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始まる戦い

 トウマたちが王都に戻ってから三日後。

 前線砦では、完全装備をしたヴィンセントが、貴族当主たちに命令を出していた。


「最前線にいるヴァレッド侯爵に、決して三次防衛ラインまで抜かれるなと報告しておけ!! 敵は大司教クラス、魔法による攻撃に気を付けろ!! 今のマギアシールドでは、第四位階魔法までしか防ぐことはできん!!」


 ヴィンセントは支持を出す。

 片耳に、耳あてのような金属を付けており、口に向かって棒が伸びている。

 通信用マギアにより、防衛線の責任者である侯爵たちに指示を出しているのだ。

 そして、イグニアス公爵家側近貴族、ヒート侯爵家当主ヴォイドに言う。


「ヴォイド。これより私は第一次防衛ラインに向かい、大司教を迎撃する。そのまま、七陽月下が出たら戦闘に入る……この場の指揮は全て任せる」

「し、しかし……閣下自らが」

「そういう状況ではない。七陽月下が動けば、私も動かざるを得ない。それに……後継者はいる」


 ヴィンセントは、クライブを思いだす。

 先日届いた手紙には、王都の防衛を最強の防衛布陣である『ファランクス』に移行したようだ。クライブに付けた側近から『まるで閣下がその場にいるようでした』とも報告があった。

 

「……この『フェニックス』を直接託せないのは悔やまれるが、な」

「閣下……」

「ヴォイド。指揮を任せるぞ」

「……はっ!!」


 ヴォイドは、命を懸けて指揮をすることを決意した。

 最前線……すでに、戦闘は始まっていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 火の国ムスタング、王都。

 クライブは、王都の外周を囲む塀の上を歩いていた。

 背中には巨大な狙撃専用マギア『スルト』があり、すでに戦闘準備を終えている。


「…………」


 空を見上げると、変わらず巨大な『月』が見えた。

 そして、まばらに散る白い雲、柔らかな風、心地よい日差し……その日を過ごす天気としては最高の日だった。

 が、クライブは緊張する。


「……父上」


 最前線では、すでに戦いが始まっている。

 通信マギアが届かない距離にいる。だが、いくつもの中継地点を経由し、王都のクライブに最前線での戦いが始まったことは伝わっていた。

 王都はすでに、『ファランクス』の陣形で待機中。

 攻撃ではなく防御の陣形。マギナイツ、マギソルジャーの五割がシールド用マギアを手にしたことで、強固な防衛となった陣形だ。

 すると、ミュウが来た。


「お兄様、一度本部へ」

「……ああ」

「ここは私にお任せください」


 ミュウは、一撃重視の狙撃銃マギア『ブリジット』を手に言う。

 気合が入っているのは見てわかった。


「……アシェはどうしている?」

「今朝、早くから出て行きました。全く……自己責任とはいえ、アマデトワール公爵家の令嬢とシャルティーエ公爵家の令息を連れ歩くなんて」

「ははは。まあ、大丈夫だろう。それに……あの少年もいる」

「……トウマ、だったかしら。あの子、何者なのでしょうか」

「二千年前の人間、と言ってたが……」

「そんなウソ、信じると思います? それに、マギアでもない、鉄の剣しか持っていない……全く理解できません」

「……だが、マールーシェ嬢が言うには、彼が水の国マティルダ解放の功労者らしいな」

「疑わしい……とは言えませんわね。アマデトワール公爵家が言うのですから。でも……やっぱり信じられませんわ」

「ははは。さて、本部に……」


 そう、クライブが言った瞬間だった。

 ゾッとするような冷たい何かが、上空から感じられた。

 クライブ、ミュウが上空を見て言う。


「……クソ、来たか!!」


 ◇◇◇◇◇◇


 一方、トウマたち五人は、城下町にある金物職人のグラファイトの元にいた。


「いやー、グラファイトの包丁やっぱすげえな!! ほら見ろよ、こんなに硬いクルミの皮が……スパッと!!」

「「「…………」」」


 トウマは、まな板の上に置いたクルミを、包丁をストンと置いただけで綺麗に切断した。

 それを見て、アシェたち三人はジト目で見る。


「……あのさ。こんなことしてる場合じゃないんだけど」

「いやでも、グラファイトがまだ避難してないから、声かけに来たんだろ」

「そうだけど……あの、グラファイトさん」


 アシェが言うと、グラファイトは言う。


「すまないね。うちにも地下室はあるから避難所には行かなくていいさ。それに、大きい仕事の依頼が入ってね……どうしても、期日までに仕上げたいんだ」


 その仕事が、包丁だった。 

 借金取りが手を回していたせいで、腕利きの金物職人であるグラファイトの元に依頼が入らなかったことがわかった。どうやら、娘のマヤノを借金を理由に奪い取ることが目的だったようだが、トウマたちのおかげでそれもなくなった。

