七陽月下『良夜竜』ハルベルトと『枢機卿』シェルバ③
アシェ、ハスター、マールの三人は、『枢機卿』シェルバに戦いを挑んでいた。
「アタシが援護!! ハスター、マールで接近戦!! いいよね!!」
「ええ!!」
「任せな!!」
最初に飛び出したのはハスター。
槍型マギア『グリフォン』を手に、風を纏って飛ぶ。
空を飛ぶのではなく、地を滑るようにシェルバに接近。風の補助を受けた一撃必殺の突きを放つ。
「『ゲイルダート』!!」
ボッ!! と風を纏った高速の突き。
だが、シェルバは人差し指だけでその突きを止めた。
「ッ!?」
「遅いですね──」
人差し指に魔力を集中させ、槍の軌道を見切り、槍の先端を指で押さえたのだ。
だが、背後にはすでにマールが回り込んでいた。
『水球』で自身の位置を錯覚させ、死角に回り込んだのだ。
そして、アシェは『イフリート・ノヴァブラスター』を狙撃モードに変え、アシェの攻撃に合わせ狙撃……二十メートルほど離れた位置なら、照準器のアシストで確実に命中させられる。
「──チッ」
シェルバは、マールに気付いていた。
そのまま魔力放出による『魔弾』で脳天を撃ち抜いてやろうと思った……が、トウマから受けたダメージに顔をしかめ、魔弾を精製できない。
仕方なく、腕に魔力を集め双剣を受ける……が、アシェの放った弾丸が肩に命中し血が出た。
そして、双剣の一撃が腕に食い込み、血が出る。
「ぐぎぃぃぃっ!! この、ガキども……ッ!!」
ボッ!! っと魔力が噴き出し、マールとハスターが吹き飛ばされる。
ハスターは、苦し紛れのように笑った。
「は、ははっ……はははっ!! た、戦えてるよ、まさか、『枢機卿』相手に」
「トウマの与えた傷がなかったら、アタシらなんて速攻死んでるけどね」
「ええ。でも、倒すには押すしかありません!! ハスターさん!!」
「わかってるよ!!」
マールは大量の『水球』を生み出し、ハスターは風を纏い地を滑る。
シェルバは呼吸を整え、自分の周りに指先程の『光』を集めた。
「「……?」」
「なに、あれ」
接近するハスター、マール。
アシェは目を見開いた。疑問は一瞬、だがすぐに気付いた。
「──ハスター、マール!! それヤバイ!!」
「「えっ」」
「防御!!」
アシェは『イフリート・ノヴァブラスター』を盾に、マールは水球を集めて壁を作り、ハスターは槍を回転させ防御態勢を取った。
だが、シェルバは言う。
「遅い」
『光』が、放たれた。
指先ほどの光は、魔力を硬化させた物質だ。ただ純粋に魔力を固め、指先ほどの大きさで固定……アシェにはそれが『弾丸』に見えた。
そして、一斉に放つ。
それだけで、アシェたちにダメージを与えた。
「……ぅ、ぐ」
ハスターは、防御があっさり突破され、右足と右腕に二発の『光弾』を受けた。
「ぅ……」
マールは、双剣でかろうじて防御できたが、一撃が右足を貫通、その場にしゃがみ込む。
「ハスター!! マール!!」
アシェは、距離が離れていたので直撃こそ避けたが、両腕に光弾が掠り血が出ていた。
一瞬で、三人はダメージを受けた。
シェルバは、ゲホゲホとむせて血を吐き出す……シェルバにとっても、ダメージを受けた状態でこれほどの攻撃を放つのはかなりのリスクだったようだ。
ハスター、マールは身体を起こす。
「……ハスターさん、いけますか?」
「ああ……メチャクチャ、痛いけどね」
二人は立ち上がる。
そして、アシェもイフリートを構えて言う。
「……やるしか、ない」
アシェは、『切札』を使う覚悟を決める。
だが、その『切札』を使うと、イフリートは使用不可能になる。マール、ハスターが傷付いている以上、勝利が確実に遠くなる。
すると、風を操作し、ハスターとマールがアシェの近くに来た。
「アシェ……手、あるのかい?」
