表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/100

到着

 早朝。トウマはリヒトの屋敷の屋根……三角屋根の頂点、風見鶏が位置する場所にいた。

 逆立ちし、人差し指だけで、風見鶏のニワトリ、トサカの部分に人差し指だけで逆立ちをし、その状態で両足に庭石を乗せ、腕立てならぬ『指立て伏せ』を行っていた。


「ろくせん、ななひゃく……よんじゅう、ご」


 大汗を流し、全神経を集中させて指立て伏せをしていた。

 指の力、全身のバランス、集中力を鍛えているのだが、誰も真似できない。

 ビャクレンですら、その修行方法に舌を巻き、ただ屋根の上で眺めているだけ。

 そして十五分後。


「七千……うし、おしまい!!」


 足の裏に置いていた庭石を蹴って上空に打ち上げ、指の力だけで風見鶏から跳躍。ビャクレンが投げた『瀞月』を手に取り一瞬で抜刀する。


「刀神絶技、彫刻……『風見鶏』!!」


 ピュィン!! と、一瞬で庭石が彫刻され、二メートルほどの大きさの『風見鶏』となり、リヒトの屋敷の花壇に突き刺さる。

 トウマは納刀し、ビャクレンが差しだしたタオルで汗を拭く。


「ふぅぅ、朝の運動は気持ちいいなあ」

「さすがです、師匠……あんな、その、指立て伏せ、私にはとても」

「まあ、真似しなくていいよ。さてビャクレン、このまま屋根の上で武術の訓練をするぞ」

「はい!!」


 トウマは『瀞月』とタオルを風見鶏の傍に置き、不安定な屋根の縁に立つ。

 ビャクレンは上着を脱ぎ、胸にサラシを巻いただけの姿でトウマの前に立つ。

 互いに手が届く位置に立ち、右手の甲同士を合わせた。


「覇っ!!」


 ビャクレンが手首を捻りトウマの手首を掴むが、トウマは踏み込み、力の流れを利用した技……武神拳法『霞の型』で、ビャクレンの掴んだ力を利用し、逆に返した。


「あっ!?」


 急激な力の流れにビャクレンは膝が落ち、トウマは左手を伸ばしてビャクレンのサラシを掴み、足払いし、くるんと身体を持ち上げて回転させ、屋根の上にトスンと倒した。

 

「技術はあるけど、型にハマッてるから読みやすいって言ったろ? 型が悪いわけじゃないけど、臨機応変な柔軟性も戦いには必要だ。互角の相手と戦う時、勝負を分けるのは手数の、引き出しの多さだ。ビャクレン、お前は筋がいいけど、頭が固い。もっと柔らかくなれ」

「は、はい……」

「よし、もう少し……お」

「?」


 ビャクレンのサラシを掴んだせいか、サラシが緩み胸がはだけていた。トウマがジッと見るとビャクレンは視線に気づく。


「胸、ご覧になりたいのでしたらどうぞ。好きにして構いませんので」

「マジで!! と……うん、屋根の上だし、誰もいないし、うん」


 トウマは、ビャクレンの胸を触ろうと手をスーッと伸ばす……今は早朝、リヒトたちが起きるまで時間があるし、誰の邪魔も入らない。

 

「そうだ師匠。部屋に移動しますか? 個室シャワーもありますので、お背中もお流しできますが」

「そ、そうれもいいな。うん、そ、そのあとは」

「もちろん、師匠のお好きにどうぞ」

「おおお、ウンウン、そりゃいいね。朝飯の前にいろいろ『経験』するのもいいね。うんうん。でもその前にちょっとだけ触っていいか?」

「はい、どうぞ」


 ついに女を知れる……ビャクレンは照れもせずトウマの手を受け入れようと胸を張る。

 トウマは、ビャクレンの大きな果実に触れようと、ゆっくり手を伸ばした。


 ◇◇◇◇◇◇


 次の瞬間──どこからか飛んで来た『小石』がトウマの側頭部に命中した。


 ◇◇◇◇◇◇


「いっだ!? うおおお、なんだなんだ、敵襲か!?」


 頭を押さえキョロキョロするトウマ。

 ビャクレンも「え、え?」とキョロキョロする。

 そして……二人は見た。


「……アンタ、朝っぱらから、何してんのよ」

「「え……」」


 小石を投げたのは、アシェだった。

 アシェの位置からトウマたちのいる屋根まで、たっぷり二十メートル以上はあるのだが、アシェの投げた小石はトウマの側頭部に命中した。

 驚くトウマ。


「あ、ああ、アシェ!? なな、なんでお前がここに!?」

「うっさい!! てかアンタ!! 朝っぱらからビャクレンに何しようとしてんのよ!! ビャクレン、アンタも胸隠しなさい!!」

「え、いや、その」

「えーと……はい」


 トウマは慌て、ビャクレンは何故か逆らえずしぶしぶとサラシを巻き直す。


「アタシがいないところで、ずいぶん盛ってたみたいね……」

「いやいやいやいや、その、別にヤッてはいないぞ。今のも、ちょっと揉んでみようかなと思っただけで」

「やっかましい!!」


 アシェは振りかぶり、小石を投げた。

 トウマはアシェが現れた驚きで上手く動けず、小石が鼻に直撃。


「へっぶし!? いっだぁぁぁぁ!?」


 鼻血が出た。

 慌てるビャクレン。そして騒ぎを聞きつけ護衛騎士がわらわらと集まり出し、さらに寝間着のリヒト、マール、カトライアもマギアを持って飛び出してきた。

 