 借金取りが消えたおかげで、正式な依頼が入って来たところで、王都の住人たちに避難勧告が出たのだ。だがグラファイトは避難所に行かず、こうして仕事をしている。


「マヤノは地下にいるし、ボクも仕事を終えたら地下に避難するよ。すまないね……わざわざ来てもらって」

「気にすんなって。なあアシェ、もう大丈夫だろ?」

「……そうね。地下も見たけど、強度も高いし、安全性も高いから大丈夫ね」

「マヤノちゃんも、お昼寝していましたわ」

「もう用事はないだろ? オレたちも行こうぜ」


 マール、ハスターも言う。

 用事は終わったので、トウマたちは店を出ようとした時だった。


「あの、トウマくん」

「ん?」

「その……王都は、戦場になるのかい?」

「わからん。でもまあ……できるだけ被害ないように戦うよ」

「そうか……一つ、お願いしてもいいかな」

「なんだ?」

「……墓地にある、我が家の墓を……できれば、傷がつかないように守ってほしい。あの墓は、先祖が遺した大事な物だから」

「……」


 晩年のトウマを模した『斬神』の木像があった墓をトウマは思い出す。

 そして、グラファイトの肩に手を乗せて微笑んだ。


「任せとけって。コンゴウザンの作った木彫り、俺も好きだからさ」

「……ありがとう」

「おう。じゃあ──……」


 と、トウマがピクリと反応し、バッと振り返った。

 驚くアシェ、ハスター、マール。

 トウマはニヤリと笑った。


「来たか」


 ◇◇◇◇◇◇


 王都の上空、五千メートル付近。

 雲よりも高い位置に、全長五十メートルを超える巨大な『蛇』のようなドラゴンが、まるで雲を泳ぐように飛んでいた。

 『良夜竜』ハルベルト。そして、その頭の上には二人の女。

 一人は、ニコニコとしたシスター服の女、『枢機卿』シェルバ。

 そしてもう一人は、刀を差した白い和服の女……『天照十二月』の一人、『卯月』のビャクレン。


「……人間の国か。月から見るのと、こうして間近で見るのは随分と違う」


 ビャクレンが言うと、シェルバが恐る恐る言う。


「あの……ビャクレン様。本当に戦うおつもりですか?」

「ん。私も久しぶりに運動しないとね」


 白い女は、スッと目を細めた。

 月詠教の最高戦力である『天照十二月』の一人……その権限は七陽月下よりも上。

 枢機卿であるシェルバが逆らえるはずもない。


「どうも、面白い敵がいるみたい……シェルバ。その子は私がやるから、手出し無用ね」

「わかりました……えっ」


 次の瞬間、ビャクレンが飛び降りた。

 上空五千メートル。さすがに高すぎる。

 だが、ビャクレンは飛び降りた。ギョッとするシェルバ。


「さあ!! 戦いの始まりよ!!」


 ビャクレンは笑い、急降下していった。


 ◇◇◇◇◇◇


 クライブは確認した。

 雲を突き抜け、何かが下降してくる。

 それは、巨大な『蛇』……見間違えようもない、七陽月下『良夜竜』ハルベルトだ。

 クライブは、通信マギアを口に向けて言う。


「『ファランクス』起動!! 敵は七陽月下『良夜竜』ハルベルト!! 全軍、王都の防衛開始!!」


 ファランクス展開。

 シールド型マギア『アイギス』を個々に展開する。

 装備としては腕に装着する丸盾であるが、魔力を込めると魔力が固形化し、防御することができる。

 このマギアの真の使い方の一つ……それは『共鳴』である。

 