「ある。アタシの切札……イフリートの、最終奥義」
「それは、すぐに使えますの?」
「……ちょっとだけ時間欲しい。いける?」
ハスター、マールは顔を見合わせ、互いに頷く。
「やってやるさ、なあ、マール」
「ええ……ふふ、なんだか燃えてきましたわ」
二人は負傷を感じさせない動きで前を向き、シェルバへ向かっていく。
格上……それでも、負けるわけにはいかない。
アシェは頷き、イフリートを構えた。
「イフリート、変形」
イフリートのギミックを解放させる。
外装を開き、そこにヴォルカヌス、ウェスタを変形させ組み込んでいく。
イフリート・ノヴァブラスターと、ヴォルカヌス&ウェスタ。
二つのマギアを一つにし、巨大な『大砲』を作り出した。
三つのコアを連結させ、アシェの全魔力を注ぎ込むことで、イグニアス公爵家を関する『赤炎帝弾』を作り、発射する。
「『イフリート・プロメテウスノヴァ』!! 発射準備……!!」
照準器が変形し巨大化。レンズも大きくなり、照準も大きくなる。
魔力を込めると、マギアが赤く発光し、発射準備が始まる。
マギア内で『赤炎帝弾』が精製される。
「くっそ……アタシ、なんでこんな、遅い……!!」
マギアのアシストがあっても、弾丸精製は遅い。
今、目の前で、マールとハスターが戦っている。
「おおおおおおお!!」
風の槍を振り、踊るように戦うハスター。
「はああああああ!!」
マールも、水球を操作しながらシェルバに肉薄する。
シェルバは、ダメージで苦痛の表情を浮かべながらも、二人の攻撃を回避し、反撃をしていた。
そして、シェルバの魔弾がマールの双剣を弾き飛ばす。
「死ねぇ!!」
「マール!!」
だが、ハスターが槍を投げ、マールに向いた手に突き刺さった。
「うぎぃ!?」
「ハハッ!! 槍ってのは、本来は投げる武器なのさ!!」
「貴様ぁ……!!」
発射準備、完了。
アシェはイフリートを構え、シェルバに向ける。
照準を合わせ、引金に指を掛ける。
マール、ハスターが全力で回避。
シェルバはようやく気付いた。
「『イグニアス・ティタノマキア』!!」
深紅ではない、紅玉の輝きが放たれた。
超高熱の弾丸は、極太のレーザーのように放たれ、シェルバを飲み込む。
「グギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
魔法障壁を展開したが一瞬で溶けた。
そして、シェルバに直撃……一瞬で燃え、そのままドロドロに溶けて消滅。
形も残らず、『枢機卿』シェルバは消滅した。
「ぅ……」
イフリートから蒸気が出た。
三つの魔石は砕け、本体も一部が溶解……アシェの両手は酷い火傷を負っていた。
マール、ハスターが近づき、マールは慌てて低温の水球を作り、アシェの両手を包み込む。
「う、っぐぅぅぅぅぅ……!!」
「大丈夫ですか!? ひどい火傷……」
「まあ、しょうがないよ……でも、これでアタシらの勝利、だね」
「……なんて一撃だ。『枢機卿』が燃えるんじゃなくて、溶けたぞ」
「切札だからね。ふぅぅ……気持ちいい。ところで、アンタら怪我は」
「「……」」
今、思い出したのか、ハスターとマールはその場に崩れ落ちた。
そして、アシェも崩れ落ち……三人は顔を見合わせ笑った。
「アハハ!! 勝った……アタシら、勝った」
「ええ……痛いですわ。それに、疲れましたわ」
「はは……なあ、オレら、かなりいい働きしたよな。アシェ……もしかしたら、キミとの婚約も、認められたりして」
「悪いけど、アタシは嫌。友達としてなら、これからも付き合っていいけどね」
「はは……まあ、今は……怪我、なんとかしたいね」
「同感ですわ……」
三人は、クライブが派遣したマギナイツが来るまで、一歩も動くことができなかった。