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月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~  作者: さとう
第三章 セブンスマギア魔導学園

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七曜月下『夜行』のシャードゥ

 地の国ヴァリアント、支配領域の最奥にある巨大な『洞窟』の中に、鉱石を積み重ねた玉座に座る男がいた。

 男は、浅黒い肌に短髪を逆立て、身体付きはオークのような巨体でありながら、オーガのように引き締まった非常に鍛え抜かれた身体をしていた。

 男の手には、漆黒のダマスカス鉱石が二つ、弄ばれている。


「……フン。つまらんな、ガルドスよ」

「はっ、我が主」


 男の名は、七曜月下『夜行』のシャードゥ。

 地の国ヴァリアントを半支配する七曜月下である。そして、部下にして『枢機卿』のガルドスは、玉座の隣で深々とお辞儀した。

 シャードゥは言う。


「水の国、そして火の国が落ちた……この状況で何故、月の本国は何もしないのだ? クソ……人間の国なぞ、さっさと滅ぼせばいいと、もう百年以上言っているのだがな」


 ダマスカス鉱石をギリギリと握り潰すと、砂のようにサラサラと粒子になって床に落ちた。

 シャードゥは、いろいろと限界に達していた。


「イライラする。さっさと地の国を征服したいのだが、本国がそれを許さん。月光の三聖女は、何を考えている……」

「主、それ以上は」

「フン。『執行者』が来るか? それもいい……退屈を紛らわせることができるのなら、なんでもな」


 シャードゥはギリギリと拳を握り、丸太以上に太い二の腕を見せつける。

 そんな時だった。

 コツン、コツン……と、静かな足音が聞こえて来た。


「……ん? なんだ、貴様」


 妙な『何か』だった。

 まず……その存在は、大きな『傘』を差していた。

 傘のせいで顔が見えないが、月の民が着る『着物』に、『羽織』を纏っているのがわかった。

 髪の毛も長いのか、背中の中ほどまで伸び、着物の胸元を見るとアバラが浮いていた。そして、男と言うことがわかった。

 足音の正体は、男が『下駄』を履いているから音が響いていたのだろう。

 シャードゥとガルドスは、男の衣類や傘に気を取られてはいない。

 なぜか、男の真上にだけ、『雨』が降っていた。


「……なんだ、コイツは。おいガルドス、こんなやつ、ここにいたか?」

「いえ。見たことがありませんが……」


 シャードゥとガルドスもわからない。

 男の真上にだけ小さな雲があり、そこから雨が降っている。地面に落ちた雨が一瞬で蒸発して気化し、再び雲へと戻っている。

 男は、自分にだけ振る雨に傘を差しながら、ゆっくりと歩き……止まった。


「ああ、どうもどうも……ははは」


 傘を上げると、顔色の悪い、痩せた男の顔が見えた。

 特徴のない、整ったわけでも、不細工なわけでもない、普通の男だった。

 シャードゥ、ガルドスは怪訝な顔をする。

 男は、困ったように微笑みながら、頭をボリボリ掻いて言った。


「いやー……今の子は、アタシのことなんかわかんないか。本国でも影が薄いって言われてるしねえ」

「何者だ貴様……名を名乗れ」


 シャードゥは玉座から立ち上がり、男に敵意を向ける。

 男は、ペコペコ頭を下げて言った。


「ははは。アタシは『天照十二月アマテラスじゅうにつき』の一人、『水無月』のフラジャイル……ああ、この名前あんま好きじゃないんで、『雨男』と呼んでくれや」

「「──ッ!」」


 シャードゥ、ガルドスは真っ青になり、冷や汗をダラダラ流しながら全力で跪いた。

 天照十二月。月神イシュテルテ、月光の三聖女を除けば最強の十二人。

 月の本国を守る最強の戦闘集団。当然、七曜月下のシャードゥなど相手にならない存在である。

 『雨男』ことフラジャイルは手をプラプラさせる。


「ああ、いい、いい。そういうのいいって。ささ、顔を上げて」


 フラジャイルは苦笑する。


「いやあ、いきなり来て悪かったね。こっちにもいろいろ事情があってさ」

「じ、事情……?」


 シャードゥは、借りて来た猫のように小さくなった。

 『膨張』……筋肉を膨らませ、巨大化することができる能力で大きく見えていたようだ。

 フラジャイルは言う。


「ビャクレンちゃん……『卯月』が負けて、しかも負けた相手に弟子入りしたって報告あってね。しかもその相手が『斬神』……とうに死んだはずの人間だっていうから驚きなのよ」


 こうして喋っている間にも、雨が降っている。

 フラジャイルは、傘をクルクル回して言う。


「序列はアタシが下だけど、相性で言えばアタシのがビャクレンちゃんより強いからさ、呼び戻しに来たってワケ。火の国にいるって聞いたけど、月から地上に降りるには支配領地じゃないとダメだからねえ。だから、近いここに来たってワケ」

「な、なるほど……」

「それにしても、七曜月下が二人も負けちゃうなんてねえ。人間のマギアも馬鹿にできないや」

「「…………」」


 フラジャイルは、少し考えて言う。


「うーん、アタシは『ビャクレンちゃんを連れ戻せ』って指令を『睦月』から受けただけで、他は何にも言われてないのよねぇ。見たところ、キミさ……随分と鬱憤溜まってそうだねぇ。よかったら、少しくらいやり返そうか?」

「……え?」

「二つの国が解放されちゃったんだ。一つくらい、完全に支配してもいいんじゃないかい?」

「そ、それは、つまり」


 フラジャイルは、ニッコリ頷いて言う。


「うん、地の国ヴァリアント、支配しちゃおっか」

「「……!!」」

「まあ、ひとつくらい問題ないでしょ。ビャクレンちゃんのところ行く前に、手を貸してあげるよ。あはは……アタシも、久しぶりの地上で、少しは遊びたいのかもねえ」


 シャードゥは、歓喜に震えそうになる身体を押さえて言う。


「ありがとうございます!! フラジャイル様!!」


 シャードゥの退屈は、一気に解消されようとしていた。

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