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火の国ムスタングへ

 トウマ、アシェ、マールは、ガルフォスが手配した馬車に乗って水の国マティルダをあとにした。

 向かうのは火の国ムスタング……アシェの故郷であえる。

 アシェは、応急修理をした『イフリート・ノヴァ』をいじりながら言う。


「はぁ~……帰りたいような、帰りたくないような」

「なんだそれ。家に帰るの嫌なのか?」

「まあ、アタシの立場けっこう微妙だからね。今回、水の国での『解放戦』で功績上げたし、水の国の国王陛下もアタシの家に感謝の言葉送ったって言うし、邪険にはされないと思うけど」


 布で砲身をキュッキュと磨いていたが、その手が止まる。

 ちなみに、馬車は宿泊もできる二階建ての馬車だ。マギアによる補佐もあるので馬一頭で引くことが可能で、揺れも少なく快適な旅ができる優れものである。


「兄上はともかく、姉上が何言うか……はああ」

「ミュルグレイス様……私も苦手なんですよね」

「うん。ミュウお姉様。アタシのこと、露骨に馬鹿にするし……実は、家を出た理由は強くなりたいからだけど、お姉様といたくないってのもあるのよね」


 トウマは、馬車内にあるソファに寄りかかりながら言う。


「別に、何言われてもいいだろ」

「あのねー……アンタみたいに図太くないのよ」

「じゃあさ、こう考えろ。『別に殺されるわけじゃない』って。何言われても、そいつはお前のこと殺すわけじゃないだろ? 実際に殺されるような行動じゃない、ただ嫌味なだけなら、害はない」

「……まあ、そうだけどさ」


 アシェは再び砲身を磨く。

 マールは紅茶を飲み、カップをテーブルに置いた。


「アシェ。今のイグニアス公爵家は、どんな感じなんですか?」

「ん~……お父様は忙しくてアタシに無関心、お兄様は無視はしないけどアタシに興味ない、お姉様は露骨に『役立たず』って嫌ってる」

「母ちゃんは?」

「いない。お母様は、アタシを産んですぐ死んじゃったからね」


 アシェは、悲しむでもなく言う。


「実家で何言われるかな……アタシが『大司教』を討伐したなんて、信じないかもね。そもそも、トウマがダメージ与えなかったら、倒すどころか死んでたわ」

「それでも、倒したのお前だろ」

「……そうだけどさ。とりあえず、帰って挨拶したら、研究棟でマギアの改造しよっと。学園が始まるまでは引きこもれるし、マールもトウマも好きにしていいからね」

「はーい。ふふ、トウマさん、一緒に火の国ムスタングでショッピングしませんか? 美味しい物もいっぱいありますわよ」

「いいな。あ、でも俺、探し人いるから、そっちも探すわ」

「火の国ムスタング、かなり広いわよ?」

「お前もいるし大丈夫だろ。な、アシェ」

「まあ、いいけどね」


 馬車は、目的地である火の国ムスタングへ向けて、ゆっくりと進んでいく。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 それから数日後、馬車は『火の国ムスタング』へ到着した。

 到着するなり、正門前でトウマは窓を開け、馬車から身を乗り出して驚いていた。


「すっげ~!! なんだここ!? 水の国とは全然違うな!!」


 水の国マティルダは川や池、湖などが多く、町も噴水のような形をしていた。

 だが、火の国ムスタングは全く毛色が違う。

 遠くからでも、町は鉄にあふれ、大きな『塔』のような建物がいくつも並び、たくさんの煙突から煙がモクモクと吐き出されていた。

 アシェは、トウマを馬車内へ引っ張って言う。


「火の国ムスタングは、『魔導器(マギア)』が生まれた地でもあるの。だから、七国で唯一マギアについて学ぶ学園があるし、世界最大のマギア生産国でもあるのよ。国のあちこちに工場や研究所があるのよ!!」

「おおお~!!」

「ふふ。その代わり、土壌などの質が非常に悪く、農作物などは全く育たない土地でもありますわ。食料品などは全て、他国との取引で賄っていますのよ」

「そうなのか……名産とか、うまい食い物は期待できないのか……」

「あのね、ちゃんとあるから。マギア加工した精肉品は、ムスタングの名物なのよ!! アンタ、肉好きでしょ? イグニアス公爵家がやってる食肉工場は、世界最大の規模でもあるんだから」

