新たな目標
地の国ヴァリアントに別れを告げ、トウマたちは立派な馬車で火の国ムスタングへ。
グロッタが気を利かせてくれた。三台の二階建て馬車、御者付きだ。
最初は護衛も付けると言う話だったが、今の傷ついたヴァリアント軍から、たかが護衛のために人員を裂く必要はないと、トウマが却下した。
現在、トウマは馬車のフカフカなソファに座り、嬉しそうにクッキーを齧っていた。
「うんまっ、このクッキーうまい」
「ほんと、美味しいわね……あ、そっちの赤いクッキーちょうだい」
「はい、アシェさん」
この馬車には、トウマ、リヒト、アシェの三人が乗っている。
二階にはベッドがあり、一階には簡易的な家具も揃っている高級馬車だ。御者付き、馬三頭で引く馬車の速度はかなり早い。
三人は、クッキーを食べながら話をする。
「光の国かあ。アシェ、どんなところなんだ?」
「アタシじゃなくて、リヒトに聞きなさいよ」
「あはは……えっと、光の国チーフテンは、七国で一番の医療国家なんだ。マギアによる治療はもちろん、薬学、医学が発展しているんだよ。それ以外だと、農耕に力を入れてるね」
「農業かあ……いいね」
「普通の野菜も育ててるけど、メインは薬学用の薬草だね」
リヒトが紅茶を飲みながら説明。
トウマは、リヒトからもらった『通行許可証』を取り出してみる。
「こいつがあれば、入れるんだよな」
「うん。ピュリファイ公爵家の紋章が入ってるから、問題なく行けると思う」
「なあなあ。観光地はあるか?」
「えーっと……チーフテンは、どちらかといえば勉強するところが多いかな……」
「そういえば、チーフテンって大きな医学校がいくつかあったわね」
「うん。セブンスマギア魔導学園くらいの規模がある学園だよ。ピュリファイ公爵家の分家のほとんどが、そこで学んでるんだ」
「へー……そうなんか」
トウマはクッキーをボリボリ噛み砕く。
「ピュリファイ公爵家はチーフテンの守護貴族だから、医療より戦闘力で期待されてるんだ。その……こんな言い方していいのかわからないけど、ボクはセブンスマギア魔導学園より、チーフテン医学校に通いたかった」
リヒトは、少し困ったように苦笑する。
トウマは首を傾げるが、アシェが言う。
「それって、アタシらの世代で、七国の守護貴族が揃うから?」
「……うん」
「どういうこった?」
「そのまんまよ。アタシたち七人、みんな七国の守護貴族から来てるのよ? これまで、そんな風に同い年で集まるなんてことほとんどなかったのよ」
「……それで?」
「あのねー、リヒトがいなくて、アタシら六人が揃ってたら、ピュリファイ公爵家としては面白くないでしょ」
「そういうもんなのか?」
「そういうもんなの。これまでは、同じ世代で、同じクラスで集まるなんてなかったみたいだし……ああ、お父様の世代があったわね」
「つまり、仲間ハズレがいやってことか」
「……まあ、そういう認識でいいわ」
アシェは適当に言い、紅茶のカップを手に取った。
そして、紅茶で喉を潤して言う。
「トウマ。学園に戻ったら、どうするの?」
「とりあえず、ビャクレンがどういう修行を付けて、他の連中を鍛えたか見る。その後は、ルドルフに言って講師を辞めるわ。お前ら七人で七曜月下を倒して、地の国ヴァリアントの解放に助力したんなら、辞めるって言っても文句言われないだろ」
「……そのあとは?」
「荷造りして、光の国チーフテンに行くぞ。リヒト、道順を教えてくれ」
「う、うん……」
「……行っちゃうんだ」
「ああ。なんだ、お前は行かないのか?」
「……学園あるしね」
「そっか。ビャクレンと二人だけか」
するとトウマ、ニヤリと笑った。
アシェは眉をピクリと動かし、ハッとする。
「アンタ、ビャクレンに手ぇ出すつもりでしょ」
「おう。まだ女を知らないしな。はぁ~、どういう感じなのかな。リヒト、お前って女を抱いたことある?」
「ぶっふぅぅ!? えええええええええ!?」
紅茶を噴き出し、激しく狼狽するリヒト。
当然のことだが、リヒトには経験がなかった。
◇◇◇◇◇◇
それから、馬車はゆっくりと進み……あっという間に火の国ムスタングへ到着した。
馬車が入国し、町中を進んでセブンスマギア魔導学園へ。
学園で降りると、学園の教師たちがトウマたちの元へ。
「学園講師、トウマさんですね。ルドルフ学園長がお呼びです」
「いきなりだな……まあいいや。アシェたちも一緒か?」
「はい。ご案内します」
