刀が欲しい
トウマ、マール、ルーシェの三人は、城下町を散策していた。
「トウマ、マール、ルーシェ……あっはっは。繋がってんな」
「あはは、そうだねー」
トウマが言うと、ルーシェは笑った。
アシェやマールだったら微妙な顔で終わっていただろう。話しやすいアシェのメイドにトウマは好感を持つ……顔立ちもよく、身体付きもかなりいい。
ジロジロ見ているのに気づいたのか、ルーシェは言う。
「トウマ~? 女の子は、男の『そーいう』視線気付いてるから、気を付けた方がいいよ~?」
「なんで? 綺麗で健康的な身体を見るのって悪いことなのか?」
「あ~……なんか、すっごいドストレートな返し。マール、どうしよ」
「トウマさんってそういうことに興味津々なので……」
と、最初に到着したのはブティックだった。
綺麗な純白の城のような作りで、ショーウインドウにはドレスが展示してある。
マールは、目をキラキラさせて言う。
「まあまあ!! もしかしてこのデザイン……かの有名なチーフテン王国のドロッセル・エブリンの新作!!」
「ふふん。その通り!! チーフテン王国の最新ブランドだよ。つい最近できたばっかりなんだ。さ、行こっか」
「なあなあ、鍛冶屋は?」
「このあとで。最初は女の子の買い物付き合ってよ」
そう言って、トウマたちはブティックへ入る。
さっそく定員が近づいてきた。マールを見て、アマデトワール公爵家とイグニアス公爵家のメイドと知るなり、対応が貴族対応へ。
マールは定員からドレスのデザインについて聞いたり、自分の好みを言っては別のドレスを見せてもらったり、ルーシェもマールに意見したり、自分用にドレスを見たりもしていた。
一方トウマは、あまり興味がないのか、休憩用のソファに座って欠伸をする。
「……こりゃ、しばらくかかりそうだ」
眠気が襲って来たので、トウマはもう一度欠伸をして、静かに目を閉じるのだった。
◇◇◇◇◇◇
二時間後。
ドレスを大量に購入しほくほく顔のマールと、どこか申し訳なさそうなルーシェ。
ルーシェがトウマを起こすと、申し訳なさそうに言う。
「ごめんごめん。けっこう時間経っちゃった。トウマ、どこ行きたいんだっけ」
「刀、鍛冶屋あるか?」
「鍛冶屋……マギア製作所ならいっぱいあるけど。他に言い方ある?」
「えーと、鉄を打って形にするところ、武器屋とか」
「マギア武具店ならあるよ。一般市民用だけど、大丈夫?」
「ああ。なあルーシェ、コンゴウザン・クガネって知ってるか?」
「えー……? うーん、聞いたことないなあ」
「そっか……」
二千年前の人間が、生きているわけがない。
子孫だって怪しい。だが、名前以外にトウマの知る手がかりはない……と、思ったが。
「あ、じゃあさ、『鉄神』って聞いたことあるか?」
「そりゃあるよ。あたしたち『地の民』から産まれた、神に匹敵する人間のことでしょ? 月詠教、月の民すら恐れたっていう……昔話で聞いたことあるけど、それって千年以上前の神話でしょ?」
「……神話かあ。実際には?」
「え、知らない」
再び、手がかりが消えた。
コツコツと調べて行くしかない。トウマはため息を吐く。
そして、一軒目の武器屋に到着した。
「ここ、有名なマギア武具店。ちなみに、マギア武具店のこと知ってる?」
「……知らね」
「ふふ。私が説明しますわ」
マギア武具店とは。
一般人用の戦闘用マギアが販売しているところ。
戦闘用マギアを所持するには、十六歳以上であり、試験による『資格』が必要になる。
トウマは挙手。
「マール、資格って?」
「そのままの意味ですわ。戦闘用マギアを持つには、試験を受けて免許を持つ必要がありますの。それと、マギアにも等級がありまして、等級の高いマギアを持つには、その都度、試験を受けて合格しなければなりませんの」
「はぁ、めんどくせえなあ。まあ、俺はマギアじゃなくて刀だから必要ないけど」
「マギア等級の話もする~?」
「いらね。さ、入ろうぜ」
三人は武器屋へ。
