光の国チーフテンへ向けて
数日後。
トウマ、マール、カトライア、リヒト。そしてビャクレンの四人は、拠点前に整列していた。
それぞれ荷物を馬車に入れ、準備は万全である。
トウマは言う。
「さて!! これから俺たちはリヒトの故郷、光の国チーフテンに行く。目的は観光、メシ、お土産……んで、七曜月下の討伐だ!!」
「な、なんだかついで感があるけど……」
リヒトが困ったように言うと、マールが首を振る。
「まあ、トウマさんからすれば、七曜月下の討伐はついで、あくまで自分が見たことのない世界を見て、戦うことがメインなのでしょうね」
「さすがマール、わかってんじゃん」
トウマが支配領地解放組織『斬月』にあっさり加入した理由の一つに、支援のもとで世界中を見て回って面白いものが見れるならそれでいいし、乗っかるのも悪くない……というのがあった。
結果的に、世界を見て回れるのだ。しかも、自分の自由に。
カトライアが言う。
「私も、『ガイア』を使いこなすために、戦うのはちょうどいいわ。ふふん」
「ボクも……もっと、あの時みたいな力を引き出さないと」
「ふふ。わたくしも、新型マギアの試し切りをしたいですわね」
それぞれ、新装備や力を手に、準備はできていた。
ビャクレンも、メイド服ではなく『天照十二月』として支給された着物に、腰には二刀の小太刀を差していた。そして、トウマは御者に言う。
「じゃあ、先に光の国チーフテンに行っててくれ」
「か、かしこまりました」
「「「え?」」」
やや困惑気味の御者は、言われるがまま馬車を出した。
ポカンとするマール、カトライア、リヒト。
そして、遅れてカトライアが言う。
「ちょ、ば、馬車、なんで行かせたの!?」
「そりゃ、徒歩で行くからだろ。荷物だけ先に送るための馬車だぞ」
「ええええ!? きき、聞いてないわ!!」
「別に言わなくていいだろ?」
「じゃ、じゃあ……泊るのは」
「野宿。川とかあれば魚食えるし、魔獣狩って肉食えばいいじゃん。野草とか木の実とかもあるし、飢えることはないぞ」
「そんな!?」
「それに、歩きで行くのも悪くないぞ。魔獣いっぱい出る道をアシェに探してもらったし、鍛えながら行こうぜ。ふっふっふ……進み方は、こんな感じだ」
まず、南下して火の国ムスタングの危険地域である『ガジュマ岩石地帯』を抜け、水の国マティルダの危険地帯である『ヴェノム毒湖』を経由、光の国チーフテンに入り危険地帯である『ナドの森』を通り、チーフテン王都へ行く。
「ききき、危険地帯しか通ってないいいいいい!?」
仰天のカトライア。
すると、拠点からアシェ、ハスター、ヴラド、シロガネが出て来た。
「そのルート、通るだけで命の危険があるわよ……相談受けて、地図とか引っ張り出して考えたけど、正直考え直したいわ」
「でも、面白そうだぞ」
トウマが言うと、マールが遠くを見て笑い、リヒトは真っ青で声が出なかった。
アシェは言う。
「トウマ。通るのはいいけど、何か月も戻ってこないとかやめてよね。少なくても……一か月、二か月くらいで帰ってきてよ」
「なんだ、寂しいのか?」
「んなわけあるか!! ったく……馬鹿」
ムスッとするアシェ。
トウマ、アシェを除いた面々は『寂しいんだな……』と思った。
そして、トウマはアシェの頭をポンと撫でる。
「今回はお前と一緒じゃないけど、次は一緒に冒険しようぜ。俺も、なんとなくで決めた人選だけど……お前がいないのは寂しいからな」
「……っ」
「へへ、俺がいない間、お前らがどれだけ強くなるのか楽しみだ」
「……ふんだ」
アシェはぷいっと顔を背けるが、顔が赤くなり、口元をもにょもにょ動かす。
マールは言う。
