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近隣の森に潜む魔獣

 翌日。

 砦の食堂で食事を取り、トウマたちは砦の正面へ集まった。

 ヴィンセントが立ち、両隣には補佐のマギナイツ。そしてアシェの姉であるミュルグレイスことミュウ。

 トウマ、マールは少し離れた位置で、そしてアシェとハスターがヴィンセントの前に並び、他にも数名の新兵、マギナイツが並んでいた。

 ヴィンセントは言う。


「これより、森の調査並びに魔獣討伐を開始する。魔獣の等級はB以上と仮定。月詠教の司教、司祭が潜んでいる可能性も十分ある。皆、気を引き締めろ!!」

「「「「「了解!!」」」」」


 統率された返事だった。アシェ、ハスターも並んで返事をしている。

 あくまで協力者のトウマ、マールは参加していない。

 ちなみに、今日はアシェも含め全員が戦闘用の衣装だった。そして、それぞれが武装マギアを手にし整列。ヴィンセントが先陣を切る。


「では、出発!!」


 こうして、近隣の森の調査が始まった。


 ◇◇◇◇◇◇


 トウマ、マールの二人はさっそくアシェの元へ。

 アシェは先頭、ヴィンセントの近くにいた。


「アシェ、緊張してるかー?」

「うるさいわね。ウズウズしてるに決まってんじゃん」


 アシェは、戦闘用の赤いコートを着ている。

 防刃加工がされた、イグニアス公爵家に連なる者が着ることを許された戦闘服だ。胸にはイグニアス公爵家の紋章である『火』が刻まれており、背中には『イフリート・ノヴァ』を背負い、腰のベルトには二丁の大型拳銃が収まっている。

 赤いツインテールを揺らし、アシェは堂々と歩く……その後ろには、シャルティーエ公爵家の紋章が刻まれた戦闘服を着たハスターが、槍を背中に差し歩いていた。

 アシェはハスターを完全に無視し、ヴィンセントに言う。


「お父様。私の相手ですが」

「準備をしておけ」

「はい……!!」


 アシェは、ヴィンセントが背中に担ぐ大型狙撃銃魔導器(マギア)『フェニックス』を見た。

 イグニアス公爵家の最強、七聖導器(レガリア)の一つを見て、自分の作る魔導器が未だにオモチャに見えてしまう。


(いつか、アタシも……)

「待った」


 と、トウマがヴィンセントの前に出て手を真横に出し止めた。

 ヴィンセントが眉をピクリと動かす……そして。


「アシュタロッテ。戦闘準備」

「え、あ……はい!!」

「アシェ。ここから二十二メートル先にあるデカい木に、でっかいトカゲがひっついてる。見えるか? あそこの木だ。俺が教えるのはそこまで、あとは自分で対応しろ」

「……わかったわ」

「じゃあ頑張れよ」


 トウマは、アシェの肩をポンと叩いて送り出した。

 アシェは腰の大型拳銃魔導器『ヴォルカヌス&ウェスタ』を抜く。


「お父様、今の私を見てください」

「…………」


 アシェは、魔力を込めて身体強化。

 そして、地面を蹴り、トウマが指定した木に一気に近づいた。


「おいおい、狙撃……」


 ハスターが言う。だが、ヴィンセントはすぐ気づいた。

 アシェが木に近づくと、大きなトカゲが確かに引っ付いている。そこを目掛け、拳銃を向けて引金を引いた……すると、弾丸が連続で発射され、トカゲが穴だらけになって落ちる。

 アシェはすぐに止まらず周囲を警戒。すると、木の上にいた蜘蛛の魔獣がアシェめがけて糸を吐きだした。


「気付いてたわ!!」


 アシェは横っ飛びし、イフリート・ノヴァを抜いてスライドを引く。


「『炎散弾(ファイアショット)』!!」

 

 ドバン!! と、単発ではなく弾丸がバラまかれ、蜘蛛が粉々に砕け散った。

 そして、アシェはイフリートを変形させる。

 砲身を折り畳み、銃口を大きくし、いつの間にか近づいていた二足歩行の豚……オークに照準を向けた。


「『炎大砲(ファイヤバズーカ)』!!」


 直径一メートルほどの炎弾が発射され、オークに直撃……そのまま黒焦げになり、真後ろへ倒れた。


「おおお、香ばしい匂い……なあマール、オークって豚だよな?」

「……食べるとか言わないでくださいね。今は絶対に」

「お、おう」


 すると、アシェがさらにイフリートを変形させる。

 砲身を元に戻し、腰のベルトに装備していたアタッチメントを追加。全体的に細くなったイフリートを構え……五十メーターほど先にいた、様子を伺っていたオークの脳天めがけて引金を引いた。 