店内はかなり広い。様々な武装マギアが陳列してあった。
「すっげえ……けど、なんか俺の趣味じゃないな」
剣、槍、斧、短剣、鞭に槌など、様々な形状の武器があった。
他にも、防具やアクセサリーなども豊富に並んである。
だが……どれもトウマから見るとゴテゴテした形状であり、使いにくそうな武器ばかり。
すると、ニコニコした女性定員が近づいてきた。
「いらっしゃいませ~!! 当店の武装マギアはどれも高品質!! ライセンス取り立ての新人さん用から、熟練戦士まで、幅広ーく取り扱っていますよ!!」
「なあ、刀あるか?」
いきなり本題に入るトウマ。
女性定員は首を傾げ、少し困ったような顔をする。
「ええっと、カタナ……どういうマギアですか?」
「マギアじゃない。こういうのだ」
トウマは、念のため持って来た、アマデトワール公爵家からもらった訓練用の刀を見せた。
鞘から抜くと、ヒビだらけ、刀身がボロボロの刃が見えた。
女性定員はすぐにわかった。
「これは……マギア加工前の素材剣ですね。片刃で、刀身が細い……特注品ですか?」
「これが刀。マギアじゃない、鉄の剣だ」
「え……いや、マギア武器じゃない武器は、さすがに置いてないですね。似たような素材剣はありますけど……」
「ん~……そっか。じゃあ、その素材剣で一番硬いやつくれ」
トウマは、とりあえず一番刀に近い形状の素材剣を買った。
長さも丁度いい物を二本。打刀と脇差を選び、腰のベルトに差す。
「とりあえず、武器はこれでいいか……あと、コンゴウザン・クガネって名前聞いたことあるか?」
「いえ……聞いたことは。有名なマギア鍛冶士ですか?」
「いや、刀鍛冶士。二千年前に『鉄神』って呼ばれていたそうだけど」
「『鉄神』は知っていますけど、実在したお方なんですか?」
この店では、特に情報を得ることはできなかった。
◇◇◇◇◇◇
それから、二件、三件とルーシェに案内され、武器屋で聞き込みをした。
だが、全員が「鉄神? それって神話じゃないの?」という反応だった。
三人は、公園のベンチに座って休憩をする。
「そんなすぐには見つからないかぁ~……」
がっくり項垂れるトウマ。
すると、マールが質問した。
「あの、トウマさん……その、コンゴウザン・クガネというお方を探して、どうするんですか?」
もう、この世にはいないのに……と、マールは言わなかった。
トウマは、ベンチに寄りかかって空を見上げる。
「墓参り、できたらいいなって」
「「……お墓参り?」」
「ああ。コンゴウザンには世話になった。最後、あいつは……病に身体を蝕まれてボロボロだったのに、俺のために刀を打ってくれた」
トウマは、思い出す。
『お前さん、剣の腕は確かにいい。だが……刀が付いてこねえ。オレ様に任せな』
『別に、武器なんて何でもいいし、なくてもいい』
『アホたれ。お前さんの斬撃を真に完成させるなら、武器も同じくらい大事さ。っていうか……トウマ。オレ様は見たいんだよ。オレ様の剣を使って全てを斬るお前をな』
『ははっ、じゃあ……俺が唸るような剣、作ってみろよ』
それから、コンゴウザンが生み出した剣は、トウマを唸らせた。
斬撃はより鋭くなり、刀は身体の一部のようだった。
「俺さ、コンゴウザンにちゃんとお礼してないんだ。墓があるなら、酒を備えて、きちんとお礼したい」
「「…………」」
「まあ……二千年経ってるしな。難しいかもだけど」
トウマは、少し悲しそうにしていた。
すると、三人の視界に入って来たのは。
「あら……トウマさん、あれ」
「ん?」
公園の近くにある路地に、女の子がいた。
女の子だけじゃない……ガラの悪そうな男が、女の子を囲んでいた。
「ありゃ……なんか絡まれてるね」
「……大の男が、たった一人の女の子を囲むなんて」
「よし、斬るか」
「まま、待ってください。トウマさん……殺すのはダメですよ、絶対に」
「はいはーい」
三人は立ち上がり、女の子に近づく……すると、聞こえてきたのは。
