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月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~  作者: さとう
第四章 支配解放組織『斬月』

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支配解放組織『斬月』

 ビャクレンの様子を見に行く前に、ルドルフの案内でトウマたちは城下町へ。

 町はずれにある大きな屋敷だった。庭付きで、もともとは庭園だったところが武骨な訓練場へと改造されている。

 ルドルフは言う。


「この屋敷を自由に使ってくれ。一通りは揃っているし、近く使用人も派遣しよう」

「マジでありがたいな。じゃあ、アシェの家を出て俺はこっちに住むか。アシェ、お前らはどうする?」


 と、アシェを見る。

 アシェは少し考え、マールとカトライアを見て言う。


「そうね。アタシもこっちに引っ越すわ。そっちのが都合良さそうだし……マール、カトライアはどうする?」

「そうですわね。わたくしもこちらに引っ越しますわ」

「じゃあ私も。なかなかおもしろくなりそうね」

「決定。リヒトたちもこっち来いよ」


 リヒトは「う、うん」と頷き、ヴラド、ハスター、シロガネも頷いた。

 七国の守護貴族である七人が一つの建物で生活する……歴史上、一度もなかったことが始まる。

 ルドルフは言う。


「では、困ったことがあればいつでも言ってくれ。トウマくん……期待しているよ」

「おう。ああそうだ、ルドルフ……なんでお前、ここまで俺に期待するんだ?」

「ははは。きみが『斬神』であり、きみの働きで七曜月下が三人も討伐された。この大地を月詠教の支配から脱するのは、誰もが望むこと……私は、きみにその可能性を見ただけさ。それに……私の祖先ならきっと、そうしたと思う」

「……かもな」


 トウマは、かつて出会った『愛神』と、ルドルフが重なって見えた。

 一人で戦うことが当然だった。でも、『愛神』がお節介し、いろんな出会いがあり、トウマの助けとなった。

 お節介……『愛神』セイレンスの血筋は、ルドルフに根付いていたことが、トウマには嬉しかった。


「なあルドルフ。『愛神』……セイレンスの墓ってあるか?」

「……ムスタング王族の墓がそうだとされている」

「じゃあ、今度墓参りしに行くよ」

「……ありがとう」


 ルドルフは微笑み、どこか嬉しそうに屋敷を出て行った。


 ◇◇◇◇◇◇


 アシェたちは「引っ越し準備をする」と出て行った。

 残されたのはトウマ。屋敷で寝てもいいが、今はビャクレンが訓練中とのことで様子を見に行くことにした。

 学園へ戻り、ビャクレンのいる訓練場へ行くと。


「もたもたするなゴミ虫が!! そこ、誰が休んでいいと言った!! お前、速度が落ちているぞ!!」

「「「サー!! イエッサー!!」」」


 とんでもない熱気だった。

 汗だくの生徒たちが、丸太を担いで、改造された訓練場をただひたすら走り込んでいる。

 身体に重りを巻き付け、表情が死んだ生徒たち。そこの男女の区別はない。

 木刀を手にしたビャクレンが地面を叩くと、生徒たちの速度が上がる。

 トウマはビャクレンに元へ。

 

「師匠!!」

「よ、やってるなー」

「おかえりなさい。ということは……ふん、フラジャイルめ。師匠の恐ろしさを知ったようだな」


 ビャクレンはフンと鼻を鳴らすと、トウマに言う。


「師匠。私のできる範囲で、ゴミ共を育成しました──……整列!!」

「「「「「!!」」」」」


 ビシィ!! と、生徒たちは統率された動きで整列。

 完全不動、直立状態で勢ぞろいし、表情が完璧な無表情だった。


「おー……なんか、みんな強くなったか?」

「ええ。ゴミからウジ虫くらいには変わりました。お前!! 挨拶をしろ!!」

「サー、イエッサー!! お疲れ様です、トウマ様!!」

「「「「「お疲れ様です!! トウマ様!!」」」」」


 ビシィィィ!! と、怖いくらいにピッタリな動きで頭を下げる生徒たち。

 最初期の甘えたような、ナメ腐ったような雰囲気が消え、訓練された兵士のようだった。

 

「かなり練り込んだな……強さは?」

「単独で『司教』なら倒せると思います。連携すれば『司祭』にも劣らないかと」

「十分じゃん。さっすがビャクレン」

「……えへへ」


 ビャクレンは甘えたように微笑んだが、すぐ凛々しい顔つきに変わる。


「師匠が戻ったということは、任務は完了ですか?」

「ああ。講師も終わり、今後のことを説明するぞ。新しい拠点も手に入れたから、そっちに引っ越しだ」

「わかりました。では……」


 ビャクレンは木刀を片手に、生徒たちの前へ。


「お前たち!! 本日をもって私の指導は終わりだ。お前たちはゴミからウジ虫へとようやく変わることができた。私がいなくても、私が遺したトレーニングを続けることで、さらなる成長が期待できる!! いいか……次、お前たちを指導することがあるかもしれない。その時、今とは違うお前たちを見せてみろ!! お前たちはウジ虫だ!! だが……力、誇り、意地を兼ね備えたウジ虫だ!!」

