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メルキオール・ピュリファイ公爵

 応接間にて。

 リヒトは、父メルキオールと向かい合っていた。

 同席してもいいと言うので、トウマにビャクレン、マールとカトライアも一緒である。

 マールは、微笑を浮かべつつも思う。


(……綺麗なお方ですわ)


 目麗しいとは、メルキオールのことだろう。

 三十代後半。マールの父と同級生とのことだが……メルキオールは、下手をしたら成人したての青年に見えた。それくらい若々しい。 

 マールは、光の国チーフテンの美容品、そして若さの秘訣を何としても知りたい……そう思った。


「叙爵、おめでとう」

「え、あ……ありがとう、ございます」


 マールがそんなことを考えていると、メルキオールが静かに……だが、どこか冷たい笑みを浮かべた。

 そして、メイドが出した紅茶カップを手に取り、口に付ける。

 優雅な仕草、そしてカップを置く様も美しかった。


「やられたよ。リヒト……せっかく、お前を後継者候補に戻してもよかったんだが、陛下の計らいによりピュリファイ公爵家から完全独立。新興貴族となれば、私でも手が出せん」

「……」

「ふぁぁ~……なあ、用件って嫌味だけか? 俺ら忙しいんだよ。邪魔すんなら帰れ」


 トウマの無礼な発言にも慣れ始めていたマールたちだが、やはり青ざめる。

 七大公爵家、守護貴族の当主に『邪魔』なんて、今この世界にいる人間は絶対に言えない。だが、メルキオールはトウマを見て「ふっ」と口を歪めた。


「ヴィンセント、ガルフォス、グロッタの手紙にあった通り、無礼な少年だ」

「え……お父様が、手紙を?」

「お母様も?」

「ああ。そちらの令嬢は、ガルフォスとグロッタの子か……驚くことではない。七国の守護貴族、当主は皆同期でもある。当主として手紙のやり取りくらいする。それに、短期間で三国が七曜月下の支配から脱したのだ。こちらも協力要請くらいはするさ。だが……」


 メルキオールはトウマを見た。


「三人とも、揃いも揃って『斬神トウマを頼れ』としか言わん。手練れのマギナイツ百名より、この少年一人のが役に立つと言う」

「「…………」」


 マール、カトライアは顔を見合わせた。

 間違っていない。そう言葉に出さず会話をした。

 メルキオールはトウマを見て言う。


「まあいい。今回、お前たちが前線に出ると聞いて、総司令官である私が直々に来た。陛下からも言われたからな……お前たちの力になれ、と」

「父上……」

「父と呼ぶな。テンコウ伯爵、お前はもうピュリファイ公爵家の人間ではない」

「……っ」


 それは、拒絶だった。

 もう息子とは思わない。メルキオールの目がそう語っていた。

 決していい父とは思っていない。だが、息子である自分を拒否する姿勢は、息子であるリヒトにとって胸を抉るような痛みだった。

 メルキオールは、リヒトの心情を無視して続ける。


「光の国チーフテンの支配地域についてはどれだけ知っている?」

「なんだっけ。起伏があんまりなくて、川とかいっぱい流れてて、日当たりもいいんだっけ。平原とかいっぱいで、農耕地に向いてるとか言ってたな」


 リヒトの代わり……というわけではない。トウマが思ったことを言う。

 メルキオールは頷く。


「その認識でいい。つまり、遮蔽物が極端に少ない……策を弄することができない、正面からの戦いになる」

「……地の国ヴァリアントでも正面からの戦いだったけど、あの時は岩石地帯だったわね」


 カトライアが言う。

 メルキオールは頷く。


「七曜月下『夜行』のシャードゥは武人気質で、正面からのぶつかり合いを得意としていたと聞く。フン、グロッタの得意分野でもあったな……だが、チーフテンを支配する七曜月下、『待宵』ギームスはそうじゃない。小細工を弄するタイプだ。が……このチーフテンの地では、その小細工を使う地形ではない。正面からの戦いになれば勝機は十分にある」