「お嬢ちゃん……パパの借金、いつ返ってくるのかねえ?」
「う、ぅ……ぱぱ、がんばってるの。もう少しだって」
「ん~……お嬢ちゃんがちょっと頑張ってくれたら、パパも楽になるよ? お嬢ちゃん可愛いしねえ……おじちゃんたちに、『ご奉仕』するだけで借金も消えちゃうよ?」
「……パパは、がんばるっていってるから」
「ダメダメ。ふふふ、お嬢ちゃん、おじちゃんと一緒に行こう。ね?」
「やだあ!!」
男が女の子の手を掴んだ瞬間、トウマが男の手を掴んで捻り上げた。
「あいだだだだ!? なんだてめえ!!」
「変態野郎をブチのめそうと思って」
「何ぃ!?」
「武神拳法、突の型。『雷鳴突』」
トウマは、人差し指を男の脇腹に刺した。次の瞬間、男が電撃に打たれたようにつま先立ちになり、さらに髪の毛がピーンと立ち、目が飛び出しかねないほど見開かれた。
声も出ないのか、震えるだけ。
すると、ルーシェが残りの男たちをいつの間にか倒していた。
「こっち終わったよ~」
「大丈夫ですか? さあ、おいで」
「うううう」
女の子は、マールに優しく抱きしめられた。
ルーシェは言う。
「そいつ、どうしたの?」
「身体のツボを突いて神経を刺激した。足がしびれる百倍くらいの痺れを全身で感じてる最中」
「そ、そっか……こっわ」
「じゃ、蘇生」
トウマが別のツボを刺激すると、男は息切れして尻もちをついた。
「あばばばばばば……しし、しびれ、しびれ」
「なあ、この子借金あるのか?」
「え、ああ、うん」
「じゃあこれやる。二度とこの子に近づくなよ。近づいたら……殺す」
「ひっ」
トウマは、男に数枚の白金貨を渡す。
胸ポケットを探り、借金の証書を抜き取ると、目の前でビリビリと破り捨てた。
男はウンウン頷き、子分を連れて逃げ出す。残された女の子は、ポカンとしていた。
「大丈夫か?」
「え、あ……うん」
「トウマさん。ちょっといいですか?」
と、女の子をルーシェに任せ、マールはトウマの元へ。
「勢いかもしれませんけど……借金まで払うのはやりすぎですわ」
「そうか?」
「はい。絡まれ、怖い目に合うのを救うのはいいことですわ。でも、借金は個人の責任……深入りするのは、よろしくありませんわ」
「お、おお……なんかやっちまったか?」
破り捨てた証書を拾い、トウマはポケットへ。
ルーシェが言う。
「ねえ、この子、家まで送って行こっか。その後は、一回屋敷に戻ろう」
「ああ、そうだな」
「はい。あら……?」
マールは、落ちていた木箱を拾った。
女の子が慌ててマールから受け取る。
「あ、パパの!! おねえちゃん、かえして」
「ええ。でもこれ……包丁ですわ。子供に持たせるのは危ないですわよ。私たちがおうちに着くまで持っててあげますわ」
「……うん」
「トウマさん、これお願いしますわ」
「ああ」
包丁を受け取ったトウマは、真顔になった。
「……………………え」
「ん、トウマ?」
「トウマさん?」
包丁を手に取り、トウマは目を見開いた。
そして、女の子に顔を近づける。
「な、なあお前。この包丁……お前のパパが?」
「うん。パパ、金物職人なの。包丁とか、スプーンとか、フォークとか、お鍋とか作るの」
「……嘘だろ」
「トウマさん、どうしたんですか?」
「お前。お前のパパのところ、案内してくれ!!」
「うん。お兄ちゃん、パパにお仕事お願いするの?」
「ああ。お願いしたい!!」
今にも走り出しそうなトウマに、マールとルーシェは聞いた。
「ねえ、どうしたのさ」
「トウマさん、包丁がどうしたんですの?」
「同じなんだ」
「「……え?」」
トウマは、包丁を眺め、懐かしむように言う。
「この包丁……いや、『刃』の輝き、コンゴウザンと同じなんだ!! 俺が見間違えるわけがない。間違いない……こいつは、コンゴウザンの何かを知っている!!」
武器屋をいくつ回ってもわからなかった、コンゴウザン・クガネのヒントが、まさか包丁から見つかるとはトウマも思っていなかった。