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チーフテンの王様に謁見

 翌日、トウマたちはチーフテンの国王陛下に謁見をする時間になった。

 そして、荷物の中にあった『制服』に着替え、五人は王城前に並ぶ。


「いやー、こんなカッコいい服あったなんてな。ルドルフのやつ、気が利くじゃん」


 制服は、特殊繊維で編まれた特注品だ。

 セブンスマギア魔導学園の制服に似ているが、色は城を基調とし、七国のイメージカラーがそれぞれ取り込まれている。そして、それぞれの制服には、出身国の色が最も大きく出ていた。

 マールは青、カトライアは黄色、リヒトは白。

 トウマ、ビャクレンは均一のカラーラインが引かれているが、トウマは背中に『刀』の刺繍が、ビャクレンは交差した小太刀の刺繍があった。

 マールは言う。


「これが、『斬月』の制服なのですね……というか、馬車に見慣れないカバンがあったと思ったら、まさかこんな制服が入ってるなんて思いませんでしたわ」

「いいじゃない。ふふ、なんだか特殊部隊、って感じがするわ」


 カトライアも、少しウキウキしているようだ。

 だがリヒトは、やや浮かない顔をしてため息を吐く。


「おいリヒト。辛気臭い顔すんなよ。実家の連中なんて無視しちまえよ」

「いやあ……でも」

「まったく、貴様は師匠に言われたことを忘れたのか? なよなよするなと言われただろうが」

「あ、はい……」


 ビャクレンに睨まれ、リヒトはビクッと頭を下げた。

 トウマは腰にベルトに刀を差す。


「とにかく、俺らは『斬月』だ。月を斬る最強の部隊!! く~かっけぇな!!」

「あの、わたくしたちは月を斬るなんて考えていませんからね」


 マールがジト目で言うと、王城からリヒトの姉アスルルが来た。


「これより、国王陛下の元へ案内する」

「あ……」


 アスルルは、リヒトを見たが特に何も言わない。

 トウマはウキウキしながら言う。


「いやー、ムスタングの王様の書状ってすげえな。国王陛下にすぐ謁見できるとかさ」

「当然でしょう。直筆の書状なんて、どの国でも通用するわよ。でも、内容は『謁見し、話を聞いてやれ』だから、その国が力を貸してくれるかどうかまでは不明ね」

「ふーん。でもまあ、大丈夫だろ。王様に『七曜月下討伐するから邪魔すんな』って言えばいいんだろ」

「ぜっっったいにやめなさいよ……うう、アシェ、今はすごくいてほしいわ」


 カトライアがトウマに顔を近付け、挑むように言う。

 トウマはウンウン頷くが、どこかニコニコしていた。

 アスルルは言う。


「……案内する。無礼のないようにな」

「はい。よろしくお願いいたしますわ」


 マールがカーテシーで一礼。アスルルのあとに続いて歩き出した。


 ◇◇◇◇◇◇


「お前たちが火の国ムスタングから来た英傑か。まあ楽にせい」

「…………」


 トウマはポカンとしていた。

 トウマ、ビャクレン以外の三人は跪いていたが姿勢を崩さない。トウマは驚きから立ったままだ。

 何故か? 理由は、目の前にいる王様である。


「子供じゃん」


 思わず口にするトウマ。

 そう、光の国チーフテンの国王陛下は、子供だった。

 まだ十二歳ほどだろうか。王冠を被り、姿勢を崩して玉座に座っている。

 少年……どうみても子供。大人というのは無理がある容姿だった。

 あまりにも無礼。わかってはいたが、マールとカトライア、リヒトは真っ青になる。

 だが、王は笑った。


「あっはっはっはっは!! よいよい、朕にそんな無礼な言葉を直接吐き出す男は久しぶりだ」


 王は手で制していた。いつの間にかトウマの周りに、アスルルを含む熟練のマギナイツたちが武器を手に囲んでいたのだ。

 トウマ、ビャクレンは全く気にしていない。

 国王は言う。


「ムスタング、マティルダ、ギャラハッドの国王から手紙をもらった。中身は……想像以上に面白かった。かの『斬神』が復活したこと、そして一年も経たずに七曜月下を三人も討伐し、三国の領地解放をしたこと……普通の人間は信じまいが、朕は王。信じよう」