「わかった。じゃあみんな、行こうぜ」
案内人と共に、トウマと七人は学園長室へ。
学園長室に入ると、ルドルフが出迎えてくれた。
「やあ、トウマくん。やってくれたね」
「何が?」
「……授業の一環で『七曜月下』を討伐して、さらに地の国ヴァリアントの支配を解放するなんて、前代未聞にもほどがあるよ」
ルドルフは、とにかく困惑していた。
同時に、トウマならあり得ると、どこか考えてもいたようだ。
トウマは、横一列に整列させたアシェたちを差して言う。
「見ろよ。みんな、かなり強くなったぞ。単独で司祭や司教と渡り合える。このまま最前線に送り込んでもいい働きするぜ」
絶対にやめろ……と、アシェたち七人はトウマを見た。
そして、ルドルフは言う。
「ははは。さっそくだけどトウマくん、キミに提案したいことがあるんだ」
「提案? あ、その前にいいか? 俺、講師をやめるわ。光の国チーフテンに行きたいからな」
「なんと……まあ、仕方ないね。そっちの方は了解したよ。それじゃあ、提案していいかい?」
トウマは頷く。
ルドルフは、コホンと咳払いをして言った。
「トウマくん。キミに、『七国解放』のために動いてほしい」
「七国解放? それって……七国の半支配をどうにかしろってことか?」
「ああ、そうだ。火の国、水の国、そして地の国はすでに、きみの働きで支配から解放された。残りは四国……この火の国ムスタングはちょうどいいことに、七国の中心にある。ここを拠点とし、残りの四国に出向いて、七曜月下を討伐し、支配から解放してほしい」
アシェたちは驚いていた。
ムスタング王弟のルドルフがここまでトウマを信じているとは思っていなかった。
「当然、支援もしよう。私は火の国ムスタングの王族でもあるしね」
「ほうほう、具体的には?」
「まず……この学園の生徒だ。トウマくん、ちょうどきみの指導を受けた子供たちがいる。その子たちを部下として連れていくといい」
アシェたち七人をトウマは見た。
「そりゃいいな。ちょうど、チーフテン王国に行くつもりだったしな」
「ああ、さすがに、許可を受けていない七国の守護貴族の子は勘弁してくれ。動かせるのは……アシェくん、マールくん、カトライアくんか。未開放の国へ行くのなら、その国の守護貴族である子を連れて行くといい。ああ、さすがに全員はダメだ。学園の生徒である以上、勉学も大事だからね」
「ほうほう……」
つまり、アシェとマールとカトライアは自由に連れて行ける。これから行く光の国チーフテンにはリヒトを連れて行ける。そして全員は連れて行けない。
「じゃあ、チーフテンに行くとしたら、リヒトは固定。アシェかマールかカトライアのうち二人を連れて行けるってことか」
「そういうことだ。チーフテン王国の支配を解放し、守護貴族から信頼を得ることができれば、リヒトくんを自由に他の国へ連れて、支配を解放できるだろう」
「面白いな……」
「と、他にきみが気になる子がいれば、その子を連れて行くのもいい。最大でも五名程度がいいね。小隊の基本人数の方が、指示も出しやすい」
ルドルフはアシェたちに言う。
「と、ここまで言ったが……きみたちはいいかね?」
「はい、問題ありません」
アシェが言う。他の六人も頷いた。
ルドルフも頷き、テーブルにメダル、そして羊皮紙を置く。
「これは、火の国ムスタングの王族が持つ聖印だ。そしてこっちはムスタング国王直筆の証書。これがあれば、七国への出入りは問題ない。それに、聖印と証書があれば、国王陛下にも守護貴族にも謁見できる。支配解放の手助けになるだろう」
「おおお、便利すぎる」
「それと、城下町に家も用意した。訓練場や必要なものは揃っている。広さもあるから、よければ仲間同士で使うといい」
「最高過ぎる……なんて言うんだっけ。踏んだり蹴ったりだっけ」
「違うっての。至れり尽くせりでしょ」
アシェが言うと、トウマは笑った。
最後に、ルドルフが言う。
「トウマくん。残り四国……きみの刃で、月詠教の支配を断ち切ってくれ」
「おう。任せておけ」
こうして、トウマは講師を辞め……七国の支配を解放するために動き出すのだった。
ルドルフが言う。
「そうだ。名前を付けよう……そうだな、七国の解放を目的とし、月詠教の支配を断ち斬る刃、『斬月』というのはどうだ?」
「いいじゃん、カッコイイ!! よし、じゃあ今日から俺は『斬月』で、月詠教の支配を終わらせてやるぞ!!
トウマの、新たな戦いが始まるのだった。