「楽しみ増えた!!」

 

 トウマはワクワクしていた。

 もう一度、窓から火の国ムスタングを見る。


「水の国マティルダときて、次は火の国ムスタングか……なあアシェ、ここも支配領域があるのか?」

「当然よ。でも、国境はイグニアス公爵家の配下貴族が、遠距離狙撃で常に見張り、近づく敵は全て排除しているわ。七国で最も堅牢な国境って言われてるのよ」

「へえ……」

「だから……水の国マティルダが、支配領域を攻略して、七陽月下を討伐したなんて聞いたら、どんな反応するかね」


 すると、馬車が正門前に到着。

 アシェがイグニアス公爵家の紋章を見せると、門兵はビシッと敬礼し、すぐに門が開いた。

 トウマは門兵を見る。


「持ってる武器、アシェのと似てるな」

「似てるっていうか、ムスタングのマギソルジャー、マギナイツはみんな、銃型マギアで武装してるのよ。あの門兵のマギソルジャーが持っているのは、兵士支給用の魔導銃『ヘルハウンド』よ。腰に差していたのが短銃型マギア『オグン』ね」

「詳しいなー」

「あのね!! アタシここ出身!! 詳しいに決まってんでしょうが!!」

「だ、だよな」

「ふふ。元気いっぱいですわね」

「な、なあアシェ。馬車はイグニアス公爵家に向かってんのか? 俺、町を歩きたいんだけど」

「最初はウチに行かせてよ。アンタも荷物下ろしたいでしょ? マールだって荷物あるんだからさ」


 こうして、馬車は町を進む。

 トウマは、街並みをずっと見ていた。

 金属の町……そういう表現が相応しい街並みだ。基本的には木造建築だが、所々が鉄で補強してあったり、そのまま鉄だけで組み上げた塔のような建物があったり、耐火煉瓦で作った鍛冶場のような建物もある。店なども多くあり、観光客や住人も多く行き交っていた。

 そして、馬車が向かったのは、大きな建物が多くあり、道幅の広い区画……そこをしばらく進み、停止した。

 