「おう。なあ、お前の名前は? 俺はトウマで、こっちはビャクレン」


 今度は、周りを巻き込んで唖然とさせるトウマ……間違いなく、一国の王を『お前』と呼んだ。

 さすがに王も驚いたが、すぐに大笑いし、涙をぬぐう。


「いやー……本当に気に入った。ああ、朕はエードラム。エドで構わん」

「そっか。じゃあエド、俺ら七曜月下を討伐するわ。あと月から超強い敵も来るからそいつらも倒す。手ぇ貸せとは言わんけど、邪魔すんなよ」

「わかった。だが、領地の国境に軍は配備するぞ。それと、腕利きのマギナイツを何人か付けることもできるが」

「いらね。俺が鍛えた仲間がいるしな。ああそうだ、お前王様なんだよな。うちのリヒトにちょっかい出すなって、リヒトの家に言っといてくれよ」

「とととと、トウマくん!?」


 愕然とするリヒト。トウマが空気を読まなかったり、読めなかったりすることは気付いていたが、今、この場で言うことでは絶対にない。

 エドは、リヒトをジッと見る。リヒトはビクッとしてしまった。


「ふむ……ピュリファイ公爵家の三男だったか。メルキオールめ。才能至上主義というのは変わらんな。そもそも、ピュリファイ公爵家に求めるのは『癒し』の力なのだが、やつめ……攻撃力ばかり求めおる。癒しの才能がない者を当主にすること数世代……この流れ、そろそろ止めねばんばらんか」

「すっげえジジ臭い言い方だけど、お前いくつなんだ? 子供だろ?」

「ははは。朕はもう六十を超えているよ。この姿はマギアによる力だよ」

「マジで。ろ、六十って……どういうマギアだ?」


 エドは言う。


「光の国チーフテンはもともと、医療国家だ。だから、マギア治療に関する技術は飛びぬけておる。若返り、美容のマギア研究も多いに進んでいるぞ」


 マール、カトライアが目を輝かせているのが見えるトウマ。女性だからこそ、惹かれるものがあるのだろう。


「だが、癒すだけでは国は守れん。だからこそ、圧倒的な力を持つピュリファイ公爵家が、光の攻撃魔法を作り、月の民と戦ってこれた。だが……それでも、この国は癒す力を持たねばならん。七国が傷ついた時、光の国チーフテンが癒さねばならんのだ。ピュリファイ公爵家は生まれつき、癒しの力に特化した子が多く生まれるが……」

「リヒト、家じゃ冷遇されてんだとさ」

「とととと、トウマくんんん……!!」

「ふむ……」


 エドは少し考える。そしてトウマが言う。


「あ、そうだ。だったらさ、リヒトを独立させろよ。家から除名して、リヒトが新しい爵位を持てばいいじゃん」

「ほう、確かにいいかもしれんな」

「あががガガガガガガが………」


 本人の目の前で、意味不明な今後が展開されていく。リヒトは顎がガタガタ震えた。

 

「ていうかさ、あとで聞いた話なんだけど、リヒトの回復はすげぇぞ。頭が破裂しても一瞬で復元したり、四肢とか内臓が吹っ飛んでもきれいさっぱり治ったみたいだしな。なあ、カトライア」

「え、ええ。私は経験しました。リヒトさんの回復……いえ、回復と言っていいのか。失った血液、内臓、筋肉や骨を魔力によって補うなんて……」

「……待て。その話、事実か?」

「は、はい。り、リヒトさん……実家にご報告されているはずですが」


 エドがカトライアをジロッと睨む。そして、アスルルを睨んだ。


「報告が、なかったようだが」


 ゾッとするような声だった。

 アスルルはビクッと震え、小さい声で言う。


「も、申し訳ございません……し、真偽不明とのことで、ほ、報告を怠りました」

「……チッ」


 エドの舌打ちに、アスルルは真っ青になったまま俯いた。


「ふむ。損傷部位の完全復元といったところか……どのようなマギアを使って直した? それだけ複雑な術式を刻んだマギアなぞ、レガリア以外に存在するのか?」

「陛下。よろしいでしょうか」


 と、マールが挙手。

 エドは頷く。


「リヒトさんの癒しは、マギアによるものではありません。マギアに刻まれた回復術式を使用していましたが……リヒトさんがマギアを使用するだけでマギアそのものが破損していました。それだけ膨大な魔力を流した結果、マギアが破損したようです」

