月詠教・天照十二月『神無月』ポリデュクスと『霜月』カストル②
「ふーん、人間たちが七曜月下討伐に動き出したんだ」
光の国チーフテン、支配地域にあるドームの中にて。
天照十二月『神無月』のポリデュクスは、白衣を着て手には金属製の板を持っていた。しなやかな指が板をなぞると、透明な映像が現れては消え、文字や図形がいくつも表示される。
そして、ポリデュクスに情報を伝えたのは、傘を差した男……フラジャイル。
「やっこさん、七曜月下討伐に向けて動き出したよ。まあ、すでに三国解放してるからねぇ、この勢いに乗って、他国から援軍を呼んで一気に月詠教を一掃……ってのは至極当然。どうすんの?」
「もちろん、迎え撃つわ。くっふっふっふ……ああああ、ようやく、ようやくなのよ? 私の『月兵器』が真の力を発揮できるの!! 月の大地じゃ岩石の的しか相手できなかったけど、人間相手に思いっきり戦える。あ~たのしみ!!」
「はあ……で、どうすんの」
フラジャイルは「大丈夫かなコイツ……」みたいな目でポリデュクスを見た。
すると、ドームに新たに取り付けたドアから、弟にして天照十二月『霜月』のカストルが、汗を拭いながらラフな格好で現れた。
手には、四角い金属製の板があり、それを手で弄びながら言う。
「姉さん、起動試験終わったよ。地上でも問題なく兵装を使える」
「はいはーい。カストル、気になることある?」
「ないね。姉さんの『月兵器』はいつも最高だよ」
「ふふん、当然」
フラジャイルは、ポリデュクスとカストルを見た。
天照十二月で最も優れた頭脳(自称)のポリデュクス。その頭脳で生み出した『月兵器』は、人類が生み出したマギアを遥かに超える技術で作られており、ポリデュクス以外に構造を理解できる者はいない。
そして弟のカストル。ポリデュクスが生み出した月兵器を使うことができる月の民。
単体では天照十二月でも実力は最下位。だが、それぞれが互いの長所を生かすことで、『暦三星』に匹敵する力を持つ、二人で一人の『天照十二月』……それが、この二人。
「カストル。調整終わったら、人間の国に宣戦布告しに行くわよ。たぶん人間ども、七曜月下のことばかりで私たち『天照十二月』のことなんて知らないでしょ? ちゃんと教えてあげないとね」
「あ、それなら問題ないんじゃないかね。『斬神』がいろいろ情報提供してるでしょ……ていうか、宣戦布告とか必要かね?」
フラジャイルの疑問。するとポリデュクスは胸を張って言う。
「当然、必要!! この私が直々に宣戦布告するの。ふふん、一度やってみたかったのよねぇ」
「……さいですか。ところで、新人くんは?」
新人……天照十二月『師走月』マサムネのことだ。
仮面を被った剣士。今、わかっているのはそれだけ。
カストルは言う。
「さっき、ドームの上で昼寝してるの見たよ。仮面被ってるから寝顔とかわかんないけど、イビキかいてたし寝てると思う」
「ったく、新人のくせに生意気ね……まあいいわ。フラジャイル、アンタは七曜月下と新人と、部下たちの準備と指揮をお願いね。私とカストルは自由に動くから」
「はいはい、わかりました……っと」
面倒くさがりのフラジャイル。しばらくは忙しいだろうと、大きなため息を吐くのだった。
◇◇◇◇◇
ドームの上で、マサムネは昼寝をしていた……が、辺りはすっかり暗くなっていた。
「んが……ああ、夜か」
身体を起こし、大きな欠伸をし、空を見上げる。
瞬く星、煌めく月が見えた。
ドームの上にまた寝転がり、月を眺め……「あ」と思い出したように身体を起こす。
「やっべやっべ。忘れてた」
マサムネは、ポケットから金属のケースを出し、スイッチを押す。
すると、上部が一部スライドし、そこから小さな銀色の玉が一粒出た。
それをつまみ、マスクの顎にあるスイッチ押した。そうすると、マスクがスライドし口元が露わになり、ベロを出して銀の玉を乗せ、飲み込む。
「薬とか、めんどくせえなあ……まあしゃーないけど」
ケースをしまい、マスクのスイッチを押して口元を隠す。
ドームの上に立ち、大きく伸びをして……月に向かって手を伸ばす。
「……月を斬る、だっけ。トウマのやつ、おもしれえなあ」
会ったことのない『斬神』……だが、マサムネはトウマを想うと胸がわくわくした。
腰にある剣の柄に手を乗せ、抜刀する。
「トウマ、斬り合いてぇなあ……オレの本能が叫んでる。トウマはオレと戦う運命。そうだよな、トウマ」
剣を振るい、鞘に納めるマサムネ。
そして、もう一度だけ言う。
「トウマ。お前はオレが斬る。それが、オレの存在理由だからな」