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月光の三聖女①

 月。

 その全貌は謎に包まれている。

 わかっているのは、月を司る『神』が存在していること。

 その名は、『月神イシュテルテ』。

 そして、月神の巫女であり、月神の寵愛を受けし三姉妹……その名も、『月光の三聖女』だ。

 月の内部、中心地にある空洞にて。


「…………」


 足首まで伸びた漆黒の髪、珊瑚を加工して作ったような白い髪飾り、純白の法衣に、同じ色の聖骸布をマントのように巻いた、十六歳ほどの少女が、両手を組んで祈りを捧げていた。

 少女は美しかった……だが、両目を布で覆い、完全に視界を塞いでいた。


「我が神よ、我が祈り、我が声、聞こえているならお声をお聞かせください。我が神、月神イシュテルテ……」


 透き通るような、どこか甘く冷たい声だった。

 空洞はドーム状になっており、中心には銀色に輝く球体が浮かんでいる。

 少女はその球体に祈りを捧げていたが、何かが帰ってくることはなかった。

 すると、どこからともなく、輝くような金髪の少女が現れた。


「ルナ。毎日毎日、よーやるねぇ」


 軽薄そうな、カラカラした声だった。

 少女の金髪は胸元まで伸び、顔半分を完全に隠している。だが、感情豊かな少女は、顔半分だけ笑っても表情がしっかり読めた。

 金髪の少女は、着崩した法衣に、改造したミニスカ、ブーツ、聖骸布をマフラーのように巻き、魔女のようなとんがり帽子を被っている。

 ルナと呼ばれた少女は、布で目を覆っているにも関わらず金髪の少女を見た。


「姉さん……私は、早く主に目を覚ましてほしいだけ」

「はいはい。月神様が眠りについて千年以上……一度も起きないけどね」

「……わかってる」

「これも、斬神のせいかねぇ。あいつ、人間のくせに、月神様の『魂』まで斬りやがった。復活したはいいけど、回復にはまだまだ時間かかりそうさねぇ」


 金髪の少女はケラケラ笑った。


「さ、祈りも済んだし、セレナも誘って茶ぁにしようか」

「ええ、そうね。と……セレナは?」

「あいつは、『睦月』と遊んでる。せっかくだし、ウチらも眷属呼ぼか」

「そうね。たまには、みんなでお茶も悪くないわ」


 黒髪の少女こと『新月』のルナエクリプス、金髪の少女こと『三日月』のクレッセントムーンは、そのまま空洞から転移して出るのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 二人は、茶室へやってきた。