「「「「「「「「「「サー、イエッサー!!」」」」」」」」」」

「また会おう!! さらばだ!!」


 ビャクレンは身をひるがえす……すると、生徒たちは表情を変えず、涙を流す。

 そんな様子をトウマは見ながら言う。


「うーん。これでいいんだけど……やりすぎじゃね?」


 とりあえず、トウマはそう言い、ビャクレンを連れて新たな拠点へ向かうのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 数日後。

 引っ越しを終え、アシェたち七人、トウマ、ビャクレンが新拠点のリビングルームに集まった。

 ソファに座ったアシェが足と腕を組んで言う。


「さて、引っ越しも終わって、ようやくこれからのこと話せるわね」

「おう。じゃあ光の国チーフテンに行くか」

「待った。その前に、ちゃんとおさらいしたいの。いいでしょ?」

「おさらいって何だよ」


 トウマが首を傾げる。すると、ルーシェがティーカートを押して入って来た。


「お茶でーす」

「あれ、ルーシェじゃん。なんでここにいるんだ?」

「そりゃ、主のアシェがこっちに来たからね。仕事道具も全部移動させたし、ウチはアシェの補佐でメイドで世話係ね。よろ~」

「おう。よろしくな」


 他にも、マールやアシェの連れて来た使用人が数名、拠点で働くことになった。

 紅茶を飲みつつアシェが言う。


「じゃあおさらい。まず、これからアタシたちはトウマと一緒に、七曜月下が支配する七国のうち、残り四国を解放するために動く」

「そうですわね。というか……学園長がこんなことを考えていたなんて、驚きですわ」

「だね。もしかしたら、トウマにオレたちを鍛えるように仕向けたのも、自分の部下として使えるようにするためだったのかもね」


 マール、ハスターが言う。

 すると、カトライアは紅茶カップをソーサーに置く。


「その部下、というのは少し気に入らないけど……」

「俺はそんなつもりないぞ」

「私は、師匠の弟子ではある」


 トウマ、ビャクレンが言う。

 アシェは咳払いをした。


「こほん。続けるわね……解放されていないのは四国。光の国チーフテン、闇の国ゾルファガール、風の国キャヴァリエ、雷の国イスズ。トウマ、アンタはこれから光の国チーフテンに行くのよね」

「おう」

「じゃあ、リヒトを案内に。小隊で行動するならあと三人、連れて行けるわ」

「三人かあ……どうせならみんなで行きたいぜ」

「ダメよ。アタシらも学園あるしね……で、どうする?」


 すると、ビャクレンが挙手。


「師匠。私に同行の許可を」

「いいぞ。じゃあ、あと二人……えーと、アシェにマール、カトライアが行けるんだよな」

「そうよ。アンタの意思を尊重するから、好きに決めて」


 トウマは考える。するとハスターが言う。


「はーあ、羨ましいね。オレも参加したいぜ」

「気持ちはわかるけど、アンタはシャルティーエ公爵家所属なのよ。他国の支配解放戦に参加するもんじゃないわ。アタシやカトライア、マールならともかくね」

「はいはい。トウマ、次こそ風の国行こうぜ」

「……雷の国イスズもある」


 黙っていたシロガネがポツリと言う。

 トウマは言う。


「リヒト。光の国チーフテンって、農業も盛んなんだよな」

「う、うん。そうだけど」

「よし決めた。じゃあ今回は、マールとカトライアで行くか」

「え」

「わかりましたわ」

「ふふん。お任せあれ」


 アシェは微妙に眉をピクピクさせて言う。


「い、一応聞くけど……どういう人選?」

「ん? チーフテンは農業盛んなんだろ? 火属性のアシェが行って、畑の作物とか燃えたら嫌じゃん」

「「「「「「「…………」」」」」」」


 何とも言えない理由に、全員が黙り込んでしまう。


「それに、マールは水属性だから畑に水やりとかできるし、カトライアは地属性だから、畑を耕すのとか得意そうだしな」

「え、えーと……水やりなら構いませんわ」

「わ、私に畑仕事させるつもりで同行させるの……?」

「というわけで、俺、リヒト、ビャクレン、マール、カトライアで、光の国チーフテンに行くぞー!!」


 こうして、チーフテンに行くメンバーが決まった。

 なんとも言えない人選に、アシェが微妙に拗ねてしまうのだった。

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