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月詠教・天照十二月『神無月』ポリデュクスと『霜月』カストル①

 光の国チーフテン、支配領地。

 チーフテンの支配地域は、全体的に見て平原が多い。

 日当たりがよく河川の流れも多く、土壌も柔らかで草木や森が豊富だ。つまり、農地や牧場にするにはうってつけの土地である。

 そんな支配地域の最奥に、平原に不釣り合いな大小の『ドーム』がいくつもあった。

 まるで、大地にできた『イボ』のような、真っ白な人工物。

 当然、それは『月詠教』が設置した、月の民が住む居住区である。

 その『ドーム』の中で最も大きい場所に、十七歳ほどの少年がいた。


「くぁ……」


 真っ白な法衣を着て、ズボンではなく半ズボンを履いていた。

 サラサラなショートヘアは片目だけ隠れており、大きな欠伸をしたせいかもう片方の目は涙ぐんでいた。

 少年は、ドームの中で一段高い、玉座のような場所。その横に、天井からわざわざ吊るしたハンモックに寝転がっていた。

 そして、玉座の下では、三十代後半で長髪の男と、その部下たちが跪いている。


「……あ、あの」


 男は、少年に声を掛けた。今日、初めてのことである。

 男の名はギームス。光の国チーフテンを半支配する『七曜月下』の一人であり、『待宵』という二つ名を賜った、月詠教でも上位の存在だ。

 だが……ハンモックに寝そべる少年は、ギームスが百人いたところで、傷一つ付けることのできない、月詠教最強の十二人、その一人。

 天照十二月、『霜月』のカストル。

 十二人の中では序列十一位だが、それでもギームスとは次元の違う強さを持っていた。

 カストルは、欠伸をしてギームスを見る。


「ん、なに」

「その……」


 ギームスは困った。

 かれこれ、もう十時間以上、跪いている。

 

(な、なぜ……なんの連絡もなく、天照十二月が……)


 十時間前、いきなり『天照十二月』がやってきた。

 しかも……『四人』も。

 月を守護する『月光の三聖女』と『天照十二月』と『断罪者』……最強の戦力のうち、四人も、ギームスがいるこのチーフテンにやってきたのだ。

 仰天どころではない。月に何かあったのかと思わない方がおかしかった。

 

(……間違いなく、七曜月下が三人も敗北したこと、だよな)


 七曜月下の討伐。過去、何度かあったことはギームスも知っている……が、この短期間で三人も討伐されたなんて、ギームスが七曜月下になって初めてのことだった。

 

(噂は、事実……間違いないのか)


 人間側に、二千年前に全滅したはずの『現人神』が復活した。

 最初は、デマもいいところだと思った。

 現人神……真の神である『月神』が認めた、人間ながらにして神の領域に踏み込んだ存在。

 七曜月下を討伐したのは、かつて『月神』を一度斬り殺した『斬神』だった。

 まさかと思った。だが……一年も経過していないのに、七曜月下が三人も殺された。

 月も、事実と認め……こうして、最強戦力の一つである、天照十二月が現れたのだ。

 そこまでギームスが考えていると、背後のドアが開き、二人の男女が入って来た。


「ただいま、カストル」

「ん、姉さん。下見終わったの?」

「ええ。なかなかいい大地ね。ここなら、思い切り仕掛けることができるわ」


 少女だった。

 カストルと全く同じ顔をしている。だが、隠れている目が逆だった。

 カストルは右目を隠しているが、少女は左目を隠している。

 天照十二月『神無月』のポリデュクス。少女はロングヘアを手で払い、後ろにいた男に言う。


「準備に取り掛かるわ。で……来たんでしょ?」

「あー……ああ、『斬神』がチーフテンの王都に入ったようだ。こっちに喧嘩仕掛けてくんのも時間の問題かねぇ。アタシはあんまりやりたかぁないけど」

「やらなかったらあなた、聖女様に殺されちゃうわね」

「……わーってますよ。序列六位のアタシは、序列十一位、十位のオタクらに従いますよ」

「フン。序列なんて、意味がないってことわかるでしょ? さてさて……『斬神』をお出迎えする準備をしないとね」

「……姉さん。悪い顔してるね」

「そりゃそうよ。ふふふ……考えるだけで使ったことのない『月兵器』を、この大地で好きなだけ使えるんですもの!! カストル……わかる? 私の『技術』を全投入すれば、『暦三星』だって敵じゃない」


 ポリデュクスは髪を払い、自信満々に胸を張る。

 自称、月最高の頭脳。それがポリデュクスである。

 

「斬神……フフフ、あなたは私の『月兵器』を斬れるかしら。オ~ッホッホッホ!!」


 ポリデュクスは高笑いし、カストルはどこかめんどくさそうに欠伸をするのだった。

 男……フラジャイルは、傘を差して言う。


「あれ、そういや……新人君は?」

「いやー、すんません!!」


 と、フラジャイルたちとは別のドアを開け、慌てたように誰かが入って来た。

 中肉中背、白を基調とした学生服のような特注の戦闘服を着ており、胸元を開けている。

 腰には太いベルトをして、剣を二本差していた。

 だが……何よりも目立っていたのは、『仮面』だった。


「寝過ごしちゃいました。あっはっは、いやあお腹減ったなあ。そこのキミ、なんか食いモンある?」


 仮面の男は、近くにいた司祭に食事を要求。

 顔を完全に隠す仮面をしていた。そして、どこか軽薄そうだった。

 ポリデュクスは男を睨んで言う。


「あんた、新入りだったわね。名前なんだっけ?」


 男は、ポリデュクスに向かってぺこりと頭を下げた。


「うっす。自分、『マサムネ』って言います。新人ですけど、めっちゃ強いんでよろしくお願いしまーっす」

「……軽薄なやつね。まあ、いいわ。あんたも私の指示に従ってもらうから」

「うっす。センパイ、よろしくお願いしまっす」

「……まあいいわ。フラジャイル、こいつのことよろしく」

「えええ……まあ、はいよ」


 フラジャイルは、仮面の男を手招きする。


「とりあえず、アタシと偵察行こっか」

「はーい!! いやー、人間の大地って初めてなんでワクワクしますねー」

「……ははは」


 マサムネはケラケラ笑っていた。だが……小さく呟いた。


「……『斬神』か。会えるといいなあ」

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