「到着。ここがアタシの家よ」

「おおおおおお……でっけえええ!!」


 アシェの家は、金属の檻に囲まれたような豪邸だった。

 大きな門の前には全身鎧に銃を持ったマギソルジャーが守り、門の奥にはかなりの大きさの豪邸が見える。

 アシェは馬車から降りると、門兵が敬礼する。


「荷物をアタシの研究棟へ運んで。それとルーシェに二部屋用意するように言っておいて。アタシはこのままお父様に挨拶しに行くから」

「「はっ!!」」


 トウマは、マールにヒソヒソ言う。


「なあなあ、なんかアシェ、怖くね?」

「貴族令嬢はこんなものですわよ。守衛も、使用人も、メイドもよりも立場が上ですから。私だって今みたいに命令しますわ」

「そうなのか……」

「そこ。コソコソしてないで行くわよ。マール、アンタもお父様に挨拶するでしょ?」

「ええ。お父様からの伝言と書状もありますので」

「なあ、俺は?」

「アンタもよ」

「トウマさん、あなたもですわよ」

「えー……でもまあ、アシェの父ちゃんなら、挨拶しないとな」


 アシェに先導され門の先へ。

 すると、出迎えたのは使用人数名、メイドが数名。


「お帰りなさいませ、お嬢様」

「ええ。お父様に挨拶するわ。部屋にいる?」

「はい。お嬢様……旦那様がお待ちです」


 使用人が案内するために歩き出したので、ついていく。

 トウマは、きょろきょろしながら歩いていたが、マールに軽く肘打ちされ「まっすぐ歩いてくださなね」と言われたので真っすぐ歩く。

 そして、屋敷を進んでいくと、大きな扉の前に到着。使用人がドアをノックすると、『入れ』と渋く重い声が聞こえて来た。

 ドアが開き、三人は中へ。

 アシェは、丁寧に頭を下げた。


「お父様。ただいま戻りました」


 窓際にいたのは、アシェと同じ赤い髪をオールバックにし、立派な顎髭を蓄えた男だった。

 トウマはすぐに悟った……『強い』と。

 男は振り返り、頭を下げたアシェ、カーテシーで挨拶するマール、頭の後ろで手を組むトウマを順にみて、トウマを見て眉をピクリと動かした。


「『大司教』を討伐したそうだな。真実か?」

「はい」

「それを証明するものは?」

「公爵閣下。私、アマデトワール公爵家三女、マールーシェ・アマデトワールが証明いたします」

「……ふむ」


 男……イグニアス公爵家当主、ヴィンセント・イグニアスは目を細める。

 そして、マールは一通の手紙を取り出した。


「ここに、我が父、アマデトワール公爵家当主、ガルフォス・アマデトワール直筆の手紙がございます」

「……ガルフォスの手紙か」


 使用人がマールから手紙を受け取り、それをヴィンセントへ。

 ヴィンセントは封を破り、手紙を読む……そして。


「……何ぃ?」


 なぜか、トウマを見た。

 そして、トウマに言う。


「そこの平民。貴様……ガルフォスに勝利したと? どこの貴族だ」

「お父様」

「黙れ。私は、そいつに聞いている」

「俺、貴族じゃないぞ」

「……ガルフォスめ。血迷ったか」


 すると、マールがピクリと反応した。目の前で父親を侮辱されたのだ。

 トウマは言う。


「ガルフォスには確かに勝った。あいつは強かったぞ、たぶんまだまだ強くなる」

「それを信じろと?」

「ああ。じゃあ……俺がどのくらい強いか、試してみるか?」


 ジャリッ……と、トウマの殺気がヴィンセントを貫いた。

 刀が、ヴィンセントの額に突き刺さるイメージを叩きつけられた。

 ヴィンセントは一歩下がり、一筋の汗を流す。


「トウマ、馬鹿なことやめなさい!!」

「ああ悪い。ガルフォスのこと、馬鹿にされた気がしたからな。で……やるなら相手するぞ」

「……いや、信じよう。フン……貴様がガルフォスに勝利し、支配領域の解放の功労者ともな」


 手紙に書いてあったのだろう。ヴィンセントは手紙を置く。


「アシュタロッテ。水の国マティルダの支配領域解放の手伝いをしたようだな。報告がきている……まさか、水の国の国王から感謝の手紙をもらうとは思わなかったぞ」

「……はい」

「よくやった。褒美を取らせよう……何か、欲しい物はあるか」

「では、お父様……私の実力を知ってください。私は、水の国マティルダで、自分の可能性に気付くことができました。その成長を、お父様に知ってほしいのです」

「……ほう」


 アシェは、まっすぐヴィンセントを見た。

 その赤い目の輝きに、ヴィンセントはアシェの真剣さを見た。

 チラッとトウマを見て、頷く。


「いいだろう。ちょうどいい……アシュタロッテ。四日後、支配領域近くの森に出た魔獣討伐に出向く予定だ。お前に同行を命じる」

「……つまり、お父様」

「お前の実力を見せてもらう。アシュタロッテ、そこに出た魔獣を討伐しろ。それと……トウマだったか」

「ん、ああ」

「貴様も同行しろ。月詠教とガルフォスをうならせた剣、見せてもらおう」

「おお、斬れるならなんでもいいぞ」

「公爵閣下。お願いがございます……私も同行させていただけないでしょうか」


 と、マールが言う。

 ヴィンセントは少し考えて言う。


「同行は構わん。だが、何があっても責任は取れないことを承知してもらおう」

「わかりました。ありがとうございます」

「話は以上……ああ、そうだアシュタロッテ」

「はい?」


 ヴィンセントは、思い出したように言う。


「その魔獣討伐だが、お前の同級生であるシャルティーエ公爵家の令息も参加する。問題はないな?」

「……問題、ありま、せん」


 なぜか、アシェは引きつったような顔をして、嫌そうなのを耐えるように喋るのだった。

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