解放、地の国ヴァリアント
地の国ヴァリアントの解放。
水の国、火の国と同じく、ハッピーエンドというわけにはいかなかなった。
七曜月下の討伐後、突如として降り注いだ『鉛の雨』により、ヴァリアント軍は壊滅的なダメージを受けた。
六千名以上いたマギナイツ、マギソルジャ―の四割が死亡。現在、城下町の一角を臨時の治療所として、怪我人の手当てを行っている。最初、アシェやマールがトウマに『あんたの剣で治せないか』と提案したが、トウマも負傷していたし、心身が万全でないと『嘘神邪剣』は使えないと言われた。
アシェたちも治療を受け、ラーズアングリフ家本邸へ呼ばれた。
そこで待っていたのは。
「お、お母様……!?」
「カトライア。よくやったね、他の子供たちも……あんたらの働きに敬意を表する。ヴィンセントやガルフォスの言ったことに間違いはなかったよ」
「お、お母様……う、腕が」
グロッタは、左腕を失った。
顔にも大きな傷が残り、眼帯で顔半分を覆っている。
グスタフマンは悲しそうに目を潤ませていた。
「ああ、気にしないでいいさ。戦場での負傷は慣れっこだしね。それよりも……カトライア、あんたのマギアが壊れたって?」
「は、はい。いえ、そんなことより」
「グスタフマン」
「……ママ、わかってるよ」
すると、グスタフマンがカトライアに、『ガイア』を差しだした。
「え……!?」
「七曜月下の討伐。仲間と協力してとのことだが、もうお前の実力を疑うことはないよ。当主の座はまだ早いけど……今のお前なら、このレガリアを扱えるはずさ」
「……お母様」
「あたしはもう、以前のように戦えない。これからは、お前が跡を継ぐ領地運営と、解放した土地をどうするか、お前のために準備をしておくさ」
「……っ」
カトライアはレガリアを無視し、グロッタの胸に飛びついた。
グロッタは驚くが、困ったように苦笑し、カトライアの頭を撫でる。
「こらこら。お友達の前で、みっともない顔をするんじゃないよ。世界で七つしかないレガリアを無視して、あたしの胸に飛び込むなんてね……ふふ、お前はあたしよりいい領主になるね」
「……ううう、お母様」
グスタフマンは、レガリアが重いのかプルプル震えていた。
そして、カトライアは涙をぬぐい、グスタフマンから『ガイア』を受け取り、構えを取る。
「お母様。私、ラーズアングリフ家の誇り……『ガイア』を受け継ぎますわ!!」
「ああ。頼んだよ……皆さんも、本当に感謝しかない」
グロッタは、整列して話を聞いていたアシェたちに頭を下げた。
アシェは言う。
「お気になさらないでください。七国は同士。困った時はお互い様ですから」
「ふふ。そうですわね」
「だね。さーて、次は風の国の解放を手伝ってもらおうかな?」
「……フン」
「えと……できれば、光の国も、なんて」
「…………」
ようやく、温かな空気に包まれた。
ハスターは言う。
「ってか、今更だけどさ……七曜月下の討伐って『授業』なんだよな」
「あり得ないけどね。ってか、トウマのやつどこ行ったの?」
トウマは、今朝早くから姿が見えなかった。
◇◇◇◇◇◇
トウマは、オオタケマルと二人でシャードゥが討伐された崖の上にいた。
「あのフラジャイルとかいう奴に言っておけ。お前は、俺が、確実に、ブチ殺す、ってな」
「ああ。確実に伝えておく」
ここに来たのは、オオタケマルの見送りだ。
オオタケマルは、トウマに言う。
「トウマ。お前がいる高みに、オレ様は辿りつけるか?」
「できるよ。だって、お前めちゃくちゃ強いしな。もっともっともっと強くなったら、またやろうぜ」
「……フン」
不思議だった。
