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再び王都

 馬車を急がせたおかげで、半日ほどで王都に戻って来た。

 そして、アシェは屋敷の研究棟へ。ミュウは「これからお兄様と今後についての話し合いがある。あなたは屋敷で大人しくしてなさい」と、屋敷前で降ろされたのだ。

 もちろん、マール、ハスター、トウマもいる。

 アシェの研究棟に入るなり、トウマは言う。


「たぶん、強いやつが来る」

「「「え……」」」


 トウマは、ウズウズしているのか顔がずっとにやけていた。

 刀をベルトから抜き、自分で抱えるようにしてソファに座る。


「帰り道、殺気を感じた。かなりの強者だ……間違いなく、あの蛇みたいなドラゴン以上」

「ま、待ってよ。七陽月下より強いなんて、そんなのいるわけ……って、待って」


 アシェは、マールとハスターを見た。

 二人も何かを思いだしたようだ。ハスターが言う。


「そういえば、授業で習ったよな……地上の半分を支配しているのは、月詠教の地上侵攻担当である『七陽月下』で、月の本国には三聖女の護衛がいるって……」

「確認された事実ではありませんけど……過去、七陽月下と戦ったマギナイツや歴代当主たちが、直接聞いた話だと授業ではやりましたわ」

「なんだっけ。確か……『天照十二月アマテラスじゅうにつき』ね。月神、月光の三聖女を除けば月詠教最強といえる十三人の月の民……」


 三人の話を聞き、トウマはずっとワクワクしていた。


「つまり、そいつの殺気か……くっくっく。俺のところ来るかも」

「あのね……つまり、七陽月下よりヤバい敵ってことじゃん!!」

「お、王都はどうなるのかしら……」

「うー……オレ、やっぱ後悔してきたぜ。ん? そういや……なあアシェ、マール。新学期っていつからだ?」

「え? そんな場合じゃないけど……あと十五日ね」

「もしかしたら、数日以内に『あいつら』来るんじゃないか? 王都の危機なら、手ぇ貸してくれるかもしれない!!」

「あいつら?」


 当然、トウマは知らない。

 すると、アシェが教えてくれた。


「七国から来る、七大公爵家の同期ですわ」

「同期ってことは、同い年?」

「ええ。私、アシェ、ハスターは『水』と『火』と『風』……そして残り、『地』と『光』と『闇』と『雷』の四属性を司る公爵家の同期ですわ。これまでは、年代の違いから同じ学年で学ぶことはなかったんですけど、私たちの世代は偶然、同い年で集まったんです」

「へー、面白いな」

「面白くないわよ……はあ」


 アシェはため息を吐く。マール、ハスターは顔を見合わせ方を竦めた。


「アタシは他の六人と違って落ちこぼれだったからね。クソ生意気な連中と顔合わせするって考えただけで嫌だし、カトライア……じゃなくて、他の四人に王都の危機だから手ぇ貸してなんて、死んでも言いたくないわ」

「アシェ……そんな場合じゃ」

「アタシはとにかく嫌。それより、これからどうするのよ」


 アシェは話を打ち切る。

 トウマはピンと指を立てて言った。


「簡単だ。敵が来たら斬るだけ」

「……アンタってホント馬鹿ね。そうね……お姉様、お兄様は王都の警戒を高めてると思う。国境付近ではお父様が防衛、迎撃に本腰入れるだろうし……」

「現状、待つしかないんじゃないか?」


 ハスターは腕組みをして言うと、マールも頷いた。


「そうですわね。というか……ヴィンセント閣下の迎撃は間違っていないと思いますけど……私、もし手薄になった王都が襲われると考えると」

「気持ちはわかる。でも、月詠教との攻防が始まって以来、七国で王都が襲われたことはなかったはずだぜ?」

「そうね……トウマの勘だけでお兄様やお姉様に『もっと王都の防衛を』なんて言っても無駄。そもそも、お兄様やお姉様がアタシの話を聞くわけないし」

「なあ、いいか?」


 トウマは、不思議に思った。


「王都が襲われたことない、って話だけどさ……それ、今までは襲われなかったってことだろ? あのデカい蛇みたいなドラゴン、けっこうなジャンプ力あるし、空も飛べるし……あれ一匹で大司教とか敵じゃないくらい強いんだろ? 今の王都なら、単騎で襲ってきても勝てるんじゃないか?」

「「「…………」」」


 トウマの『予想』は、最悪な形で的を得ていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 アシェは、トウマたち三人を連れて王城へ。