 弾丸はまっすぐ飛び、オークの脳天を貫通。背後の木に弾丸が刺さった。

 

「……クリア」


 アシェは周囲を警戒しつつヴィンセントの元へ戻る。


「お父様。敵全滅しました」

「……よくやった。アシュタロッテ……そのマギアは」


 アシェは、全く新しい姿となったイフリートを見せる。


「私が制作した『イフリート・ノヴァブラスター』です。形状変化機構を搭載し、近距離で最も威力を発揮する『散弾(ショット)モード』に、中距離で威力を発揮する『大砲(キャノン)モード』、そして遠距離狙撃型の『狙撃(スナイプ)』モードに変形します。状況に応じたスタイルに変えることで、狙撃だけじゃない、全距離での攻撃に対応できます」

「…………」

「そして、この二丁大型拳銃、『ヴォルカヌス&ウェスタ』は、魔力を弾丸に精製することが苦手な私が作った『弾丸精製補助機構』により、魔力を流すとマギマガジンの中に弾丸を精製し、引金を引くとそのまま発射することができます。弾丸を手で精製して、装填し、撃つのではなく、魔力を込めるだけで弾丸を精製し、そのまま攻撃できる機構です」

「…………」

「ま、待ちなさい!!」


 と、アミュが前に出てきた。

 そして、イフリートを指差して言う。


「さっきの狙撃、五十メーターは離れていた。私たちイグニアス公爵家では目の前みたいな距離だけど……狙撃ができないあんたが、偶然当てるには不可能な距離よ!!」

「はい。だから、これを使いました」


 アシェが取り出したのは、細長い筒。

 それに魔力を込めると、赤い光点が映し出された。


「これは……!?」

「名付けて、『照準器(ポインター)』です。これをイフリートにセットして、魔力を流すと……」


 イフリートを狙撃モードにして魔力を流すと、ポインターから光点が出て、近くの木に映し出された。

 アシェが引金を引くと、光点部分に弾丸が命中する。


「最大で四百メートル、光点が届きます。この光点は『熱』を応用したマギアですが、触れても体温以下の温度なので気付かれません。四百メートル……お父様や姉上、兄上にとってはゼロ距離に等しい距離ですが、二十メートル先ですら当てるのに苦労していた私にとっては、画期的なマギアです」

「…………」

「これが、私が作った、私だけのマギアです。イグニアス公爵家の象徴である狙撃だけじゃない、近距離大火力による攻撃、二丁拳銃による連射、散弾による超近距離、狙撃による遠距離攻撃……これが私の戦闘スタイルです。お父様、評価をお願い致します」

「…………」

「お父様。こんなの認められません!! 狙撃、遠距離攻撃はイグニアス公爵家にとっての誇り!! こんな、野蛮な近距離攻撃など……」


 すると、ヴィンセントはミュウを手で制する。


「全て、お前が考えたのか」

「ヒントは、そこのトウマから得ました。狙撃で、遠距離攻撃を誇りとしていた私ですが……トウマの教えで、私は大火力による攻撃が合っていると。狙撃ができないなら、それ以外の道を探せばいいと……そして、私はこのマギアを生み出しました」

「…………」

「お願いいたします。お父様……私を認めてください。狙撃ではない以上、イグニアス公爵家からの除名も覚悟しています。私は、私の道を歩みたい……お願いいたします」

「…………」


 ヴィンセントは、アシェの横を通り歩き出した。


「……好きにしろ」

「え……」

「……大したものだ」

「あ……」


 ヴィンセントは、アシェを認めた。

 兵士たちが後に続き、どこか悔しそうなミュウも通りすぎる。

 そして、トウマとマールがアシェの肩を叩いた。


「やったじゃねぇか!! 何言ってるかサッパリだったけど、あの堅物オヤジを黙らせたぜ!!」

「アシェ、やりましたわね!!」

「~~~っ!! うん!!」


 アシェは今にも泣き出しそうだった……が。

 ハスターが、アシェの前に立って言う。


「おっどろいたぜ。アシェ……お前、本当にすげえ」

「どーも。で……まだ、守る?」

「おう。そこは譲れねえよ。アシェ、オレは守るって決めてるからな」

「あっそ」

「よし。じゃあ……次はオレの番だ。見てろ、アシェ」


 ハスターは、風を纏い静かに笑うのだった。

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