全体集会
全体集会の時間となった。
アシェたちは、校内にある『大地の四神』の像がある大聖堂へ移動。
新学期が始まる挨拶として、学園長からの話がある。恐らく、火の国ムスタングが解放された件についても話があるとアシェは思っていた。
そして、大聖堂にある座席に座り待つ。
「……」
派閥の四人が近くにいる。
特に席の指定はないが、アシェのクラスは派閥ごとに座っていた。
一学年のマギナイツ学科百二十名。マギア学科が三百名。合計四百二十名。
それが三学年あり、合計で千二百名ほど。さらに三年以降も学園に残り、研究員として学園で仕事をすることを選んだ生徒が二百名ほど。
合計千四百名が、大聖堂に集まっていた。
(こうしてみると……貴族ばっかり)
基本的に、マギナイツは貴族のみ。
マギソルジャーの貴族もいるが、平民も多くいる。
セブンスマギア魔導学園の分校には、平民が通う学園もあるとアシェは知っているが、詳しくはない。
そして、副学長による挨拶が始まった。
『えー、第二学期が始まります。学生の皆さん、戦闘技術、マギアについての知識を学び……』
退屈な話だった。
アシェは欠伸をしそうになるのを堪えつつ、聖堂の教壇で挨拶する副学長を見る。
(このあとは……トウマとビャクレンの学校案内ね。どこ連れてくかな……訓練場、マギア開発棟とか……ああ、お腹減ってるかな。学食も行こ……あとは)
ぼんやり考えていると、副学長の話が終わった。
そして、入れ替わるように学園長、ムスタング王族にして現国王の弟、ルドルフが登壇する。
アシェの父、ヴィンセントは言っていた。
『王弟ルドルフ。彼は私に匹敵するマギナイツでもある』
父が認めたマギナイツ。
今のアシェでは勝てないだろう。そう思っている。
ルドルフは、胸ポケットに手を入れ……「しまった」というような顔になった。
どうやら、挨拶が書かれた紙を忘れたようだ。
すると。
『おいルドルフ、これ落ちてたぞ。ほれほれ』
『ああ、すまないね、トウマくん』
「ブーッ!?」
アシェは冗談抜きで噴き出した。
舞台袖から何故かトウマが出てきた。そしてルドルフに挨拶用紙を手渡した。
愕然とするアシェ。そして、マールは口元を押さえ、ハスターは額を押さえていた。
周りも「え、誰……」や「学園長を呼び捨て……?」と困惑する。
どう見ても同世代。周りはいきなり現れたトウマを疑問に思い、アシェはルドルフがあいさつで何を言ったか全く覚えていないのだった。
◇◇◇◇◇◇
全体集会が終わり、アシェは頭を抱えて聖堂を出た。
今日はこのまま解散。まずは寮に行こうと思っていると。
「よ、アシェ」
「…………」
トウマがいた。
普通に、片手を軽く上げ、笑顔を向けている。
アシェはトウマの手を取り、聖堂の裏にある庭園へ向かった。
聖堂の庭園には誰もいない。聖堂担当の司祭や教師が庭を手入れしているのか、綺麗に花が咲いている。アシェはとりあえずトウマに言った。
「アンタ……なんで学園長と?」
「いや、偶然会ってさ。俺が二千年前の『斬神』って言ったら信じてくれたんだよ。で、話でもしようってことでいろいろおしゃべりしてさ」
「……頭痛くなってきた。ったく……あんまり驚かせないでよ。とにかく、寮に戻るわよ。学園案内してあげるから。それに、お腹も減ったでしょ? 食堂もあるから行くわよ」
「おお、いいな!! ビャクレンのやつもまだ修行してるかな? さあ行こうぜ」
派閥の四人がいなくてよかった……と、アシェはため息を吐いた。
そして、寮に戻りビャクレンの元へ。
「師匠……終わりました」
「ほう……できたようだな」
「はい。回避、迎撃を……ふぅぅ」
ビャクレンは汗だくだった。
メイド服を脱ぎ、シャツ一枚に短パン姿で座禅を組んでいた。髪は乱れ、呼吸も荒い……それほど、『トウマの一撃』というイメージは強烈で、回避も迎撃も困難だったのだろう。
アシェは、ビャクレンの汗をハンカチで拭う。
「汗だくじゃない。ほら、着替えしてから行くわよ。トウマ、待ってなさい」