「あ、アシェ!? まあ、あなた、なぜ!?」


 驚くマール。

 アシェは言う。


「いろいろあってね。とりあえず、届け物があるの……それとトウマ、アタシが来た以上、エッチなことは厳禁だからね」

「……へぇい」


 鼻血を出すトウマは、がっくりとうなだれるのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 朝食後。トウマ、アシェ、マール、カトライア、リヒトは、屋敷のリビングにいた。

 リヒトは言う。


「驚いたよ。アシェさんが来るなんて思わなかった」

「ま、向こうでいろいろ言われてね。届け物と……あと、アタシも『斬月』に参加するわ。指揮官として後方支援に徹するから」

「ふふ、頼もしいですわ」

「そうね。というか……トウマを止められるの、やっぱりアシェだけだわ。私たち、けっこう苦労してね……はぁぁ」


 ため息を吐くカトライア。アシェは苦笑して言う。


「どうせ、王様にタメ口とか、ピュリファイ公爵家の当主に喧嘩腰で話しかけたりしたんでしょ」

「「「…………」」」

「え、マジ? 冗談で言ったんだけど……」


 視線を逸らすリヒトたちに、アシェは申し訳なさそうな顔をするのだった。

 トウマは、小石をくらった鼻をさすりながら言う。


「なあ、届け物って何だよ。ムスタングの肉料理とか?」

「んなわけないでしょ。まずは……」


 アシェは、傍に控えていたルーシェに目配せすると、ルーシェが一つの細いケースを出す。

 それをリヒトの前に置き、開くように言う。

 リヒトがケースを開けると、そこにあったのは。


「これは……杖?」


 金属の細い枝が七本、絡み合ったような一本の杖だった。

 先端には純白の球体がはめ込まれており、リヒトが手に取ると……目を見開いた。


「わあ……まさか、これって」

「そ、アタシが作ったアンタ専用の新しいマギア。アンタの常識がぶっ壊れたような回復を見て、いろいろ思いついたのよ。七国の技術をふんだんに取り入れた新型、名付けて『トゥアハ・デ・ダナン』……どう?」

「……すごい。ほんの少し魔力を流しただけでわかる……『ティターニア』以上の力を出せる」

「これなら、マギアを修復しながら回復する必要ないわ。理論上では、常に全開で回復できるようになるはずよ」

「アシェさん……ありがとうございます!!」

「うん。まあ仲間だし、『斬月』の強化はリーダーのアタシの役目でもあるしね。あとマール、アンタのマギアもメンテするから出しておいて。カトライアのは……あんまり自信ないけど見てあげる」

「ふふ、ありがとうございますわ」

「お願いね。なんか、あんたがいるだけで引き締まるわね」


 マール、カトライアはルーシェにマギアを渡す。

 アシェは、紅茶を一口飲んで言う。


「さて、今の状況、どうなってんの? ピュリファイ公爵家に行ったらここ行くように言われてね。早朝で悪いかなーと思ったら、トウマが不埒なことしようとしてるし」

「……」


 トウマをジロッと見るアシェ。トウマは居心地が悪いのか、リヒトの隣で顔を逸らした。

 リヒトは苦笑し、今の状況をアシェに伝える。


「なるほどね……七曜月下との戦いが近いのね」

「うん。これから義姉さんと、セリアンが来るから……詳しい話はその時に」

「ええ。わかったわ……と、トウマ、アンタにも渡すのがあるわ」

「あん?」


 ルーシェは、細長い木箱をテーブルの上に置く。

 リヒトが空けた金属製のケースと違い、こちらはどこか古臭い。

 アシェが言う。


「グラファイトさんが、アンタのために打ったらしいわ。とりあえず、渡したからね」

「……グラファイト、あいつ、なんで」

「アンタのおかげで、また剣を作れるようになったんだってさ」

「……そっか」


 トウマは、どこか嬉しそうに微笑んだ。

 そして、木箱の組紐を解こうとした時だった。


「失礼いたします。リヒト様、アスルル様とセリアン様がお見えになりました」

「あ……わかった。応接間に通してください」


 タイミングが悪く、来客……トウマは肩をすくめるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