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大急ぎ

 話が終わり、三人はアシェの案内で外へ出た。

 そして、母屋の離れにある塔のような建物へ。


「ようこそ、アタシの部屋……って言うか、研究棟へ」

「おおお、塔、塔だな!!」

「久しぶりに来ましたわ。アシェのお部屋」


 六階建ての『塔』だった。

 入口にはメイドが数名いて、アシェにペコリと頭を下げる。

 そのままドアを開けて中に入ると、一階はソファやテーブル、キッチンなどの設備があった。

 トウマはキョロキョロする。


「おいおいおい、階段は? 二階に行けないじゃん」

「昇降型マギアで移動するのよ。一階はキッチンとかリビング、二階は素材置き場、三階は素材加工室、四階が設計部屋、五階が空き部屋で、六階はアタシの部屋。地下にはお風呂あって、トイレは各階にあるわ」

「……なんというか、母屋に行かなくても、ここだけで完成してますわね」

「まあ、ここを好きにしていいって言われてから、いろいろいじったのよ。メイドも用事ある時だけでいいって言ったし、開発中のマギアとか図面とかあるから誰も入れたくないってのもあるし」


 アシェは昇降機マギアのスイッチに触れるとドアが開いた。


「アンタらの部屋は五階ね。四部屋あるから好きに使って。あ、マール……小綺麗な来客用とかじゃないけどいい?」

「構いませんわ。ふふ、こう見えて野外訓練などで野営もしますのよ?」


 トウマたちは五階へ。

 トウマは昇降機を見て感動し、アシェやマールを苦笑させた。どうやらマギアの発達した今の時代では、珍しいマギアではないようだ。

 五階には四部屋あり、石造りの頑丈そうな部屋だった。

 間取りは全て同じで、ベッドに椅子テーブル、一人用ソファ、クローゼットしかない。窓を開けると、どの部屋も違った景色が見えた。

 三人は一階リビングへ移動する。

 

「じゃあ、ある物は好きに使っていいわ。あ、でも二~四階はアタシがいない時は入らないでね。それとトウマ、六階にあるアタシの部屋には入っちゃダメ!! マールはまあ、いいけど」

「え~、なんでだよ」

「あのね!! 女の部屋に、婚約者でもないアンタが入るのは常識的にダメなの!!」

「そうなのか? じゃあ婚約者ならいいのか?」

「……それもダメだけど。ああもう、とにかくだめ」

「へいへい。さーて、とりあえず使えそうな刀を手に入れて、コンゴウザンの情報でも探すかな」

「まあ、いきなり外へ行くんですの?」

「ああ。この国、メチャクチャ面白そうだしな」

「アシェ、どうします?」

「ん~……四日後にはお父様と魔獣討伐だし、アタシはすぐにでもイフリートの改造と、ヴォルカヌス&ウェスタの作り直しするわ。マール、案内任せていい?」

「ん~……でも、私もそこまで詳しいわけじゃ」


 と、ここで入口ドアがノックされ、ティーカートを押したメイドが入って来た。

 眼鏡を掛けたロングヘアをお団子にした少女だ。ぺこりと一礼し、お茶の支度を始める。

 アシェは、そのメイドに言う。


「そうだ。ルーシェ、お願いしていい?」

「はい、お嬢様」

「この二人、王都観光したいそうなのよ。アンタ、案内してくれる?」

「かしこまりました」

「……あと、お客さんの前だからって気を遣わなくていいわよ。普通通りで」


 すると、メイドはドアを閉め、周囲をキョロキョロし、大きく息を吐く。

 そしてヘッドドレスを外し、まとめいていた髪をほどいた。


「じゃあ遠慮なく。あ~堅苦しかった。ウチ、やっぱりメイドとか無理~」

「はいはい。アタシが家を出て独立したら、雇ってあげるから」


 ポカンとするトウマ。マールは知っているのかニコニコしているだけ。

 アシェは、メイド服の少女……ルーシェの肩をポンと叩く。


「この子はルーシェ。アタシの助手みたいな子で、普段は母屋でメイドやってる。一応、アタシ付きのメイド。マギア技師の見習いでもあるのよ」

「初めまして~、ルーシェだよ。まあ、親に捨てられた孤児で、ガラクタ漁りしてマギアの改造みたいな真似していたら、心優しいアシェに拾われたってわけ」


 かなり重い過去だったが、あっけらかんと言うルーシェ。

 アシェはトウマを紹介する。

 

「アタシと同い年くらいの子供が、ガラクタ同士繋ぎ合わせてマギア作ってるの見たら、もうお宝見っけとしか思えなかったわね。まあ、メイドじゃないとウチに入れないから、仕方なくメイドやらせてるけど」

