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ナドの森……と、思いきや

 ナドの森。

 光の国チーフテンの危険地帯の一つ。

 不思議な森だった。木と木の間がかんり広く、藪などがない。平坦な地に樹木を乱雑に植えただけのような、変な森だった。

 地面には草もあまり生えていないので、獣道というのがない。

 それに、木々の葉が不思議なことに白っぽく、僅かな光を反射しあって森全体が非常に明るかった。

 さらに……危険地帯の一つであるはずなのだが、魔獣の気配が全くない。

 トウマは、不満そうにリヒトに言う。


「おいリヒト。ここ、ホントに危険地帯なのか?」

「うん。ここ『ナドの森』は大型魔獣の寝床が多くあってね、果実も多くて鳥型魔獣たちの巣も多くあるんだ。踏み込んだ人間はほとんど戻って来ないって話だけど……」


 周囲を見渡すが、やけに明るく、魔獣の気配はない。

 しばらく進むと、ビャクレンが何かに気付いた。

 トウマたちから少し離れ、その場にしゃがみ込む。


「師匠。こちらを」

「ん?」


 そこにあったのは、足跡だった。

 そして、マールも気付く。


「あら? ねえカトライア……この木」

「これって……傷ね。リヒト、これって」

「……あ」


 木には、歪な文様が刻まれていた。

 それを見てリヒトはすぐに気付いた。ほぼ同時にトウマも気付く。


「……何か来るな」

「これは、紋章だ……」


 トウマたちに近づいて来る足音。

 マールたちも気付いた。いくつもの足音が近づいて来る。

 木々の間を通り、こちらに向かって来るのは……白い鎧を装備したマギナイツ一行だった。

 その先頭に立つのは、剣を刺した騎士の女性。

 その顔立ちは、どこかリヒトに似ていた。


「……アスルル、姉さん」

「貴様、リヒトか……なぜここにいる。そして、誰だそいつらは」


 厳しい目をトウマ、マール、カトライア、ビャクレンに向けていた。

 トウマは特に気にしていないが、ビャクレンの眉がピクリと反応する。

 すると、マールが前に出て、懐から一枚の書状を出して言う。


「わたくしたちは、セブンスマギア魔導学園所属、七曜月下討伐組織『斬月』ですわ。こちら、火の国ムスタング国王による正式な書状です」


 カトライアも、国王からもらった『聖印』を見せる。

 アスルルと呼ばれた女性は、部下に書状を持ってこさせ自分で確認。カトライアの聖印を見て眉を動かし、マールに書状を返還する。


「……確かに、火の国ムスタングの正式な印で間違いないな。というか……火の国が発足した組織に、なぜお前がいる。出来損ない」

「……それは」

「おいおいおいオバサン、出来損ないとか誰に言ってんだ? リヒトはマジですごいんだぜ? 聞いてないのか? 地の国ヴァリアントの七曜月下討伐、リヒトがいなきゃみんな死んでたぞ」

「……今、何と言った?」

「は? いや、リヒトがいないと」

「この私を、なんと言った」

「ああ、オバサンって言ったけど。あんた、三十代後半くらいだろ? オバサンじゃまずかったか?」


 リヒトは真っ青になり、震えた声で言う。


「とと、と、トウマくん……アスルル姉さんは、二十九歳だよ」

「そうなんか。まあどうでもいいけど」

「トウマさん。前から思っていましたけど……あなた、女性の扱いが絶望的にダメですわね」

「同感よ」


 マール、カトライアがトウマを非難するように見ていた。

 そして、青筋を浮かべたアスルルが言う。


「……ここで貴様を斬り殺すのは容易いが、火の国と諍いを起こすのはよろしくない。だが、今の失言……必ず後悔させてやる」

「んなことより、ここで何してんだ?」


 周囲が静かになった。

 アスルルたちマギナイツからすれば「こっちのセリフだ」と言いたいのだろう。トウマは、そんなこと考えもせずに言う。


「ああ、お前らがこの危険地帯で魔獣を倒し回ってんのか。だから魔獣の気配がしないんだなー」

「…………」

「まあいいか。あ、姉さんってことはお前、リヒトの姉ちゃん? ちょうどいいや。俺ら、光の国チーフテンの王都に行って、王様に挨拶する予定なんだ。一緒に行こうぜ」

「…………」


 どこまでも自由なトウマに、一行は言葉がなかった。


 ◇◇◇◇◇◇


 それから結局、トウマたちは一緒に森抜けすることになった。

 話を聞くと、アスルルたちは年に一度の『大討伐』に出て、森で増えた魔獣を狩り終えたばかりらしい。帰ろうとしたところで、トウマたちの気配を感じて奥へ踏み込んだそうだ。