 門兵を睨んで黙らせると、まるで自分の家のように城内を進み、作戦立案室のドアを開けた。


「お兄様、お話があります!!」

「……アシェ? なんだ、お前は屋敷で待機と言ったはずだ」

「はい。ですが、ご提案が」

「必要ない。これから王都を守護する貴族たちと、防衛線について会議をする。そもそも、ノックもせずに無関係のお前が」

「お兄様!!」

「いい加減にしなさい、アシェ!!」

「……ミュウお姉様」


 ミュウは、アシェに近づいて顔を寄せて言う。


「いい? 戦うことは私たちに任せればいいの。あなたは屋敷で大人しく」

「私も!! 貴族です!! マギナイツとして戦いに参加する資格はあります!! イグニアス公爵家の娘として、戦うことをお許しください!!」

「……っ」


 ミュウは、アシェの威圧に負けて距離を取る。

 すると、クライブはミュウの肩に手を置き、アシェの頭も撫でた。


「お、お兄様……?」

「……お前、そんな大きな声、出るんだな」

「う……」


 クライブはクスっと微笑み、ミュウに言う。


「ミュウ。この子はもう大丈夫だ。よし……話を聞こう」

「お兄様……」

「お兄様……ありがとうございます!!」


 アシェは嬉しそうにしていたが、すぐにキッと引き締める。

 そして、司令部にある机に向かい話を始めた。


「お兄様、森で対峙したドラゴンですが……」

「ああ。恐らく、父上が戦うことになるだろう。向こう側の最大戦力……油断はできない」

「私も、そう考えました。しかし……懸念があります」

「なに?」

「もし、あのドラゴンが王都に来たらという懸念です」

「お待ちを。アシュタロッテ様、歴史を顧みても、月詠教が王都を攻めたことは一度もありません。イグニアス公爵家の誇る『銃』と『火』の力は、いかなる」

「銃にも射程距離があります。お父様でも、最大で四千メートルほどの射程が限界。ですが、ドラゴンの飛行能力がそれを上回ったら? 上空の雲に隠れ、王都に襲撃を仕掛けることも不可能じゃない」

「し、しかし」

「今、月詠教は昔と状況が違います。私たち人間も、恐らく月詠教の月の民も……この歴史の中で、七陽月下が討伐され、水の国マティルダが解放されることなど考えもしなかったはずです」


 二千年の膠着状態……恐らくかなりの人物が、『永遠にこの状態を維持する』と考えたはずだ。現に、水の国マティルダでは解放された支配領域をどうするか全く考えていない。

 

「可能性がどれだけあるかわかりません。ですがかなりの確率で、王都の襲撃があると考えます。水の国マティルダを解放された復讐に、火の国ムスタングを全て支配するという考えは、決しておかしくありません!!」

「…………」

「お兄様。全マギナイツに第一種戦闘配備、国民たちの避難誘導を。恐らく、時間はあまりありません。何もなければそれでいい。でも……何もしなければ、最悪の事態になる可能性もあります!!」

「…………」


 クライブは、目を閉じて考え……ゆっくりと開く。

 トウマは思わず言った。


「おお。ははっ、なんか今の目付き、ヴィンセントにそっくりだな」


 クライブはポカンとし、他の連中は唖然とした……が、クライブは笑う。


「ははは!! 嬉しいことを言う」

「お、お兄様、申し訳ございません!! この馬鹿!! いきなり変なこと言うんじゃないわよ!!」

「いや、思ったこと言っただけで」

「空気読め!! 全くアンタってやつは」


 アシェに怒鳴られ、トウマは数歩下がる。

 クライブは、すぐに表情を切り替えて言う。


「全マギナイツ。第一種戦闘配備、マギアリミットを解除し、王国守護戦術第一種『ファランクス』にて待機せよ。マギソルジャーは国民の避難誘導。王都区画にある避難所へ誘導、国民に不安を与えぬよう注意せよ」

「く、クライブ様、まさか」

「責任は私が執る。陛下への報告も後でいい。全員、すぐに動け!!」


 ヴィンセントを彷彿とさせる勢いに、貴族当主たちは従った。

 イグニアス公爵家の後継者……それにふさわしい貫禄があった。

 ミュウは、アシェを見ていたが何も言わず、そのまま部屋を出て行った。

 クライブはアシェに言う。


「アシェ。ファランクスはわかるな?」

「守護戦術……守りの陣形ですね」

「そうだ。これより王国内は守りに入る。お前はまだ軍属ではない、どうする?」


 アシェは、トウマ、ハスター、マールを見た。

 三人とも戦意は十分。むしろ、ウズウズしているように見える。


「私は、彼らと一緒に」

「よし。では、お前を特例の『遊撃隊』とする。隊長はお前だ。いいか、自由に動いていいが、決して無理をするな……月の民が襲ってきても、無理に戦おうとしなくていい」

「はい!!」


 そして、クライブはハスター、マールに言う。


「きみたちには関係のない戦いになるが……」

「関係はありますよ。今、この場にいる以上、危険だから、他国の貴族だから関係ないと言えば臆病風に吹かれたと言われる……風を司るシャルティーエ公爵家では、臆病風なんて吹きませんからね。それに、今ここでイグニアス公爵家に恩を売れば……なんてね」


 ハスターはアシェを見てウインクする。アシェはベーっと舌を見せた。


「私も同じですわ。アシェには水の国マティルダでともに戦った戦友であり恩人。我が双剣は、恩人に報いるために振るうべき刃です。クライブ様、どうかお気になさらず」


 アシェは頬を染める……照れているようだ。

 そして、トウマは言う。


「クライブ。恐らくだけど、ドラゴン以上の相手が来る。そいつは俺が倒すから、ドラゴンは任せるぞ」

「……え」

「へへへ。ワクワクしてきた!!」


 トウマは、この中の誰よりもワクワクしているのだった。

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