 綺麗な花畑だった。紫色の花が咲き誇り、空は一面の星空が輝いている。そして、綺麗な満月、三日月、輪郭だけの新月が輝いていた。

 花畑の中央に、装飾が施された円卓があり、そこに銀髪のロングヘアの少女がニコニコしながら男性に話をしている。


「それでね、わたしはこうやって……こうするの。それで、ここをこうして……こう!!」


 銀髪の少女は、何やら絵を描いていた。

 相手をしているのは、十八歳ほどの青年だ。凛々しい顔つきをしており、頬に一筋の傷がある。ややくすんだ金髪をしているが、少女の絵を見て子供のように笑っていた。


「おお、これはすごい!! はは、では……こうします」

「わあ、すごいね!!」


 ルナエクリプス、クレッセントムーンの二人は顔を見合わせ、そっと二人の絵を覗き込んだ。

 絵は、なにやら人のような絵が書かれていた。そして、絵の人間に剣や槍を持たせ、リアルタイムで戦わせている。

 銀髪の少女が気付いた。


「あ、ルナ姉さん、ムーン姉さん!!」

「よ、セレナ。なーにしてんの?」


 青年は素早く立ち上がり一礼。

 ルナ、ムーンは銀髪の少女……『満月』のセレナフィールことセレナを挟むように座った。


「あのね。『戦いごっこ』してたの。絵で、剣とか持たせて戦わせてね」

「あ~……うんうん、そうかいそうかい」


 ムーンは、セレナの頭を撫でた。

 三姉妹というが、生まれた順に差はない。姉も妹もないが、三人はムーンを長女、ルナを次女、セレナを三女と決めていた。

 すると、青年の隣に、無表情な少女、落ち着いた女性が並ぶ。


「さーて、あんたらも座りな。お茶にしよっか」


 ムーンがニカッと笑い、楽しいお茶会が始まろうとしていた……が。


「失礼いたします。『満月』の聖女様……ご報告が」


 転移で現れたのは、首から血を流したフラジャイルだった。

 首を押さえ、青白い顔で跪いている。

 いきなり現れたフラジャイルだが、誰も驚かず、誰も怪我の心配をしなかった。


「……『水無月』? 何か御用?」


 セレナが言う。

 フラジャイルは首を魔力で止血し、呼吸を整えて言う。


「はい。七曜月下が敗北、地の国ヴァリアントが奪還されました。そして……『葉月』オオタケマルが、斬神に敗北しました」

「あぁ?」


 ムーンがジロッとフラジャイルを見た。『葉月』オオタケマルは、『三日月』のクレッセントムーンの配下である。

 フラジャイルは続ける。


「事実です。間違いありません、確定情報として報告します。『斬神』は生きており、復活しました……間違い、ございません」

「「「…………」」」

「っ」


 セレナフィール、クレッセントムーン、ルナエクリプスの三人が、無言、無表情でフラジャイルを見ていた。

 そして、ルナエクリプスは立ち上がり、フラジャイルの首にそっと触れる。


「……これは、斬神に?」

「は、はい。回避したつもりでしたが……少し」


 フラジャイルは油断していなかった。 

 間違いなく、転移は間に合っていた……が、トウマの斬撃は『転移後』のフラジャイルの首を斬った。不完全だったのか、切断まではされていない。

 ルナエクリプスは、フラジャイルの首をそっと指で撫でる……すると、傷が綺麗に消えた。

 クレッセントムーンは言う。


「斬神か。ルナ、セレネ、そしてアタシの『前任』を斬殺し、斬神様を殺した張本人……生きてるって報告はあったけど、マジモンの本人とはねぇ」

「ねーねー姉さん、どうするの? あ!! わたし、わたし行く? 殺す?」

「ダメよセレナ。聖女である私たちが、月から離れるわけにはいかないわ。ふむ……」


 ルナエクリプスは静かに思考する。


「七曜月下は補充できるけど、斬神がいるなら補充したところですぐに殺されるでしょうね。天照十二月を動かすしかないわね……でも、ビャクレンは使い物にならないし」


 ルナエクリプスは考える。

 すると、クレッセントムーンが言う。


「ただ始末するだけなら、アタシんとこの『霜月』と、ルナんとこの『神無月』はどうだ? あの双子、二人合わせればそいつらに匹敵するだろ?」


 クレッセントムーンが指差したのは、静かに並んでいる三人。

 天照十二月『暦三星』。三聖女の眷属であり、月神、三聖女を除けば月詠教最強の三人である。

 すると、セレナが挙手。


「はいはいはーい。姉さん、わたしのところの新入りくんも一緒に連れてっていいよ!!」

「はあ? 新入り?」

「うん。ちょっと前に、わたしの『師走月』を一騎打ちで倒して入れ替わったんだけど、けっこう強いんだよ。二十年もすれば、フォルカと同じくらい強くなるかも!!」


 すると、フォルカと呼ばれた青年がピクリと反応した。

 天照十二月『睦月』……序列一位にして、天照十二月最強の男。

 悪意のない、セレナフィールの言葉に反応したようだ。

 ルナエクリプスは言う。


「わかりました。では、月光の三聖女が所有する『神無月』、『霜月』、『師走月』を地上へ派遣。斬神の殺害任務を与えましょう。フラジャイル……あなたは監視、報告を」

「…………」

「どうしたのー?」


 セレナフィールが、顔色の悪いフラジャイルを見て首を傾げる。


「いえ……実は、殺害予告をされまして。次、斬神と出会ったら、アタシの命は消えるでしょう」

「え? だからなに?」


 無邪気に、セレナフィールは首を傾げた。

 そして、人差し指をフラジャイルに向ける。


「ここで死ぬ?」

「……い、いえ。監視を務めます」


 そう言って、フラジャイルは転移した。

 セレナフィールはクスクス笑う。


「じゃ、お話おしまい!! お茶にしよ~」

「うんうん。アタシも、めんどくさい話で喉乾いたよ」

「ふふ……そうね」


 月光の三聖女。

 『新月』のルナエクリプス、『三日月』のクレッセントムーン、『満月』のセレナフィールは、何事もなかったかのようにお茶を楽しむのだった。

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