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一方その頃

「はい、アンタらの新しいマギアね」


 トウマたちがチーフテン王国に行ってしばらくした後……火の国ムスタング、『斬月』の本部にて。

 眼鏡をかけ、ボサボサの髪を適当にツインテールにまとめ、どこか眠そうなアシェが、リビングのテーブルに大きなケースを三つ並べた。

 それぞれ、ハスター、ヴラド、シロガネの前にケースは並んでいる。

 ハスターは言う。


「いやはや、早いね……制作始めて、まだ数日じゃないか」

「アタシ、アイデア思いついてから作るまでけっこう早いらしいのよ。図面とかも適当だけど、脳内でちゃんと仕上げてるから問題ないわ。ふぁぁ~」


 アシェは欠伸をする。

 三人は、それぞれのケースを開けて新しいマギアを手に取った。


「おお、いいね」

「オレのは変わってねぇな」

「……素晴らしい」


 ハスター、ヴラド、シロガネは満足そうにしている。

 アシェはソファにドカッと座り、大きな欠伸をした。


「いや~、七曜月下との戦いで、アンタらのクセとか、戦い方とか、まあいろいろじっくり見れたのが大きかったわ。全員のマギアの特性も見れたし、なによりカトライアの『ガイア』に触れることができたのはデカいわね。解析できなかったけど、レガリアの構造を多少は知れたし……ぶるっときたわ」


 ぶるっと、の意味が三人には不明だったが……自分の手にある新しいマギアは、七国の技術がふんだんに盛り込まれている。

 

「使い方、説明するわ。けっこう機能増えたところもあるから。説明書とか作るのめんどくさいし、アタシの説明ちゃんと聞いてよね」

「アシェ、やっぱキミって天才だよ」

「……お前、いずれレガリアも作れるんじゃないか?」

「……素晴らしい」


 三人はアシェのマギア技師としての才能に、改めて感服するのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 訓練場でマギアの説明を受け、それぞれ新たな特性を試した。

 間違いなく、七曜月下と戦った時よりも強くなった。もし、今のマギアを手にし、七曜月下『夜行』のシャードゥと戦うことになれば、もっと確実に、負傷も少なく戦えただろう。

 リビングに戻ると、ルーシェが来客を出迎えていた。


「あ、こんにちはー!!」

「こんにちは、皆さん」


 マヤノ、そしてグラファイトだった。

 大地の四神と呼ばれた現人神の一人、『鉄神』コンゴウザン・クガネの子孫。

 アシェはマヤノと軽くハイタッチし、シロガネに言う。


「シロガネ。アンタの剣の刀身、グラファイトさんが打ったのよ」

「……なんと」

「いやあ……」


 グラファイトは照れる。

 そして、グラファイトとマヤノをソファに案内し、菓子とお茶を振舞った。

 ルーシェは紅茶を出しつつ言う。


「グラファイトさん。その……剣って、もう作らないんじゃなかったの?」


 グラファイトは、強盗が自分の打った剣を使い、妻を殺したせいで剣を打たなくなった。

 アシェはトウマからグラファイトを紹介されており、今回、シロガネの新型マギアの刀身制作をダメもとで依頼してみたのだが……なんと引き受けてくれたのだ。

 グラファイトは、小さい笑みを浮かべ、お菓子を食べるマヤノを撫でながら言う。


「ああ。実は……夢を見てね」

「夢?」

「うん。妻が……怒ったように笑って、『あなたの務めを果たしなさい』って言うんだ。ははは……都合のいい夢だと思ったけどね」

「……そう、なんだ」


 ルーシェが驚いたように言うと、グラファイトは頷く。


「トウマくんが、うちの柱を彫刻した『斬神』の像ができた日に見た夢でね……まるで、トウマくんの神像が、殺されて縛られたままの妻の魂を浄化してくれたような気がしたんだ。天国に行く前、だらしのない、過去に縛られた私を、説教にしに来てくれたような気がしてね……夢を見たあと、私は刀剣造りを再開したんだ」


