ヴァリアント解放戦争②
トウマ、そして七国の同級生七人は、最前線から少し後ろにある小さな森にいた。
それぞれ、戦闘準備は完了している。学生服の上に、胸当てやガントレット、グリーブなどを履いて補強している。せめてもとカトライアが用意した装備だ。
一方トウマは、いつも通りの服装で腰に刀を差しただけ。
「さて、いよいよ戦いが始まる。俺らは好きに動いていいって話だし、親玉目指していくぞ!!」
「「「「「「「…………」」」」」」」
七人は緊張してはいたが、戦意に満ちている。
そして、カトライアが挙手。
「あの、トウマさん」
「はいカトライア。質問どうぞ」
「その……本当に、私たち七人で、七曜月下『夜行』のシャードゥに?」
「おう。授業の一環ってやつだ」
授業の一環で、七曜月下『夜行』のシャードゥに挑む……あまりにも馬鹿げている。
だが、トウマは本気だ。
そして……ピクリと眉を動かした。
「……強い気配が一つ、増えたな」
「え? 『夜行』のシャードゥでしょ?」
アシェが言うと、トウマは首を振る。
しばし目を細め、ブツブツ言う。
「……ビャクレンより強いな。いきなり現れた気配、俺を意識して『執行者』が送り込んできたのか? くくく、ありがたいな」
「ちょっと、トウマ」
「ああ悪い。さて、じゃあ俺らも行くか」
するとトウマは、森の藪の中へ。
そして、大きなトロッコを担いで戻って来た。
アシェ、ハスター、マールは嫌な予感がした。
「さあ、これに乗れ。ちょっと狭いけど我慢な」
「……あの、トウマさん? これ、まさか」
「俺が担いでいく。いいから乗れって」
マールをひょいっと担いでトロッコの中へ。
他の六人も何とも言えない顔で乗り込んだ。
そして、トウマは首をコキコキ鳴らし、手足を軽く柔軟する。
「戦神気功、『超人が如く』」
闘気で身体を覆い、身体能力を極限まで上昇させる技を発動させ、トロッコを片手で掴んで持ち上げ、肩に担ぐ。
「ちょ、とと、トウマ!? あんま揺らさないでよ!!」
「うふふ、少しだけわくわくしますわね」
「お、おいアシェ……まさかこいつ」
「ぼ、ボクらを、担いでいくの?」
「ははは。ヴラドにリヒト、舌を噛まないようにした方がいいよ?」
「ひいいいい!? わわ、私、あんまり高いところは」
「…………」
トロッコの上で、七人がギュウギュウしながら騒いでいる。
トウマは笑い、呼吸を整え……地面を全力で蹴った。
「「「「「「「ッ!?」」」」」」」
ドン!! と、地面が爆発。
トウマは森を飛び出した。
同時に、大砲がさく裂。
『全軍、突撃ぃぃぃぃぃ!!』
グロッタの合図で、マギナイツたちが飛び出した。
遠くでは、魔力が増大。
遠距離魔法が飛んでくる。
「戦神気功、『舞うが如く』!!」
火、水、風、岩、氷、雷の矢が降り注いでくるが、トウマは全て回避。
アシェたちは、魔法の雨が降る光景に唖然としつつ、必死でトロッコにしがみついていた。
トウマの異常な速度で一気に支配領地の境界を超えると、鍛え抜いた身体を持つ『司祭』たちが、全身を魔法で強化した状態で突っ込んできた。
「と、トウマ!!」
「掴まってろ!!」
アシェが叫ぶ。
トウマはトロッコを放り投げた。
「「「「「「「え」」」」」」」
トウマは狂気の笑みを浮かべ、刀に手を添えた。
「刀神絶技、刹の章──『吉祥八宝』」
円状に放たれた八つの斬撃は、向かってきた司祭を円形に抉り、削り取った……当然、即死。
トウマは落ちて来たトロッコを掴んで跳躍。魔法の雨が降って来たが、なんと空中を蹴って回避。
「なんだあいつは!!」「魔法、急げ!!」「近接部隊!!」
様々な声が聞こえてくる。
当然であった。ここは敵地のど真ん中。
そんな中を、まだ学園一年生のアシェたちが、トロッコに乗せられ突っ切っている。
「あっはっはっはっは!! 俺ばかり気にしてると、前から来る怖い兵士たちの相手できなくなるぜー!!」
トウマは跳躍、崖を蹴って登り、崖際へ着地した。
そしてトロッコを降ろし、アシェたちに言う。
「到着。ささ、みんな降りた降りた」
「あ、アンタね……アタシたち、息をするのもしんど……」
アシェは、猛烈なプレッシャーを感じ、背筋が凍り付いた。
