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七国から来たクラスメイト

 アシェが派閥……とは本人は思っていない。派閥の四人と一緒に教室に入ると、すでにクラスメイトたちは全員揃っていた。

 総勢三十名。アシェたちが入ると三十五名。

 七国から五名ずつという、奇跡みたいなクラス分けだ。一年生は四クラスなので、他のクラスにも七大公爵家の配下貴族で占められているだろう。

 アシェは教室内を見渡す。すると、マールが近づいてきた。


「おはようございます、アシェ」

「おはよ。アンタ、相変わらず来るの早いね」

 

 マールの後ろにも派閥の生徒がいる。アマデトワール公爵家の配下貴族出の少女だろう。どことなく、マールに似て高貴そうな少女だが、アシェは名前を憶えていない。

 アシェは、派閥の四人に「じゃあ、席座るから」と言うと、四人は自分の席へ。

 アシェは大きくため息を吐く。


「はぁぁ……まーたこの貴族ごっこが始まるのかぁ」

「アシェ」

「はいはい。わかってますよー」


 マールに咎められ、アシェは黙る。

 アシェのような公爵家出身にはわからないのだ。生まれてすぐ仕えるべき存在が決められ、仕えることこそ至上の喜びと教えて育てられた少年少女たちのことなど。

 すると、ハスターが一人で近づいてきた。


「や、アシェ」

「んー、おはよ」

「早速だけど……噂になってるぜ」

「え? 何が」

「オレ、マール、んでアシェの三人で、火の国ムスタングの領地解放戦争に参加して、『枢機卿』をブッ倒したことだよ。視線、感じるだろ?」


 確かに、視線を感じた。

 先ほどは気付かなかったが、アシェの派閥四人も羨望の眼差しを向けている。

 アシェは言う。


「あのさ、確かに三人で戦ったけど、トウマの一撃がなかったら『枢機卿』になんて勝てるワケなかったじゃん」

「ふふ。でも、トウマさんが一撃を入れたところ、私たちしか見てませんからね……私たちを回収しに来たマギナイツの方々も、私たちが倒したとみていますし、そう報告した……だからこそ、真実が伝わっているのですわ」

「そうよねぇ……うわ、見てる見てる」


 アシェが視線を送った先にいた少女と目が合った。

 金髪の縦ロールヘア、はち切れんばかりの巨乳、アシェをジロッと睨み、フンと顔を背ける少女。

 だが、立ち上がると派閥の四人を連れ、アシェたち三人の前に来た。

 そして、アシェの前に立ち、手にしていた扇をバサッと開く。


「ごきげんよう、アシェ」

「おはよ……カトライア」


 カトライア・ラーズアングリフ。

 『地』を司るラーズアングリフ公爵家の少女。何かとアシェに突っかかってくるので、アシェはかなり苦手だった。

 だが、挨拶された以上は返さないといけない。

 カトライアは、扇で口元を隠したまま言う。


「聞きましたわよ。アシェ……あなた、『枢機卿』を倒したそうね」

「まあ、この二人も一緒だけどね」

「ふぅん。まさか、落ちこぼれであるアナタがねぇ」


 落ちこぼれ。

 そう言われ、以前のアシェは否定できず、言い返しもしなかった。

 だが、今は違う。


「落ちこぼれのアタシでも倒せたのよ。アンタも、地の国ヴァリアントを支配している『夜行』の枢機卿倒せると思うけど?」

「……む」

「はいはい、そこまでですわよ。カトライア、何度も言いますけど、その煽るような、馬鹿にするような言い方は淑女としてどうなのかしら」

「……まあ、いいわ。アシェ……イグニアス公爵家だからと調子に乗らないことね」


 そう言い、カトライアは去って行った。

 アシェは大きくため息を吐くと、ハスターが言う。


「やれやれ。『地』のお嬢様はやっぱりイグニアス公爵家が気に入らないみたいだねぇ」

「……アタシに当たられてもねえ」


 イグニアス公爵家。

 マギア発祥の地である火の国ムスタングは、七国の中でも中心的な位置にある。

 七国が会合を開く場合などは、必ず火の国ムスタングで行われる。そして、マギアを生み出した偉大なる四神の一人『脳神』を祖先に持つイグニアス公爵家が七大公爵家の中心となることが多い。

 『地』を司るラーズアングリフ公爵家は、それが面白くないそうだ。


「はぁぁ、まーたカトライアの嫌味を聞く学期が始まるのかぁ」

「ははっ。ところでアシェ……トウマは? まだ家にいるのかい?」

「んーん。アイツ、学園見学したいって言うから、従者枠で連れて来た。今はアタシの寮にいる」

「まあ、そうなんですの? 従者枠……アシェ、寮を使うんですの?」

「屋敷近いし使わないわよ。あくまで、トウマを案内するために連れて来ただけ。案内終わったら帰るわよ……今日は午前中で終わるしね」

「なるほどね。オレも挨拶したいところだけど、家の用事あるんでな」

「私も、実家にお手紙の返事を書くので……」

「別にいいわよ。と……そうだマール。カトライアに、地の国ヴァリアントの通行許可証をもらいたいんだけど……頼んでいい?」

「ええ。私から話しますわ。アシェとは相性が悪いですけど、私とはけっこう合うんですのよ」

「まあ……アンタもカトライアも、ご令嬢って感じだしね」

「優雅に紅茶を飲む姿が目に浮かぶね」


 ハスターが笑うと、マールも笑い、アシェも笑った。

 一学期だったら、こんな風に笑い合うことなんて絶対になかった。トウマをきっかけとして、三人で命懸けで協力し戦ったことが、仲間意識を産んでいた。

 すると、教室のドアが開き、担任教師が入って来た。


「さて、席についてください。新学期のホームルームを始めます」


 こうして、アシェたちの二学期が始まるのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 一方、トウマとビャクレンは。


