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ヴィンセントの考え

 森の奥へ進む一行。

 道中、魔獣も多く出た。だがトウマは手を出さず、同行しているマギナイツ、見習い騎士、アシェとマールが協力し倒していく。

 アシェは、オークの脳天に弾丸を打ち込み、ため息を吐いた。


「オーク、なんかいっぱい出るわね……支配領域が近いとはいえ、こっちは人間側の領域なのに」

「『オーク』なだけに、『おおくでる』ってか。アッハッハッハ」

「次、ふざけたこと言ったら脳天にブチ込むわよ」

「す、すまん」


 銃口を頬にグリグリ当てられ、トウマは素直に謝罪した。

 ハスターは、ヴィンセントに言う。


「閣下。想定より魔獣が多いですね」

「……うむ。恐らく、支配領域から逃げて来たのは……」


 何やら会話をしている。

 トウマはそれを聞かず、首をコキコキ鳴らし、腕をぶんぶん振る。


「さーて、俺もそろそろやろっかな。アシェ、いいか?」

「それ、アタシが言ったところで関係ないでしょ」

「まあな。それに、かなり連戦続きで、お前たちも騎士もみんな疲れてるだろ?」

「……む」


 すでに、半日経過している。

 最初のアシェの戦いから、ほぼひっきりなしに魔獣が襲って来た。

 すでに百以上の魔獣を討伐している。

 半日経過していることもあり、ヴィンセントは決めた。


「目的の魔獣が潜伏しているところまであと一時間ほどだ。皆の者、それまで耐えてくれ」

「お父様、まさか」


 ミュウが言うと、ヴィンセントは頷く。


「討伐対象は、私が倒す」

「あ、俺も俺も」


 そこに、トウマが割り込んだ。

 普通、七大貴族の一柱であるイグニアス公爵家の当主が話している間に割り込むなどあり得ない。だが、それを普通でするのもトウマだった。

 ヴィンセントはトウマをチラッと見て言う。


「いいだろう。ガルフォスを降した実力、見せてもらおうか」

「おう。俺前衛、お前後衛な」


 お前。

 その場にいた者は全員愕然とした。

 二十歳にも満たない、よくわからない、マギアも持っていない少年が、レガリアの所持者であり七大貴族の一つイグニアス公爵家の当主を、お前。

 アシェは頭を抱え、マールは頬をピクピク動かす。

 すると、我慢できなくなったミュウが叫んだ。


「あなた!! 先ほどから、あまりに無礼!! どこの誰か知らないけど、平民風情がお父様に『お前』……『お前』ですって!?」

「俺のが年上だぞ」

「だまらっしゃい!! アシェ!! この子はあなたが連れて来た子!?」

「は、はい……申し訳ございません、お姉様」


 こればかりは誠心誠意謝罪するアシェ。トウマを見て青筋を浮かべていた。

 だが、ヴィンセントが言う。


「構わん。というか、黙れ」

「「っ!!」」

「ミュルグレイス。敵地で怒鳴るなど何事だ。お前が怒りを小僧に向けている間、潜伏している魔獣が毒を飛ばさんとも限らんのだぞ」

「あ……も、申し訳ございません」

「それと貴様……貴族に対し、あまりにも無礼が過ぎる。ルールを守ることを覚えるんだな」

「ルールか……まあ確かに。歴史の積み重ねがあって今があるんだもんな。今のルールを否定して自分のやりたいようにやるのは、ただの無礼者だ。わかった。ごめん!!」


 ペコッと頭を下げるトウマ。

 すると、ハスターも前に出た。


「話が終わったところで、行きましょうか。閣下……オレも前に出ていいでしょうか」

「……構わん」

「私も前に出ます。お父様、お守りいたしますわ」

「……いいだろう」

「なあ、いちいちタメて返事しなくてもよくね?」


 話が終わり、ヴィンセントが歩き出した。

 そして、一行は再び森を進む。

 前衛にトウマ、ハスター、そしてその後ろにヴィンセント、ミュウ。さらに十メートルほど離れてアシェとマールの部隊が続く。

 ふと、前に出たハスターが言う。


「閣下。アシェの実力をお認めになった……ということでしょうか」

「……認めざるを得まい。お前は違うのか?」

「いやー……まあ」


 ヴィンセントは、アシェが作った『魔導器』を見て、驚きしかなかった。

 変形機構? 発射機構の切り替え? 魔力を銃内部で固形化? 連射機構? ……次々と出てくる『新型』に、驚きを隠すので精一杯だった。

 マギア作りの才能がある、とは思っていた。

 だが……アシェはイグニアス公爵家の娘なのだ。戦い、力を示すことが、配下に加わっている下級貴族へ見せる姿なのだ。

 