「ほう。それでは回復が発動しないではないか」

「ええ。驚いたのは……リヒトさんは、壊れたマギアすら、マギアの術式を利用して直したんです。矛盾していますが、この目で見ましたわ……膨大な魔力でマギアが破損、しかし一瞬で復元を延々と繰り返し、常に回復を発動させていた……その、おかしな言い方ですが」

「よい。信じよう……さて、言葉だけでは物足りんな」


 エドは、近くにいたマギナイツに目配せする。

 それから数分せず、担架に乗った兵士と、リヒトのマギア『ティターニア』が運ばれた。

 担架に乗った兵士は、息も絶え絶え、四肢は全て失われ、全身が包帯まみれ。さらに齧られたのか頭部が破損していた。

 ここまで酷い重傷者は、マールたちも見たことがない。


「巡回中、魔獣に襲われたマギナイツだ。見ての通り……恐らく、あと数時間ももたん」


 マギナイツが、リヒトに『ティターニア』を渡す。

 真っ青なリヒトは、エドを見た。


「ま、まさか」

「見せてみろ。お前の力。その力を示すことができれば、新興貴族として加盟を授ける」

「そ、そんな!! ふ、不可能です、ボクはまだ、どうしてあんな力を使えたのか、その」

「おい!!」


 と、リヒトの胸倉をトウマが掴んだ。


「できる」

「……え」

「お前はできる。ってか言ったよな? その言い訳から初めて、ウダウダウダウダウダウダウダウダグチグチグチグチグチグチ言うのやめろって。見ろよ、あそこにお前の姉貴いるだろ? エドに叱られて縮こまってるけど、明日にでも高圧的で傲慢な姉に戻るぞ。またお前を馬鹿にすんぞ」


 全員が「えええ~……」という表情をした。

 トウマは続ける。


「お前はピュリファイ公爵家のリヒトじゃねぇ。今日から……そうだな、テンコウ、テンコウだ。エド、こいつの家名テンコウにしてくれ」

「構わんが、どういう意味だ?」

「俺のいた時代、古い言葉で『天光』……天からの光って意味だ。リヒト、お前の癒しの光は、天から降り注ぐ希望の光だ。その光、見せてみろ。壊す光じゃない、癒しの光を見せやがれ」

「トウマくん……」


 トウマはリヒトから手を離し、その胸を叩いた。


「頼むぜ。『斬月』の回復士さん」

「……」


 リヒトは、マールとカトライア、そしてビャクレンを見た。

 三人とも、静かに頷いて笑みを浮かべていた。

 経験者だからわかるのだ。リヒトの癒しなら、必ず救えると。

 リヒトは呼吸を整え、負傷者の前へ。


「リヒト」

「……?」


 トウマは、拳を突き出して言った。


「ぶちかませ」

「──うん!!」


 次の瞬間──青白い光が放たれた。

 ピュリファイ公爵家が誇る癒しの光、『青白い治療光(アズール・リフレイン)』。

 レガリア『アスクレピオス』を使わず、馬鹿げた魔力だけで放つ究極の癒し。

 すると、魔力が負傷者の断面にまとわりつき、肉となり、骨となる。

 欠けた頭部が修復され、さらに四肢が生え、髪まで生えた。

 包帯がはらりとほどけ、現れたのは。


「……ぅ」

「って、ええええ!? ああ、あの、えと、これ!!」


 女性……いや、まだ少女だった。

 十八歳くらいだろうか。裸で現れたので、リヒトは慌ててマントを脱いでかける。

 少女は、リヒトを見て、自分の身体を見て言う。


「あ、あれ……私、なんで」


 リヒトは、少女の傍にしゃがみ込み、優しく微笑んだ。


「もう、大丈夫です。あなたの怪我は、治療しましたので」

「……っ」


 少女はポロポロ涙を流し、リヒトの手を取ってウンウン頷くのだった。

 トウマは、いつの間にかエドの傍に来て言う。


「リヒト・テンコウの誕生だな」

「誰もが疑うまい。これだけの奇跡を見せられたらな。くくく……」


 こうして、リヒトの新たな人生が始まるのだった。

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