 ナドの森を抜け、光の国チーフテンの王都へ向かう。

 森の入口に馬車があったので、トウマたちは乗せてもらうことにした。


「いやー、森でもう一回戦えると思ったけど、そんなことなかったなー」

「…………」

「「「…………」」」

「そうですね、師匠。しかし……これから七曜月下と戦うのですよね」

「ああ。でも、お前は手ぇ出さなくていいぞ」

「……はい」


 ビャクレンは、七曜月下を敵として見ることはできない……今でも、月詠教と月の民は同胞なのだ。今はただ、トウマに師事し、共にいるだけに過ぎない。

 その言葉を聞き、アスルルが言う。


「……七曜月下の討伐とは、本気なのか?」

「姉さん……知ってるよね、火の国、水の国、地の国の七曜月下が討伐されたこと。その戦い全てに、トウマくんが関わっているんだ」

「誰が貴様に解説を頼んだ、出来損ない」


 アスルルは、冷たい声でリヒトを睨んだ。

 家庭の事情……マール、カトライアは同じ七国の守護貴族だからこそ、リヒトの家庭事情に踏み込むつもりはなかった。アスルルの態度にも口を出すことはない。

 だが……学友としては違った。


「ピュリファイ公爵家、アスルル様。リヒトさんは我が祖国の解放に大いに役立ってくれました。私も、七曜月下と交戦しましたが……リヒトさんがいなければ、間違いなくここにはいませんでした」

「わたくしも同じです。水の国マティルダ守護貴族、アマデトワール公爵家として、リヒトさんの助力には感謝していますわ」

「……マールさん、カトライアさん」


 アスルルはようやく、マールとカトライアが七国の守護貴族だと知った。リヒトを庇う友人ではなく、守護貴族の名を出しての感謝となれば無視するわけにもいかない。

 舌打ちしそうな顔を堪え、アスルルは言う。


「……三国の解放に助力した者となれば、国としてもてなすことは当然でしょう。王都に到着後、宿を手配いたします。それと、国王陛下への謁見も手配いたしますので」

「ありがとうございます」


 マールがお礼を言う。

 トウマは欠伸をし、アスルルに聞いた。


「なあなあ、チーフテンって美味い食い物あるか?」

「…………」

「と、トウマくん。あ、あとで教えるから、今は」

「ん、わかった。くぁぁ~……なんか眠い。到着したら起こしてくれ」


 トウマは欠伸をすると、そのまま眠ってしまうのだった。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 トウマが寝入った。

 馬車の中はしばし静寂……そして、アスルルが言う。


「にわかに信じられんな。水の国マティルダの七曜月下が討伐されたと聞いた時は耳を疑ったが……火の国、地の国と立て続けに支配から解放された。その率役者が、マギアを持たない子供だと言うのだから……信じてはいないが」

「真実ですわ」

「ええ。私も、最初はそう思ったけど……トウマの出鱈目さを見れば理解できます」


 マール、カトライアも頷いた。

 ビャクレンもウンウン頷いている。


「光の国チーフテンを支配する『待宵(まちよい)』ギームスの配下である司教たちが最近、活発化している。戦いが近いことは感じているが……ふむ」

「…………」


 アスルルは、黙り込んでいるリヒトを見て言う。


「リヒト。貴様は一度、実家に顔を出せ」

「……え」

「七曜月下討伐の功績。真実なら、父上に自分の口から報告しろ」

「……はい、姉さん」


 こうして、トウマたち一行は、光の国チーフテンに到着するのだった。

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