ヴァリアント解放戦争⑥
トウマは、背筋がピリッとした感覚で、ニヤリと微笑んだ。
「そうだリヒト。初めて見てわかってた……お前の才能は、七人の中でも別格だ。その才能を開花させれば、お前ら七人は七曜月下にだって勝てる」
「何をごちゃごちゃと!!」
「おっと!!」
燃える拳。トウマは回避を続ける。
「戦神気功、『舞うが如く』──〝落葉〟」
舞うが如くで、さらに動きを深くした、風に吹かれる落ち葉のような舞。
トウマは、四本の腕から繰り出される拳をすべて回避した、が。
「くっそ、あっちぃな……」
熱までは回避できない。
なので、瀞月を素早く四連斬り。
「嘘神邪剣、『熱殺』」
「何っ!?」
燃え盛る炎が斬られ、腕を覆っていた熱が斬られた。
一気に温度が低下する腕。オオタケマルが驚き、自分の腕を見る。
トウマと距離を取り、再び腕に熱を通し、真っ赤に燃え上がらせた。
「何しやがった!!」
「炎と熱を斬っただけ。お前の腕、あっついんだよ」
「……この野郎。クッソ面白れぇじゃねぇか」
オオタケマルは笑った。
物質ではなく、概念を斬る。
そんな斬撃は聞いたことがない。月神が負け、斬られたことも納得できた。
オオタケマルは、地面に突き刺した金棒に手を向ける。
「来い、『金剛砕棒』!!」
すると、地面に刺した金棒が真っ赤に輝き、オオタケマルに向かって回転しながら飛んでいく。そして、金棒が十字に割れて四分割され、オオタケマルの四本の手に収まった。
トウマは驚く。
「おお。でっかい金棒が割れて……棒になった」
「フン。一本だとデカい金棒だが、四分割されると剣になるのさ。『月詠流・四刀流』こそ、オレ様が最も得意とする武術。そして……」
べきべきと、オオタケマルの身体が変化していく。
長い尾、身長が二メートルまで縮み、全身に竜麟、頭から二本の枝分かれしたツノ、先ほどまでドラゴンだった顔は人のものへと戻り、四本の手には分割された金棒が握られている。
「『両面宿儺・煉獄四剣竜』……この姿こそ、天照十二月『葉月』オオタケマル最強の姿。光栄に思え……トウマ、この姿で貴様を殺す」
「……最高だな、オオタケマル」
「あ?」
トウマは、満面の笑みを浮かべていた。
「お前っていう強者が、俺のために、自分が持ってる最大にして最強の力で、俺を倒そうとしてくれる。たまんねぇな……この高揚感。何度味わってもいいもんだ」
トウマは、脇差を抜き、打刀を掲げ、脇差をオオタケマルに突きつけた。
二刀流。その姿は、トウマ最強の技を繰り出すための構え。
「斬神月刃……俺も、お前を倒すために全力を出す。オオタケマル、もっともっと高め、戦おう!!」
「……ハッ!!」
オオタケマルも笑い……そして、トウマと激突した。
◇◇◇◇◇◇
一方、アシェたちは……形勢が一気にアシェたちに向いていた。
「『アクア・マーメイド』!!」
「『ゼピュロスブレイカー』!!」
マールが、空気中の水分を集め、人魚のような形に変えて放ち、ハスターが竜巻を纏わせた槍を、回転を加えて投擲する。
それらの技を、シャードゥは腕を振るって薙ぎ払う。だが、腕に鎖が絡みついた。
「『クェレブレ』!!
蛇同士が深く絡み合うように、鎖が両腕に絡みついた。
そして、槌を片手で回転させながら、カトライアがシャードゥの足、親指を狙って振り下ろす。
親指がつぶれ、シャードゥの顔が歪む。
『ガキがァァァァァッ!!』
ズドン!! と、力任せに鎖を千切り、マールとハスターを殴り殺し、ヴラドを蹴り飛ばし、カトライアを叩き潰す……が、マールたちを包む青白い光が、一瞬で身体も服もマギアも回復してしまう。
シャードゥは本気で焦っていた。
(要は、あのガキ……!!)