 グラファイトは、どこか晴れ晴れとした笑顔を浮かべていた。

 トウマ、マールが今のグラファイトを見れば、きっといい笑顔を見せただろう。

 アシェは言う。


「グラファイトさん、今日は何か?」

「ああ。トウマくんは……まだ帰ってこないか」

「ええ。光の国チーフテンに行ってます。まだまだ帰ってこないと思いますよ」

「そうか……」

「あのねー、パパ、トウマお兄ちゃんのために、けんをつくったの!!」


 と、マヤノが嬉しそうに言う。

 グラファイトの傍には、長い木箱が置いてあった。

 グラファイトは言う。


「トウマくんから以前、非常に純度の高い『月晶石』をもらってね。それと、倒壊した我が家の墓地を整理していたら、古い日記帳……『鉄神』コンゴウザンの日記が見つかったんだ。そこには、彼の編み出した独自の鍛冶技法が記されていてね……私も、作ったんだ」


 グラファイトは木箱を開ける。

 そして、そこに納められていた『刀』を手にし、静かに鞘から抜く。


「……わあ」

「……おおお」

「……マジかよ」


 アシェ、ハスター、グラファイトは、その刀を見て息をのむ。

 そして、シロガネは。


「…………」


 絶句していた。

 刀を振るうからこそわかる、その美しさ、刃の煌めきに魅了されそうになった。


「今の私、最高の刀だ。もちろん、まだまだ満足していないし、物足りない……だが、これをトウマくんに受け取ってほしくてね」

「トウマなら、喜んで受け取ると思います」


 間違いなかった。刀に知識のないアシェたちでさえ、その美しさに魅了された。

 すると、ルーシェが言う。


「じゃあさアシェ、あんたが光の国チーフテンに届けに行けば?」

「は?」

「新しいマギア、もう一個あるんでしょ?」


 と……部屋の隅にあった、もう一つのケースをルーシェが指差した。

 ハスターが言う。


「そうそう。オレも気になってたけど……もしかしてアレって、リヒトの?」

「まあ。そうだけど……リヒトの『ティターニア』って、どう見てもリヒト自身の魔力出力に耐えきれてなかったでしょ? だから、魔導回路の改良とか、新しい機能を付けた新型、一応作ったのよ」


 ルーシェが言う。


「じゃあ、届けに行けばいいじゃん。この中だと、他国に行けるのアシェだけでしょ? どうせ学園の課題なんてすぐ終わるんだし、その刀と、リヒト坊ちゃんに新しいマギア届けたら?」

「えぇ~? う~ん」

「トウマくんに届けてくれるなら預けるよ」

「……まあ、はい」


 グラファイトは、アシェに刀を預け、マヤノと帰って行った。

 アシェは考えて言う。


「届ける、って……アタシが光の国チーフテンに行くの? というか、チーム行動だし、今回は留守のアタシが行くのもなんかその」

「トウマに会う口実できたじゃん。ほれほれ、旅の支度はメイドにお任せ~」

「る、ルーシェ!! まだ行くなんて言ってないでしょ!!」

「あ、あたしも一緒に行くから。さすがに一人旅は危険だしね~」


 ルーシェは行ってしまった……旅支度をするようだ。

 アシェはまだ悩んでいるようだが、ヴラドが言う。


「行けばいいだろうが。めんどくせえヤツだな」

「う、うるさいな」

「あはは。アシェ、かわいいところあるじゃないか。トウマに会いたい、ね」

「だ、だからうるさい!!」

「……好きにすればいい」

「し、シロガネまで……う~、ああもう、わかったわよ。行くわよ!!」


 アシェは、顔を赤くして叫ぶように言うのだった。

 こうして、アシェとルーシェは、光の国チーフテンに向けて出発するのだった。

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