敵であり、討伐対象……だが、トウマと喋るのは心地よい。
ビャクレンが、なぜトウマを師と呼ぶのか、オオタケマルは理解できた。
同時に……自分は、教えを乞うことはできないとも。
「それで、本当にいいのか?」
「ああ。俺との戦いを、お前の口から報告してくれ。そうすれば、もっと強い月の民が来るんだろ?」
「かもな。少なくとも、天照十二月が地上に降りてくるのは違いない」
「わくわくする。くっくっく」
トウマは本当に嬉しそうだった。
オオタケマルは頷く。
「助言をしておく。天照十二月は十二人いる。そして、お前は序列四位のビャクレン、序列八位のオレ様を倒した……残りは十人。だが、序列一位から三位の強さは別格。そして順位があてにならないやつもいる……序列十二位の新入り、そして十一位、十位の双子には気を付けろ。あと、『執行者』を率いる『断罪者』……こいつも危険だ」
「順位下じゃん。それと、断罪者?」
「だから、順位があてにならん。入れ替え戦を申し込まれて負けたら順位は入れ替わる。双子は順位の興味がなく、新入りはすぐにでも序列を駆けあがる」
「ふーん」
「そして、間違いなく……『月光の三聖女』が動き出す。月の神は沈黙しているが、どう動くかわからん」
「まあいいよ。斬るだけだし」
「……単純なやつめ」
オオタケマルは笑った。
トウマは拳を突き出すと、オオタケマルは拳を合わせた。
「じゃあな、今度はメシでも食おうぜ」
「……人間のお前が、敵であるオレ様をメシに誘うか。フン、悪くないな」
そう言って、オオタケマルはテレポートした。
残されたトウマは、崖下に広がる地の国ヴァリアントを見下ろす。
「……さーて。次はどこに行こうかね」
◇◇◇◇◇◇
トウマは、カトライアの隠れ家へ戻って来た。
そこには、アシェたち七人が勢ぞろいしていた。
「あ、帰って来た」
「おうアシェ。さてお前ら、そこに整列!!」
いきなり言われ、アシェたちは言われるがまま整列する。
トウマは、どこからか木刀を取り出し、肩に担いで言った。
「七曜月下の討伐お疲れさん!! うんうん、先生、お前たちはやればできる子だって信じてたぞ!!」
「「「「「「「…………」」」」」」」
そういえば、トウマは講師だった……と、アシェたちは思い出した。
「そろそろ期限も近いし、のんびり馬車に乗ってムスタングへ帰ろうぜ。ビャクレンが残りの連中をどう鍛えたか気になるし、講師終わったら次に行く国も決めたいしな」
「え、トウマ……講師やめるの?」
「ああ。お前ら、かなり強くなったしな。七曜月下を七人で倒すだけの力あれば、訓練として大成功だろ。それに、俺もいろいろ得るモン多かったし、そろそろ次の国を見てみたい」
「……で、どこ行くの?」
アシェが言うと、トウマはスッと数本の棒を見せた。
「リヒト、ヴラド、ハスター、シロガネ。この棒を一本引いてくれ」
「「「「……???」」」」
「……アンタ、まさか」
アシェは気付いた。
四人がそれぞれ棒を引く……すると。
「あれ、ボクのだけ、色付きです」
「リヒト、大当たり!! じゃあ次は俺、光の国チーフテンに行くぞ!!」
「え」
「あ、アンタ!! く、クジで決めんの!?」
「ウダウダ考えるより面白いだろ。ってわけでリヒト、お前の国の通行許可証くれ」
「……待て。トウマ、私の国に来てほしい。ハバキリの血族……」
「おいおい。そろそろオレんとこも来てくれよ。風の国、いいとこだぜ?」
「……オレぁどうでもいい」
「ダメダメ。クジは絶対。光の国に行くぜ!!」
ワイワイといつも通りになるトウマたち。
こうして、地の国ヴァリアントは解放され、平和を取り戻した。