「甘いな」


 と、黙っていたビャクレンが言う。

 メルキオールは貴族でも何でもない、平民の小娘の戯言と思っているのか、視線を向けようともしない。だが、ビャクレンがメルキオールを睨む。


「ッ!!」

「私の言葉など聞くに値しないか? フン、小物が」

「何……? 貴様」

「この私が、お前たちに僅かばかりの情報を与えようと言うのだ。しかと聞け」


 メルキオールは舌打ち……ビャクレンがタダ者ではないと理解したようだ。


「はっきり言おう。七曜月下など問題ではない」

「何……?」

「天照十二月。間違いなく、月詠教最強の存在が来る。お前たちがすべきことは戦いではない、いかに師匠の戦いを邪魔しないかだ。七曜月下など、そこの三人に任せておけばいい」

「……天照、十二月? なんだそれは」


 メルキオールは知らない。現在、月詠教の最強は『七曜月下』であると人類は思っている。それ以上の存在など、まだ実感できていないのだ。

 マールは言う。


「メルキオール様。こちらの……ビャクレンさんの話は事実ですわ。わたくしたちも見ていませんが……トウマさんは、七曜月下を超える存在と戦い、勝利しています」

「……」


 マールの言葉は信じたのか、メルキオールはそれ以上言わなかった。

 そして、腕組みをし、指で腕をトントン叩きながら言う。


「……とにかく。私は全軍の指揮を執る。お前たちは七曜月下と戦う……それでいいんだな?」

「はい。お任せくださいな」

「七曜月下と交戦経験があるのは、私たちだけですからね」

「まあ大丈夫だろ。今回はお前らだけだし……敵の実力見て、俺が一撃加えるからよ。三人と互角になるくらいダメージ与えれば、まあなんとかなるだろ」


 相変わらず、トウマらしい言い方だった。

 だが、メルキオールが言う。


「待て。かの七曜月下と、未成年の子供三人で戦わせるわけにはいかん。こちらかも精鋭のマギナイツを派遣する」

「いらねーよ。てか言っただろ、この三人と互角になるよう、俺がダメージ与えるって」

「……本気で言っているのか」

「おう」

「……ダメだ。こちらからは、アスルルと……セリアンを派遣する。文句は言わせん」

「え……せ、セリアンを」


 と、リヒトが驚いていた。

 メルキオールは言う。


「この二人なら遅れは取らないだろう。子供に任せるというのも馬鹿らしいが……七曜月下を三人討伐したお前たちを信じよう。私は、月詠教の精鋭を討伐することに専念する」


 そう言うと、メルキオールは立ち上がり「あとはアスルルたちと話せ」と出て行った。

 トウマはソファにもたれかかって言う。


「イヤな奴だなー。お前のオヤジ」

「……あはは」

「リヒトさん、どうかしましたの?」

「え?」

「そうね。今の、セリアンだったかしら? その名前が出てからおかしいわよ」


 マール、カトライアに言われ、リヒトは苦笑する。


「あはは……まあ、いろいろあって」

「ふむ。セリアンというのは女か? なるほどな、抱いた女か?」

「「「ぶっ」」」


 いきなりビャクレンが言い、マール、カトライア、リヒトが噴き出した。

 リヒトは慌てて否定する。


「そそそ、そんなんじゃないよ!! せ、セリアンっていうのは、アスルル義姉さんの妹、その、ボクの親戚なんだよ」

「親戚か。つまらん」


 ビャクレンはあっさり興味を失った……何かを期待していたようだ。

 だがマール、カトライアは気になるのか聞く。


「それで、その方と何がありましたの?」

「うんうん、気になるわね」

「……大した事じゃないよ。ボクが……彼女を、裏切ったんだ」

「「……え」」

「……セリアンは強いよ。才能だけなら、アスルル義姉さん以上って言われてる。でも、十六歳って若いから、当主候補にはなれなくて……昔は、ボクとも仲が良かったんだけどね」

「おいリヒト」

「ん? っていたっ!?」


 トウマにいきなりチョップされ、リヒトは額を押さえた。


「なな、何を」

「暗い。お前、何か言うたびにドモったり暗くなんのやめろっつの。こっちまで気が滅入る」

「ううう、そんなこと言っても」

「とりあえず、みんなでメシでも食うか」


 トウマはあくまでマイペース。だが、戦いに備えて戦意が満ちていた。


「さーて、次はどんな敵が来るのかな。今からワクワクが止まんねぇや」

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