「おう」
それから十分後。新しいメイド服を着たビャクレンが戻って来た。
どうやらアシェが世話を焼いたようだ。メイドとしては立場が逆なのだが、二人とも気にしていない。
「じゃあ、学園案内してあげる。その前に、まずはご飯ね……食堂行くわよ」
「「行く!!」」
アシェは、子供のような二人の反応に苦笑しつつ、寮を出るのだった。
◇◇◇◇◇◇
学園内にある大食堂に三人は到着。
千人入れる大食堂はかなり空いていた。
三人は大きな円卓に座り、アシェが適当に料理を注文。
「ここ、タダだから好きに食べていいわよ」
「「タダ!?」」
「うん。町と違って、国が運営してるからね。七国から食材を取り寄せて、七国の文化の食事をほぼ再現できるんだって……すごいよね」
料理がテーブルに並ぶ。
見たことのない料理ばかりで、トウマもビャクレンも目を輝かせた。
「すっげえ!! よっしゃ食うぞ!!」
「お、おいしい……!! 月では味わえない美味しさ!!」
ガツガツ食べる二人を見て、アシェは苦笑する。
食事を楽しんでいると、背が高い少年が一人で食堂に入って来た。
「あ……」
「ん、どした」
「いや、べつに」
トウマが視線を送ると、制服を着崩し、黒い前髪でほぼ視界が封じられている。
どこか猫背で、ポケットに手を突っ込んで歩き、空いている円卓にドカッと座った。
そして、料理を注文……運ばれてきたのは、生肉、生魚、真っ赤なジュースに、赤い果実ばかり。
少年は、口をガパッと開けると、生肉を齧り咀嚼する……しかもその量が、どう見ても十人前ほどあった。
アシェは「うげえ……」と、生肉を齧る少年を見て顔をしかめ、すぐ背けた。
「もぐもぐ……知り合いか?」
「同じクラス。ドラグレシュティ公爵家のヴラドよ」
「へえ、生肉食ってるな。そういや俺も、山の中で蛇とか捕まえて、そのまま皮を剥いで食ったっけ。けっこう弾力あって美味いんだよ」
「……そ、そうなんだ」
「へび……師匠、私も食べてみたいです」
「じゃあ山籠もりでもしてみるか」
「はい、ぜひ!!」
変な方向で話がまとまった。
すると、トウマとブラドの目が合う……ブラドの長い前髪からほんの少しだけ見えた切れ長の目が、トウマを射抜くように見た。
ブラドは、ギザギザの歯を見せつけるように笑い、肉を片手に立ち上がって近づいてきた。
「……よォ」
「おお、肉うまそうだな」
トウマは変わらず、よく焼いた肉を食べながら食べフォークを持つ手を上げた。
そして、ヴラドはアシェに言う。
「おい。イグニアスの……コイツ、さっき全体集会の時に、学園長の傍にいたよなァ……」
「そーね。で、それが?」
「タダモンじゃねぇ感じがヒリヒリしやがる……オマエ、何モンだ?」
「ん、トウマだ。よろしくな」
「……そういや、イグニアスの……噂なんだけどよ、ムスタングを解放したの、オマエんとこだけじゃなくて、外的要因があったって話だな。それ、コイツと関係あんのか?」
「それ、アンタに言う必要ある? そもそも人のことイグニアスのとか、失礼極まりないわ」
アシェがジロっと睨むと、ヴラドが「はっ」と肩を竦めた。
「まあいい……おいオマエ。ヒマならオレの摸擬戦に付き合わねえか?」
「別にいいぞ」
「ホォォ……まあ、オレのこと知らねえから即答できるんだなァ。ククク……訓練場で待ってるぜ」
ヴラドは行ってしまった。
トウマの強さを知っているアシェは、どこか気の毒そうに言う。
「アイツ、腕に自信あるんだろうけど……トウマ、わかってるわよね」
「ああ、殺さないよ。むしろ、どんなマギアなのか、どういう戦い方するのかワクワクしかないな」
「師匠……あんな雑魚、相手にしなくていいのでは? 私や師匠の間合いに無防備で踏み込む意味を理解していない雑魚、私がやっても」
「ダメダメ。わざと手を出さなかったのお前もわかっただろ? ふふふん、どんな武器使うのかな~と」
「…………やれやれ」
かませ犬。
なぜか、アシェの脳裏にはそんな言葉が浮かんでいた。