「……」


 アシュタロッテ・イグニアス。

 魔力量は家族の誰よりも多い。イグニアス公爵家の歴代十位に入る保有量だ。

 だが、魔力操作が得意ではない。

 イグニアス公爵家の必須術式である『弾丸精製』に時間がかかりすぎる。

 それだけじゃない。アシェは決定的に『狙いを付ける』のが下手……そもそも、才能がなかった。

 だが、それらのハンデをものともせず、全く必要のないマギア開発の才能で埋めた。

 

「…………」


 そして今、アシェは全く新しい可能性を見せた。

 近接連射攻撃、中距離砲撃。

 もし、アシェのマギアを量産することができれば、魔力を送るだけで弾丸を精製することができるのなら……イグニアス公爵家、いや火の国ムスタングの魔導騎士のレベルは、他の七国を圧倒する。

 ハスターとの婚約を考えていたが見直し、マギア開発を主とするフィアンマ侯爵家へと嫁がせれば。


「…………」


 ダメだと思った。

 アシェは『戦うため』に『自分だけのマギア』を作ったのだ。

 マギアはあくまで道具。才能も自分のためにしか使わない。

 もし、ハスターか、他の婚約者候補の元へ嫁がせ、マギア開発をやらせても……きっと、アシェは望むようなものを生み出せない。

 娘だからこそわかる。アシェはマギナイツに憧れ、戦いたいのだ。

 そして、戦うことを見せてきたのは、自分なのだ。


「…………」


 もう一度思う。  

 アシェはその才能を、自分のためにしか使えないだろう。

 誰かのために強力なマギアを生み出すことはできない。

 自分が戦うために、どうすればいいのか、その時にしかマギア作りの才能は輝かない。

 だったら、好きにさせるべきなのだろうか。


「…………」


 イグニアス公爵家からの解放。

 いや、自由にさせる。

 イグニアス公爵家の名の元で、アシュタロッテという少女が活躍するのを、応援すべきなのか。


「…………」


 姉のミュルグレイスは、魔力量こそ少ないが、その魔力操作は軍を抜いている。

 弾丸こそ精製数は少ないが、一発一発に込める魔力の量が桁違いに多い。

 魔力が少ないからこそ、一発に多く魔力を込め、確実に急所を狙った一撃を放つ。

 戦い方、考えをすでに確立し、いずれ大成するであろう。

 火の国ムスタング、第三王子の婚約者という肩書もあり、将来は安泰でもある。


「…………」


 そして、長男クライブ。

 魔力量、才能共に平凡。だが……誰よりも努力し、自分と遜色ない実力を持つ次期当主。

 クライブが最も秀でているのは戦闘の才能ではない。

 カリスマ、人望……恐れられる自分では持ちえない温かさがある。

 亡くなった妻の持つ優しさ持ち、自分にも他人にも厳しいクライブは、レガリアを受け継ぐ資格はあるし、自分よりも立派にイグニアス公爵家を支えるだろう。


「…………」


 クライブ、ミュルグレイス……そして、アシュタロッテ。

 大事な子供たち。

 アシュタロッテは、ヴィンセントの妻の願いにより、母体が危険だとわかっていて出産をした……させてしまった。

 ヴィンセントは、アシェを殺そうとしたのだ。

 それが負い目となり、顔を合わせ辛いこともある。

 アシェは、自分が母親を殺したと思っている。それがヴィンセントには否定できず、そうじゃないとも言えなかった。


「…………」


 ヴィンセントは、迷う。

 アシェを自分が好きなようにやらせてやる。

 それこそ、アシェを命がけで産んだ妻の願いなのかもしれないと。


「…………」

「なあ、おいおい」


 すると、トウマに背中を叩かれた。

 思考に浸り過ぎた。ヴィンセントはハッとなり前を向く。

 トウマは、ヴィンセントの一歩前に出て言う。


「この先、いるぞ……かなりデカい」


 ヴィンセントは目を閉じ、背負っていた『フェニックス』を手にし言う。


「全員、身を守れ。この先は我々だけで行く」

「よし来た」

「へへ、風が鳴るぜ」

「お父様、援護はお任せください」


 思考を切り替え、ヴィンセントは弾丸を手に進むのだった。

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