サバイバル生活
アシェがリーダーとなり、グロンガ大森林を進むこと十日。
トウマは、巨大なイノシシを解体して吊るし、そのまま丸焼き……たった一人で、数十キロある肉を完食し、骨を適当に放った。
内臓は適当に捨てた。確認すると、すでにない……どうやら魔獣が食べてしまったようだ。
トウマは、枝を細く切って楊枝にし、歯の間に挟まった肉をほじりながら呟く。
「十日目。あと五日だけど……どうなったかな」
アシェたちは、まだ誰も『脱落』していなかった。
トウマも、七日目あたりまでは確認していたが、しばらく放置して見ることにした。今日は十日目……三日ほど、様子を確認していない。
トウマは楊枝を捨て、『瀞月』を腰に差して立ち上がった。
「さて、確認してくるか。誰も死んでないといいけど」
トウマが近くにいるから死なない。
そんな安心感を与えたくないので、七日目までは見守って三日間放置した。
五日目あたりから、アシェたちは口数も少なくなり、身体の汚れも気にしなくなり、男女の区別もなく寝ていた。
過酷な環境での生活が、アシェたちの五感を研ぎすましていた。
トウマは、ワクワクしながらアシェたちを探す。
「…………わーお」
見つけた。
グロンガ大森林の中央付近、森のボスである『キングタイタン』の住処に近づいている。
恐らく、二日以内に到着するだろう。
そして、今現在の位置は。
「はぁぁ、久しぶりの水浴び、生き返るわね」
「ふふ。何日も身体を拭かない生活なんて初めてですわ」
「そーね。でも、リヒトさんの浄化魔法で、身体の汚れはある程度綺麗にしてるわ」
「……ふう」
アシェ、マール、カトライア、シロガネの四人は、小さな泉で水浴びの真っ最中だった。
トウマはまじまじと見る。
(ふむ……カトライアとマールが同じくらい、アシェは二人よりデカい。んで……シロガネ、こいつが一番でっかいな)
四人の胸部を見比べ、ウンウン頷いていた。
女の裸はいいものだ。と笑顔を浮かべていると、シロガネが何かに反応した。
(やべっ)
「ん、シロガネ、どうしたの?」
「……何か、視線を感じたような」
「? 動物か、魔獣なのではなくて?」
アシェ、マールがキョロキョロする。
トウマは気配を殺し、木の影からシロガネを見た。
(こいつは、まだ何か隠してるな……シロガネ・イカズチだっけ。なーんか、どっかで見たことあるような……まあ、いいか)
四人が泉から上がり、入れ替わりで男三人が来た。
野郎の脱衣シーンに興味のないトウマは、静かにその場から離れるのだった。
◇◇◇◇◇◇
サバイバル生活、十二日目。
トウマが離れた位置でアシェたちを確認すると、すでに戦闘が始まっていた。
敵は、六本腕、八ツ目の巨大魔獣、キングタイタン。
前衛のマール、カトライア、シロガネ。
中衛のハスター、ヴラド。
後衛のアシェ、リヒト。
「へえ……」
七人は、キングタイタン相手にも臆していなかった。
すくみ、ビビり、震え、判断ミス、無駄な動きがない。アシェの指示のもと、七人がやるべきことをやっているのがよくわかる。
「っ!!」
「ッ!! 『水玉模様』」
アシェの手の動きが指示になっているのか、マールは無言で青、水色の球体をいくつも生み出した。
そして、カトライアに手を向ける。
「お任せを。『高貴なる砂地獄』!!」
カトライアが槌で地面を叩くと、キングタイタンの右足がズボッと埋まる。
そして、両サイドに回り込んだハスター、ヴラド。
「『疾風突』!!」
「『蜷局巻』!!」
槍が六本腕の一つに突き刺さり、黒いモヤを纏った鎖が腕の一本に絡みついた。
そして、マールが双剣を振るうと、水色の球体がキングタイタンの顔を包み込み、青い球体が触れると一瞬で凍り付いた。
『~~~ッ!?!?』
キングタイタンは慌てる。
当然のことだった。顔面が凍り付き、呼吸ができないのだ。
残った四本の手で、自分の顔をガンガン叩いて氷を砕こうとする。
すると、カトライアがグルグルと回転していた。
「『高貴なる大回転撃』!!」