リヒト。
鼻血をダラダラ流し、目を血走らせ、青筋を浮かべ、人間ではありえない量の魔力を放ち、仲間を一瞬で回復している。
回復なんて生易しいものではない。マギアや衣類なども瞬間で修復している。
(これは、回復ではない!! 七曜月下……いや、天照十二月に匹敵する膨大な魔力!! 回復を超え、『回帰』の域に達している!! ただの人間が、月の民でも習得が不可能に近い大魔法を使用するなんて……おのれ!!)
シャードゥは、竜化の祝福を得た強大な月の民。だが……限界は存在する。
そもそも、『竜化』という奇跡の祝福は、いつでもどこでもノーリスクで使える力ではない。発動させるだけで魔力は空っぽになり、解除のタイミングを間違えると人に戻れなくなるばかりか、理性が崩壊し怪物となってしまう。
そして、一度使ったら、三十日は使用できない。これらの制約から解放されるのは、竜化を極めた天照十二月だけだ。
限界が近い。ここまで想定外なことは初めてであり、さらに自分がここまで追い詰められたことも初めて。人間がここまでの力を見せたことも初めてであり、初めて尽くしだった。
だからこそシャードゥは、焦りから動きが単調になっていることに、気づいていなかった。
「ハスターさん!!」
「ああ!! カトライア、ヴラドも!!」
「おう!!」
「はい!!」
四人が一斉に、真正面から、シャードゥに向けて技を繰り出した。
「『アクア・ド・リヴァイア』!!」
「『シューティング・スター』!!」
「『災厄円環毒蛇』!!」
「『超優雅なる滅殺撃』!!」
『オオオオオオオオオオオオオオオ!!』
シャードゥの意地……二十年も生きていない子供の全力を、七曜月下『夜行竜』シャードゥが逃げるわけにはいかないかった。
真正面から、すべての攻撃をシャードゥは受ける。
『グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
「「「「おおおおおおおおおおお!!」」」」
水、風、闇、地。
四つの力がぶつかり、その余波で身体が削れるが、四人の身体は再生する。
尋常ではない目つきをしたリヒトが、両手を四人に向けていた。
そして……攻撃が相殺され、四人は吹き飛び、シャードゥも後退する。
『は、ハハハァ!! 限界のようだなぁぁぁぁぁ!!』
青白い光が、消えた。
シャードゥの身体もボロボロだった。両腕が炭化してボロボロになり、傷も消えないのか血だらけだ。
それでも、シャードゥは立っていた。
満身創痍で四人は立てない。リヒトはいつの間にか倒れ、完全に気を失っていた。
シャードゥは興奮する。
『貴様らのことは生涯忘れん!! 勝者はこの』
「勝ったのは、アタシたちよ」
耳元で声。
まったく気づいていなかった。
なぜ、シロガネに担がれたアシェが、『イフリート』を肩口の傷に突き刺しているのか。
『な、な』
「アンタ、四人と真正面からぶつかって、全身ボロボロのダメージを受け続けてたから、シロガネと一緒に背後からアンタの背中に登っていたアタシらのこと、気づいてなかった。まあ、アタシらもダメージを受けてたけど、リヒトのおかげでずっと再生していたからね」
『ば、馬鹿な』
「七曜月下『夜行竜』シャードゥ。これで終わりよ!!」
アシェは『イフリート』の引き金を引く。
「『イグニアス・ティタノマキア』!!」
体内が一気に燃え上がり、内臓が溶解し、弱点の心臓がドロドロに溶けて消えた。
『このオレがアアアアアアアアアアアアア!! こんなガキにいいいいいいいいいいいいいい!!』
シロガネに担がれアシェはその場を離れる。
断末魔を上げ、七曜月下『夜行竜』シャードゥは、ドロドロに溶解……最後は、消えてなくなった。
こうして、アシェたち七人は、七曜月下を討伐した。