「……暇だ」

「…………」


 トウマは瞑想を終え、ソファに寝転んでいた。

 一方、ビャクレンは大汗を流して瞑想している……トウマが叩きつけた『イメージ』による斬撃を、確実に躱すためにどうすればいいか、必死に考えているようだ。

 修行……躱すことができれば、今日の修行は終わりである。


「…………ちょっとだけ散歩しようかな。ちょっとだけ」


 トウマはビャクレンを見る。

 どうやら、『トウマの一撃』を躱すことがイメージでもできないようで苦戦していた。だが、『気』の揺らぎを見ると、確実に上達しているのがわかる。

 恐らく、半日もしないうちに達成できるだろう。

 邪魔をしないよう、トウマは寮を出た。


「さて……散歩しますか。うん、ちょっとだけな、ちょっとだけ」


 トウマは、言い訳するようにキョロキョロしながら散歩を始めるのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 最初に向かったのは、やはり一番目立つ塔。

 近付いてみて、トウマは理解した。


「時計塔……なるほどなあ」


 時計塔。

 見事な装飾の塔だった。塔頂には四つの石像が並び、まるで学園を守護しているかのように見える。

 その像を見上げていると、トウマは気付いた。


「あれ、あの像……」

「あれは『大地の四神』……人の身でありながら、月神に『神の如き人間』と認められた、四人の現人神だよ」

「やっぱそうか」


 トウマの隣に、初老の男性が立っていた。

 当然、トウマは気付いていた。

 男性は言う。


「驚かないんだね」

「まあ、気配殺して近づいてきてんのわかったけど、悪意も敵意もないし、ビックリさせようとしただけだろ? それに、お前けっこう強いし、俺がどのくらい強いかわかるだろ」


 悪意ゼロでトウマは言う。

 男性はトウマを見て気付いた。尋常ではない力を持っている。

 同時に、何かを確信……笑顔を浮かべ、そのまま言う。


「きみは、大地の四神を知っているかい?」

「えーと、斬神、鉄神……」

「脳神、愛神の四人だね。その四人は本当にすごかったんだよ」

「ふふん、まあな」


 胸を張るトウマ。

 男性は続ける。


「マギア理論を生み出し、人類に月の民と抗う力を与えた『脳神』、理論を元にマギアを作り出した最高の鍛冶師である『鉄神』、そして絶対的なカリスマを元に人類を統治し、七国制度を作りまとめて『愛神』……そして、たった一人で月神に挑み、全てを斬り裂いた最強の『斬神』……この四人がいたからこそ、人類は今まで月詠教と戦ってこれた」

「…………」


 トウマは、男性の横顔をジッと見た。

 似ても似つかない。だが……トウマの知る女性と、重なって見えた。


「…………セイレンス?」


 六十代後半で出会った、絶対的なカリスマを持った女性。

 まだ二十代と若い女だったが、老若男女問わず誰もが彼女を愛し、支えた。

 トウマはそのカリスマを危険と思った。ある意味で。

 すると、男性は驚いたようにトウマを見た。


「……きみは、『愛神』を知っているのかい? 私の祖先なんだ」

「ああ、そうなのか……あいつの子孫か」

「……きみは、一体」

「まあ、信じなくてもいいよ。あいつの子孫なら教えてやる」


 トウマは、自分が『斬神』であり、二千年前に『寿命』や『老化』という概念を斬り眠りにつき、つい最近になって目覚めたことを教えた。

 男性は驚きつつも、トウマを見ている。


「信じなくていいよ。でも……あんたの横顔、『愛神』……セイレンスそっくりだった。懐かしいな……二十代のガキのくせに、いろんな人に愛されて、でも、泣き虫でいっつも悲しんでて……会うたびにボロボロだったけど、あいつの中には決して折れない、俺でも斬れない『芯』があった。当時はジジイだったけど、あの芯は月神よりも硬いって思ってたっけ」

「…………」


 男性は、トウマの前に移動し、その手を取った。


「信じます。『斬神』……あなたが、セイレンス様の想い人だったという方に違いないと」

「想い人? いやいやいやいや、俺、あいつにあったの六十歳だったぞ。鍛えていたけど、けっこうなジジイだったし」

「……セイレンス様は、生涯独身だったと伝えられています。私は、セイレンス様の妹君の子孫です」

「ってことは……王様?」

「いえ。ムスタング王族ではありますが、国王は私の兄……申し遅れました」


 男性は胸に手を当て、にっこりとほほ笑んだ。


「私は、セブンスマギア魔導学園、学園長。ルドルフと申します」

「が、学園長……?」

「はい。あなたは、従者枠として来られたのですね。少し、私とお話しませんか」

「いいよ。あーでも、アシェに怒られるかな……」

「構いません。私から言っておきますので。っと……このあと、全校集会がありましてね。よければ見学しませんか?」

「おお、なんか面白そう。って……なあ、本当に俺のこと信じてるのか?」

「もちろんです。『斬神』……まさか、今の世で会えるとは」


 こうして、トウマは学園長ルドルフと共に、全校集会が開かれる大聖堂へ向かうのだった。

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