ズドォン!! と、回転を利用した数トンの槌が、キングタイタンの膝に直撃した。
だが、カトライアが驚愕。
キングタイタンの膝は、オリハルコン鉱石のような硬さで、破壊したつもりだがヒビすら入っていなかった。
だが、キングタイタンは痛みで膝をつく。
その隙に、シロガネが蛇腹剣をキングタイタンの首に巻き付ける。
「『雷電通破』!!」
雷の魔力が蛇腹剣を通り、キングタイタンが感電する。
だが……これでもキングタイタンは倒せない。
そして、顔面を覆っていた氷が砕け散った。
『グオオオオオオオオオ!!』
キングタイタンの怒り。全力の咆哮。
キングタイタンは、自分をコケにした子供たちを踏み潰そうとする。
だが……奇妙なことが起きた。
『……?』
いない。
巻き付いていた鎖も、刺さった槍も、首の蛇腹剣もない。
自分に向かって来た子供たちもいない。
「……チャージ、完了」
いたのは、自分に銃口を向ける、赤髪の女。
「『イグニアス・ティタノマキア』!!」
イフリートから発射された、イグニアス公爵家を関する灼熱の弾丸が、キングタイタンに命中……そのまま、キングタイタンは溶解するのだった。
こうして、アシェたちはグロンガ大森林のボスを討伐したのだった。
◇◇◇◇◇◇
「はいおつかれー」
キングタイタンを倒したところで、トウマが現れた。
近くの木の枝に乗っていたのか、上空から落ちてくるように現れたので、アシェたちも驚いていた。
トウマは笑い、キングタイタンを見て言う。
「よくやったな。一人一人が、自分のできることを精一杯やった結果がこれだ。みんな、この十日余りで、森に入る前よりも格段に強くなってる」
「「「「「「「…………」」」」」」」
七人は、どこか疲れたようにトウマを見た。
そしてアシェが言う。
「強くなったって、ほんと?」
「ああ。中でも、アシェ……お前が一番強くなった。過酷な環境で精神的にもタフになったし、指示を出すことで視野も広くなった。気付いてるか? お前、森に入ってから一度も、的を外してないぞ」
「……ぁ」
今、気付いたのかアシェはハッとした。
「それだけじゃない。ここにいる全員の視野が広くなった。それに、純粋な戦闘能力も上がった」
過酷な環境での訓練だった。
いつ、どこで魔獣が襲って来るかわからない中での野営。研ぎ澄ました精神での警戒。やらねば殺される戦いでの戦力向上……生死の境による成長の幅は、普通の訓練では上がらないレベルまで上げてくれる。
七人は、まだ自覚がないのか半信半疑。だが、キングタイタンを見てアシェが言う。
「この魔獣……昔のアタシじゃ、絶対に倒せなかった」
「かもな。でも、もう大丈夫だろ?」
アシェは、マールたち六人を見て言う。
「あのさ、みんな……こいつを見て、どう思った? アタシ……全然、倒せると思った」
「……わたくしも」
「オレもだ」
「……チッ、クソが」
「ぼ、ぼくもその、いけるかなって」
「私もです」
「……フン」
アシェ、マール、ハスター、ヴラド、リヒト、カトライア、シロガネ。
全員が、キングタイタンを相手に戦えていた。
トウマは頷く。
「とにかく、お前ら強くなったぞ。これなら、次の修行もいけるな」
「……え、次って」
アシェは、どこか嫌な予感がしていた。
トウマは、至って普通に言う。
「次は、地の国ヴァリアントに行って『七曜月下』を倒しに行くぞ」
「「「「「「「……は?」」」」」」」
「カトライアがいれば、地の国入れるだろ? あとは、支配領域に乗り込んで、そこにいる月詠教と、七曜月下を倒して、修行は終わりだ。七曜月下を相手できるようになれば、もう一人前だろ」
「「「「「「「…………」」」」」」」
七人は唖然とした。
ここグロンガ大森林は、火の国と地の国が共同管理している。
つまり、行こうと思えば地の国へ行けるのだ。しかもカトライアがいれば問題なく入れる。
「じゃ、行くか」
こうして、トウマと七人による、地の国ヴァリアントの七曜月下を倒す『授業』が始まるのだった。