それは、トウマ以外の六人も感じていた。
目の前にいるのは、仁王立ちした男。
「ほう……報告にあったな。貴様が、水の国、火の国の七曜月下を殺した男だな?」
筋骨隆々な男だった。
戦装束を身に纏い、トウマに敵意を向けている。
生物としての桁が違った。アシェたちは震え、汗をダラダラ流すことしかできない。
トウマは言う。
「……まあ、なんとかいけるか。アシェ、あいつ任せるぞ」
「え」
「お前ら七人で、全力出してあいつを倒せ。俺の授業、最後の課題だ」
「な、え、ば……ばば、馬鹿言ってんじゃないわよ!! あ、アタシら七人で、あいつを!? 見てわかるでしょ!? 勝てるわけない!!」
「勝てる」
トウマは断言した。
驚くアシェ。すると、七曜月下『夜行』のシャードゥはトウマに向けて拳を握った。
だが……トウマが目を見開き、殺気を込めた目で射抜いた。
巨大な刀が、シャードゥの身体を貫通する幻が叩きつけられた。
「ッッッ!?」
「そこ動くな。殺すぞ」
シャードゥは、脂汗を流しピクリとも動けなかった。
アシェたちがシャードゥを見て動けないように、シャードゥもまたトウマを見て動けなくなった。
トウマは言う。
「あいつはまあ、そこそこ強い。でも、俺はお前ら七人で全力を出せば、勝てるんじゃないかって思った。勝てないなら一撃加えることも考えたけど……それは必要ない」
「あ、あの……トウマさん、本当に」
「マール、お前の双剣による近接戦。まだまだ伸びしろがある。お前は、自分の『武器』をもっと活用すればいい」
「……チッ」
「おいヴラド。お前も同じだ。お前はわかってんだろ? お前の空間把握、認識能力は生まれ持った才能だ。それを伸ばせば、まだまだ強くなれる」
「と、トウマさん」
「カトライア。お前の一撃は、たとえあいつがドラゴンになっても効果があるって俺は思う。一撃必殺……それが、お前の真骨頂だ」
「オレにアドバイスは?」
「ハスター、お前は万能型だ。突出した何かはないけど、全てにおいてこの中で二番か三番の力がある。それらを活かして、戦え」
「…………ハバキリ様」
「お前は相手を乱せ。刺客からの一撃を叩きこめ。できるよな?」
「……あの、ぼ、ボクは」
「リヒト。お前はこのチームの鍵だ。お前次第で、勝率は変わる」
トウマは、リヒトの肩を叩いてジッと見た。
リヒトはハッとなり、俯く……だが、顔を上げて頷いた。
そして、トウマはアシェに言う。
「アシェ。お前は司令塔だ。俺が今言ったことを理解して、お前を含めた全員を動かし、勝利に導いてみせろ。それができた時、あいつに勝利した時、お前らは真の意味で強くなれる」
「……ほんと、無茶言うわね。でも……ハラ決めたわ」
アシェは、『イフリート・ノヴァブラスター』を手にする。
「ふふ。わたくしもですわ」
マールは、『ハールート&マールート』を抜いて構える。
「……フン」
ヴラドはニヤリと笑い、新マギア『アンフィスバエナ』を見せつける。
「じゃ、オレはオレらしく。かな?」
ハスターは、槍型マギア『グリフォン』をクルクル回して肩に担ぐ。
「……私も、ランドグリーズ家の一員!! この地を解放するため、戦いますわ!!」
カトライアは『ヘカトンケイル』を掲げ、ズシンと地面を叩く。
「……やるだけだ」
シロガネは、蛇腹剣こと『タケミカズチ』を抜いて構える。
そして、リヒトは杖型マギア『ティターニア』を強く握る。
「やるんだ。ぼくだって……できるんだ!!」
七人が気合いを入れたのを最後に、トウマはシャードゥに言う。
「お前、この七人はお前を殺するつもりで向かって来る。いいか……お前も遠慮するな。殺すつもりで、全力で殺しにこい。もし、殺すことができたら、生かしておいてやる」
「な、何ぃ?」
敵に向ける言葉ではない。だがトウマは本気だった。
威嚇を解き、シャードゥの背後に指をさす。
「奥にいるんだろ? お前以上の敵が二人。俺は、そいつらを狩る」
「き、貴様……」
「じゃあみんな、死ぬなよ」
トウマは消えた。
残ったのは、七人とシャードゥ。
シャードゥは怒りに顔を歪め、青筋を浮かべて叫んだ。
「ガキどもが!! 食い殺してくれるわ!!」
「全員、全力でいくわよ!! アタシの指示に従って!!」
戦いが、始まった。