刀っす」

「はああああああ!?」


 いきなりの情報に、ポリデュクスは唖然とする。

 マサムネは刀を指差して言う。


「ポリデュクス先輩。その刀、もうちょい使いやすく加工できないっすか? あと、もう一本欲しいっす」

「はああああああ!? なに、この私に、これを複製加工しろっての!? 序列十二位の新人がなーに偉そうなことほざいてんのよ!!」


 キレるポリデュクス。するとマサムネは肩を落とす。


「そっかぁ……月詠教で一番の頭脳、そして兵器開発の腕前を持つポリデュクス先輩でも無理かあ」

「あ?」


 ポリデュクスがピクリと眉を動かす。

 マサムネは続ける。


「いやいや。頭脳明晰、手先器用、そして美人で巨乳の才女ポリデュクス様なら、片手間でチョチョイと加工、複製できると思ってたんですけど、無理だったとは……」

「あんた馬鹿? バッカ? ふふん、この超天才であるポリデュクス様が、できないわけないでしょ? まあ、成分分析して、コピープリンターにデータ入れて出力すればすぐできるわ。ふふふん」

「さっすが天才!! あ、いろいろ加工でお願いしたいことあるんですけど」

「何よ」

「えーとですね……」


 マサムネは注文をする。途中、何度かポリデュクスをおだてると、調子に乗ったポリデュクスは「まっかせなさい!!」と胸を張って行ってしまった。

 すると、ポリデュクスと入れ替わりに、カストルが入って来る。


「……姉さん、嫌に上機嫌だったけど、おだててなんかお願いした?」

「いやあ、まあ」

「やっぱりね。ま、いいんじゃない?」

「あはは。いやぁ、すなまいっすね」

「いいよ。ああ……じゃあ、一個お願いしていい?」

「なんでしょう?」


 カストルは、白と黄金と銀色の装飾が施された、大きいベルトのバックルのようなものを手に持ち、マサムネに言う。


「キミ、かなり強いよね。手合わせしない?」

「いやいやいや、今はちょっと」

「そっか」


 カストルはあっさり諦めた。そして、マサムネの仮面を見て言う。


「じゃあ……素顔、見せてくれる?」

「それもちょっと……ははは。すんません」

「ざんねん。まあいいや。じゃあ」


 カストルは、欠伸をして部屋を出て行こうとして……マサムネに言う。


「ああ、姉さんは巨乳じゃないよ。あれ、盛ってるから」

「え」


 そう言って、カストルは出て行った。


「……聞いてたんかい。やーれやれ」


 マサムネは、ポケットから銀色のケースを出し、小さな錠剤を一つ取り、仮面の口元をスライドさせて口に入れて飲み込んだ。


「さーて……戦いまであと三日か四日。トウマ、待ってろよ」


 ◇◇◇◇◇◇


 フラジャイルは一人、ドームから離れた小さな木の下で、煙草を吸っていた。

 紙巻ではない、煙管を使った高級な煙草だ。

 煙管を吸い、やや甘い煙を吐き出す。


「あ~……うっまい」


 煙草。

 月にはない、地上の趣向品だ。

 体内に毒を取り入れ快感を得るなんて、月ではあり得ない。

 だがフラジャイルは、毒と知りつつも吸っていた……自分が中毒に侵されているとは理解しているが、吸い始めて数百年、これといった健康被害はない。

 

「はぁ……どうなるかねぇ」


 フラジャイルの役目は斥候であり、情報収集だ。

 人間側は、七曜月下をハイペースで討伐しているせいか、どの国も『七曜月下を討伐し、支配地域を取り返す!!』と、気合いが入っている。

 全ては、斬神トウマが現れてから。


「月も、天照十二月を投入してるけど……」


 まず、序列四位のビャクレンが敗北した。

 そして、序列八位のオオタケマルも負けた。

 序列六位だが、フラジャイルはトウマに敵わないと思っている。

 そして今回、序列十二位、十一位、十位の三人が投入されている。

 新人は不明だが、十一位、十位の姉弟は、力を合わせれば『暦三星』に匹敵すると言われている。


「…………あぁぁ」


 フラジャイルは頭を掻きむしった。

 浮かばないのだ。

 どうしても、トウマに勝つという未来の光景が。

 フラジャイルは考えてしまっている。

 トウマが、ポリデュクスとカストルを殺し、刃を自分に向けている光景を。


「悩み事、ですか?」

「ッ!?」


 いきなり、声がした。

 振り返るとそこにいたのは、黒衣の青年だった。

 黒いロングコート、背中の中ほどまで伸びた藍色の髪を結び、どこかうつろな目をしている。

 口元は黒いマフラーで隠され、コートにはシルバーの装飾品が煌めいていた。

 青年は、右手に鎖を巻き、鎖には十字架が繋がれていた。

 その十字架を、フラジャイルに見せつける。


「お久しぶりです、フラジャイルさん」

「……な、なんでお前さんが、地上に……!?」

「もちろん、仕事ですよ」


 青年は、儚げな、そして柔らかく微笑んだ。

 フラジャイルは警戒して言う。


「メジエド……『断罪者』最強のお前の仕事と言うことは……」

「さぁ、どうでしょうね」


 月詠教という組織。全ては『月神イシュテルテ』のために存在する。

 その中でも、『月光の三聖女』は月神の眷属。『天照十二月』は三聖女直属であり月の防衛。そして……『断罪者』は、月神の脅威となる存在を狩る者だ。

 月光の三聖女の下には天照十二月がいるが、断罪者の立場は月光の三聖女と同じ。命令権を持つのは月神だけ。

 三聖女が命じたところで、断罪者は動かない。

 ましてや、『断罪者』最強の執行人、『四死舞刃(ラ・ムエルテ)』の一人、『墓守』のメジエドが、こんなところにいるわけがない。


「……お前さんが来たってことは、あたしらに協力するってことかい?」

「それもどうでしょうね……」

「そういや、斬神にけっこうな数の執行人を殺されたそうじゃない。ヤるには十分だろ?」

「……フラジャイルさん。どうしても、私を戦わせたいようですね」


 メジエドはクスクス笑い、懐から黒い本を取り出し、ページをめくる。


「申し訳ございませんが、私は別件がありますので。ああ……あなた方の邪魔をするつもりはございませんよ」

「……相変わらずクールだねぇ」

「よく言われますよ。ネフティスやネルガルは『胡散臭い笑い』と言いますけどね。ラウェルナなんて『死んでくれたらいいのに』と冗談も言いますよ」

「ははは……」


 メジエドは、黒い本のページをめくり、ぱたんと閉じる。


「フラジャイルさんに声をかけたのは、なんだかお疲れのようだったからですよ。さて……そろそろ行きます。あなた方の仕事が、うまくいきますように」


 メジエドは軽く一礼して去っていった。


「……馬鹿言いやがって」


 このタイミングで声をかけるなんて、絶対に今回の戦いと関係があるはず。

 フラジャイルは、ほんの少しだけ光が差したような気がした。


「さて、この戦い……どうなるかわからなくなってきたねぇ」

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― 新着の感想 ―
こんばんは。 仮面を着けてる、薬を飲んでる……某ガンダ○のクルー○みたく、誰かのクローン(刀に執着がある→トウマのクローンだったり?)の可能性もありそう。
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