「展開!!」「展開!!」「展開!!」

「展開!!」「展開!!」「展開!!」


 マギソルジャー、マギナイツが一斉に『アイギス』を展開し掲げる。

 すると、防御フィールド同士が干渉し、一つの巨大なシールドへと変わる。

 リミットをカットし、シールド同士を共鳴させ巨大なシールドを作り、王都全体を包み守る。

 これが、防御戦術『ファランクス』……火の国ムスタング、最強の守り。

 

「まあ……人間もなかなか、かな」


 ビャクレンは急降下しながら、小太刀を抜く。


「『杜若(カキツバタ)』」


 真っ白な刃が輝くと同時に、シールドの一部が切り取られた。

 そしてビャクレンが王都へ侵入する……が。


「──来たね」

「ああ」


 トウマがいた。

 トウマは、ビャクレンの落下位置を予測し、アシェたちを置いて走り跳躍、上空でビャクレンの小太刀を刀で受けとめた。

 互いの力量を察知する。

 白髪の女、黒髪の男、綺麗な青い目、深紅の赤い目、小太刀二刀、刀と脇差、白い着物、黒い和装……どこまでも対比な二人。


「月詠教天照十二月所属、『卯月』ビャクレンよ」

「トウマ・ハバキリ。月を斬る『斬神』だ」


 互いに離れ着地。

 すると、上空からハルベルトが、そしてハルベルトからシェルバが飛び降りた。

 

「刀神絶技、空の章『犬鷲』!!」


 複雑な軌道を描き、斬撃が飛ぶ。


「なっ!? っぐぁぁぁぁ!?」

『ギシャァァァァァ!!』


 それはビャクレンを無視し、上空から落下中のシェルバ、そしてハルベルトを斬り裂いた。

 だが、致命傷ではない。

 ハルベルトは身体を裂かれ、狂乱し飛んで行った。そしてシェルバは身体を裂かれつつも魔法で減速し着地……ビャクレンは言う。


「大丈夫?」

「ぐ、う……大丈夫です。くっ……まさか、最初に私を狙うなんて」

「……ああ、そういうことね」


 ビャクレンは察した。

 そして、遅れてアシェ、ハスター、マールがやって来た。


「トウマ!! アンタ一人で」

「は、速すぎる……くっそ、風のシャルティーエ公爵家が負けるなんてね」

「ふう、やっと追いつきましたわ」


 三人が到着するなり、トウマは叫ぶ。


「アシェ、マール、ハスター!!」

「「「っ!!」」」

 

 そして、刀をビャクレン……ではなく、シェルバに突きつけた。


「あっちは任せる。ちょっとダメージ与えといたから、お前らで勝てる!! たぶん!!」

「「「え」」」

「え」

「は?」


 アシェたちだけでなく、ビャクレン、シェルバも驚いていた。


「俺は、あっちの白い女を倒す!! っはっはは!! やっべえな、メチャクチャ面白そうだぜ!! なあ、ビャクレン!!」

「…………っぷ、あっはははははは!! うん、そうだね、面白いよ!!」


 ビャクレンも笑った。そして、涙を拭ってシェルバに言う。


「シェルバ。あっちは任せるね」

「……え」

「たぶん。万全のキミじゃあの三人が負ける。だからダメージ与えて互角にしたんだと思う。すっごく面白いねあいつ……私もワクワクしてきたかも」

「……」


 シェルバの顔に、青筋が浮かんだ。

 糸目が見開き、瞳孔が開く。

 人間が、月の民であり『枢機卿』である自分を、コケにした。

 そのことに、シェルバはブチ切れた。


「お? 傷を負ったのはハルベルトもだね。王都の防衛をしてる人間たちといい勝負かも……ふふふ、シェルバ、気合い入れないと……」

「…………」

「ここも、解放されちゃうよ?」

「……ご安心を。まずはそこのガキどもを殺し、王都をブチ壊します」

「うんうん。じゃあ、私はトウマに集中するね。対峙してわかったけど、あれは私じゃないと無理」


 こうして、戦いが始まる。

 トウマ対ビャクレン。

 アシェ、マール、ハスター対『枢機卿』シェルバ。

 王都防衛部隊対『良夜竜』ハルベルト。


 火の国ムスタング、解放のための最後の戦いが始まった。

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― 新着の感想 ―
おはようございます。 ビャクレン、多分トウマと同類ですねこれは…。敵味方でなければ、悟○とベジ○タみたいな関係になれてたかも…。
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