「あっはっは。まあ、ご飯は美味しいし、家事はあんたの世話で役立つから嫌いじゃないよ。まあ……メイド長は怖いけど」


 二人の間には友情、信頼が感じられた。

 ルーシェはトウマを見て言う。


「へ~……メチャクチャいい男じゃん。あんた、アシェのコレ?」


 小指をピンと立てるルーシェ。トウマは首を傾げたが、アシェがぺしっとルーシェを叩いた。


「んなわけあるか。まったく」

「はいはい。まあ、シャルティーエ公爵家のお坊ちゃまもいるし、平民じゃあんたの相手は厳しいかな」

「あのね、婚約者候補ってだけで、そんなつもりないから。ってか、今回お父様に認められたら、実家の意向と関係なく、アタシはアタシで道を決めるから。家の言いなりで結婚とか絶対嫌よ」

「はいはい。でも、ウチの見た感じ、シャルティーエ公爵家のお坊ちゃま、あんたに気があると思うよ?」

「うっさい。とにかく、二人の案内よろしくね。それと、帰りにマギア回路の十二番、四十五番よろしく」

「はーい。ところで、何作んの?」

「ふふん。アタシの新装備。見たら驚くよ?」

「わお、ワクワク」


 アシェは手を振って昇降機に乗った。

 会話に入ることのできなかったトウマは言う。


「アシェ、なんか楽しそうだったな」

「ふふ。ルーシェはアシェの一番のお友達ですから」

「友達っていうか、恩人だよ。あの子いなかったらアタシ、スラムで野垂れ死にしてたか、捕まって奴隷にされてたと思う」


 ルーシェはニカッと微笑む。


「さて、行きたいところある? そうだマール、スイーツの新しいお店とか、チーフテン王国の新作ブランドのお店とかできたよ。行く?」

「行きますわ!!」

「トウマは? 見た感じ……マギソルジャー? ムスタングは魔導武器屋いっぱいあるよ!! まあ、マギナイツ、マギソルジャーが持つような立派なものじゃないけど」

「じゃあ刀!!」

「……カタナってなに?」


 こうして、ルーシェの案内で町に出ることにした。


 ◇◇◇◇◇◇


 トウマたちの外出後、アシェは四階の設計室で図面を引いていた。


「『ヴォルカヌス&ウェスタ』……『オグン』をベースに作ったデータから問題点を差っ引いて、形状は新規で構築、アタシが使いやすい形状にリファイン……魔力固定回路もアップグレード。弾丸の固定化もスムーズにいくわね。ずっと馬車の中で考えてたし、スラスラスラー……っと」


 眼鏡をかけ、赤ペンを加え、手に持った黒ペンで図面を描き、赤ペンで所々にチェックを入れる。そして図面に書いたマギア回路を見て、さらに修正を加え、たったのニ十分で完成させた。


「完成。新型『ヴォルカヌス&ウェスタ』……セカンドスペックね。素材はやっぱ赤が欲しい。レッドワイバーンの鱗、使っちゃおうかな。イフリートには更なる形状変形がほしい。トウマのおかげでさらにアイデア出たし、よーい……作るぞ!!」


 と、図面を手に素材室へ向かおうとした時だった。

 昇降機が動き、扉が開く。

 入って来たのは……女性だった。


「お久しぶりね、アシェ」


 長いロングストレートの赤髪、アシェとは対照的にスレンダーな体型。赤い訓練用ドレスを着て、背中にロングタイプの狙撃銃型マギアを背負った十八歳ほどの女性がいた。

 アシェは、嫌そうな顔をしないよう、無表情で対応する。


「お久しぶりです、ミュウお姉様……何か御用ですか?」

「可愛い妹が帰って来たのよ? 挨拶に来ると思って待ってたのに、来る気配がないからね……こうして会いに来たの」

「そうですか。申し訳ございません」


 ぺこりと頭を下げるアミュ。

 アシェの姉ことミュルグレイス……ミュウは、フンと鼻を鳴らす。


「お父様から聞いたわ。あなた……四日後の魔獣討伐に参加するようね」

「はい」

「全く。あなたみたいな『無能』が何を言ったのか知らないけど、分相応を弁えなさい。あなたにできるのは戦闘じゃなく、魔導器開発か、イグニアス公爵家の血を増やすことだけ。『弾丸精製』すらまともにできないあなたに、戦いは無理と言ってるでしょう」


 ミュウは、指をパチンと鳴らして掌を上に向けると、一瞬で十発以上の『弾丸』が精製された。

 魔力を固定化し、火属性と合わせ、イメージにより弾丸を構築する速度が速い。

 今は軽くやっただけ。だが、その気になれば一瞬で百以上の弾丸を精製できるだろう。

 アシェにはない才能。いつもならここで俯くことしかできなかったが。


「お姉様。私は、自分の道を見つけました。そして、そのための手段も確保できます。魔導器開発は自分にとっての武器を作る技術で、やはり私はマギナイツとして戦うことこそ、道だと思っています」

「……っ!! だから、才能がないと言っているでしょう!! いい加減、諦めることを覚えなさい!!」


 ミュウは怒鳴り、部屋を出て行った。

 アシェはミュウの去った昇降機を見つめ、手のひらに弾丸を精製する。

 一発、しかも十秒ほど経過していた。

 だが、アシェは弾丸を握りしめて言う。


「アタシはもう、昔のアタシじゃない」


 アシェは、図面を手に素材置き場へと向かうのだった。

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