「さて、覚悟も決まりましたわ。トウマさん……わたくし、全力で戦うので、ご指導お願いしますわね」
「おう!!」
「……私も覚悟を決めた。『ガイア』の初陣に相応しいわ!! トウマ、戦うわよ!!」
「おう!!」
「……ボク、あんまり自信ないけど……逃げないで進むよ」
「おう!!」
「師匠。私もご指導お願いいたします」
「おう!!」
トウマは首をコキコキ鳴らし、大きな声で言う。
「じゃあ、光の国チーフテンに向けて出発!! 斬って斬って斬りまくるぜ!!」
こうして、トウマたちは、光の国チーフテンに向けて出発するのだった。
◇◇◇◇◇◇
トウマたちは、馬車に乗って行ってしまった。
残されたアシェたちは拠点へ戻る。そしてアシェが言う。
「さて、トウマたちはしばらく帰ってこないわ。たぶん、カトライアとマール、リヒトの三人は、戻ってきたらとんでもなく強くなってる……気がする」
ハスター、ヴラド、シロガネも同じ意見だった。
七曜月下の討伐、その戦いを実際にやったからこそ、実戦での成長を実感している。
「アタシらも、アイツらがいない間に強くならないとね。学業はもちろんだけど、実戦経験を積むことも忘れないようにする。それと……これはアタシの提案。主にハスター、シロガネ」
「ん、なんだい?」
「……」
ヴラドは「おいおい、オレはのけ者かよ」と軽く笑った。
アシェは二人に言う。
「アンタの『グリフォン』と、シロガネの『タケミカヅチ』……アタシに見せる気、ない?」
「……おいおい、マジで言ってんの?」
「……同感だ」
つまり、マギアを見せろと言っている。
マギアは、七国でそれぞれ開発されている。いわば技術の結晶だ。そのシステムをやすやすと見せることは、たとえ信頼しているアシェでも難しい。
マール、ヴラドは特に気にしていないが、ハスターとシロガネは厳しい顔をした。
アシェは頷く。
「そういう反応は普通にわかるわ。強くなることしか興味のないヴラドや、すでにアタシに情報開示しているマールはともかく……他国のマギア技術を、同級生ってだけのアタシに見せるなんて、普通に考えたらあり得ない。でも……もしかしたら、アタシなら改造できるかも」
「「…………」」
「ハッ、確かにな。アシェの腕前は、オレが普段マギアを預けてるマギア技師も舌ぁ巻いてたぜ。この『アンフィスバエナ』を前にしたら、『デルピュネー』がオモチャに見えらぁ」
ヴラドはケラケラ笑う。
アシェが続ける。
「アタシの改造は、ムスタングだけの技術じゃない。マールの双剣も、ヴラドの鎖も、その国の技術とアタシの持つ技術を合わせて改造したの。七国の技術がふんだんに使われたマギア……アタシたち『斬月』に相応しい、そう思う」
「「…………」」
ハスター、シロガネが黙り込む……だが、シロガネが『タケミカヅチ』をテーブルに置いた。
「……任せよう」
「シロガネ……うん、ありがとう」
「おいおい、ボクのが先に出そうと思ってたんだがね」
ハスターも、『グリフォン』をテーブルに置いた。
そして、ヴラドも『アンフィスバエナ』を置く。
「オレのも、まだまだ改造プランあるんだろ?」
「ふん、当然。よし……アンタらのマギア、預かるわ」
アシェは、マギアを手に自分の部屋へ。そして、テーブルに大きな羊皮紙を広げる。
「……やる気、出てきたかも」
きっかけは、カトライアの『ガイア』を見たこと。
マギアは戦うための道具。そう思っていたアシェだったが……『ガイア』を見て、マギア技師としての血に火が付いた。
ガイアを超えるマギアを、作ってみたい。
そんな、夢みたいな考えが浮かんだのだ。
「……トウマのこと、言えないかな」
トウマが刀にこだわった理由が、今ならなんとなくわかる。そう思うアシェだった。