斬神月刃
アシェは、両手に持った『ヴォルカヌス&ウェスタ』を連射。
ヘリウスは左手と半身を凍結させ弾丸から身を守っていた。
「くそ、っがは……このガキが」
「『チャージ』!!」
連射しながら、背中に背負った『イフリート・ノヴァ』に魔力を充填。両手で魔力を放出しながら、少しずつ、少しずつイフリートに魔力を込める。
トウマから負ったダメージのせいか、ヘリウスは全く動けない。だが、拳で一撃もらえばアシェは死ぬ。
だからこそ、近づけさせない。牽制の連射を止めるわけにはいかない。
「はぁ、はぁ、はぁ、もうちょい……!!」
イフリートにチャージ、両手の銃からひたすら連射。
膨大な魔力を持つアシェですら、魔力が尽きかけていた。
そして、ヴォルカヌス&ウェスタの連射が弱弱しくなった瞬間、ヘリウスは最後の力を振り絞る。
「全身全霊にて!! おおオオオオオオオオオ!!」
地面を蹴り、アシェに向かって飛ぶヘリウス。
全身を凍結させ、拳の氷を肥大化させ、命を全て燃やした一撃を放つ。
アシェが最後の力を振り絞って魔力を込めた瞬間、ヴォルカヌス&ウェスタが破裂した。
ヘリウスが近づいて来る。
「チャージ完了」
アシェは背負っていたイフリートを手にし、ヘリウスに砲身を向ける。
「オオオオオオオオオ!!」
「砕けろぉぉぉぉぉぉ!!」
そして、ヘリウスの渾身の一撃が放たれる。
同時に、アシェの一発が放たれた。
「『氷撃』!!」
「『爆炎大砲』!!」
氷、そして炎が正面から激突。
ヘリウスの拳がアシェの砲撃に触れた瞬間、大爆発を引き起こした。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
爆風でアシェは吹っ飛び地面を転がる。
すぐに立ち上がり、イフリートを正面に向けた……そして、そこにいたのは。
「我らの、神、よ……」
爆発が直撃し、四肢が吹っ飛んで胸に大穴が空いたヘリウスが、ちょうど死ぬ瞬間だった。
アシェは、ヘリウスにしばらく銃口を向け……ようやく下ろす。
「アタシ、『大司教』に……勝っちゃった」
◇◇◇◇◇◇
マールは、フラフラなモリソンと接近戦を繰り広げるていた。
放たれる拳を回避し、双剣で斬撃を繰り出すがブロックされる。
対等な戦いに見えたが、マールは汗だくだった。
(強い……こんな状態でも、私の攻撃が入らない!!)
モリソンは、全身骨折だけでなく、右足が砕けていた。
それでも、立ち上がり、魔力を振り絞り、拳に炎を乗せ、マールの攻撃を捌き、攻撃を繰り出している。万全な状態だったら、マールは十秒ともたないだろう。
マールは呼吸を整え、双剣を交差させる。
「『泡』」
アシェの双剣からシャボン玉が大量に生み出され周囲を漂う。
「決着を付けますわ。あなたに敬意を表し、今の私が使える最強の技で」
「それは光栄……っがは」
モリソンは血を吐いた。
マールはシャボン玉に命じる。すると、周囲のシャボン玉が高速で動き、マールとモリソンの周囲を旋回する。
モリソンがシャボン玉を叩き落とそうとした瞬間、シャボン玉が凍り付き、叩き割ったモリソンの手が一瞬だけ凍り付いた。
「何……ぬっ!?」
そして、シャボン玉が顔の近くで破裂。シャボン玉の中にあった氷の破片が目を掠る。
背後にマールがいるのを感じ、モリソンは裏拳を繰り出すが、そこにいたのはシャボン玉に映ったマールの姿だった。
モリソンは舌打ち……すると、モリソンの真下からマールが現れ、双剣を胸に突き刺した。
「ッぐぁぁぁぁ!!」
「『水玉模様幻想曲』……水のシャボンによる幻惑、氷のシャボンによる攻撃、そして私による攻撃……この変則攻撃はいかがでしたか?」
「……未熟。だが……見事、だ」
モリソンは血を吐き、そのまま倒れ……息を引き取った。
マールは、大汗を流しながら、肩で呼吸する。
「勝った。でも……万全なら、負けていた……いえ、勝負にすらならなかった」
勝利した。だが、大司教相手では遥かに格下と見せつけられたような、そんな気分のマールだった。
◇◇◇◇◇◇
アシェ、マールの勝利で戦いが終わった。
「……勝ったけど、なんかあんまり嬉しくない」
「同感ですわ。万全な状態なら、決して勝てない相手でした」
「『大司教』……司祭、司教ですら戦ったことないのに、負傷してても強かったわ」
「ええ。なんだか、自信なくなりそうですわ……」
「「……はぁ~」」
二人はため息。
そんな時だった。
「あ、いた。おーい!!」
「ん? あ、トウマ!!」
「トウマさん!!」
トウマが走って来た。
二人の前で急停止し、死んでいるヘリウス、モリソンを見て言う。
「こいつら、生きてたのか……で、お前らが勝ったんだな!!」
「一応ね。というか、アンタの与えたダメージなかったら、間違いなく死んでたわ」
「同感ですわ。ところでトウマさん、これから本当に『宵闇』のルブランを討伐しに?」
マールが息を呑む。だがトウマは首を振った。
「いや、そいつはもう倒した。問題なのは、ルブランが最後に、月にお願いして『ジャッジメント』とかいう隕石を落とすらしいんだ」
「「…………」」
アシェ、マールは顔を見合わせる。
そして、アシェがトウマを手で制した。
「待った。まった……アンタ、倒したって……あの、七陽月下を?」
「おう」
「……冗談、じゃ、ない?」
「当り前だろ。デカいドラゴンになって、俺が斬った」
「……あ、アシェ。嘘ではない、みたいですけど」
「……み、水の国、月詠教の支配が終わった、ってこと?」
「そ、そうみたいですわね……」
信じられないのか、カタコトで二人は顔を見合わせ確認していた。
トウマは言う。
「とにかく、でっかい隕石が落ちてくる。そういや昔も墜ちて来たっけな……」
「「…………」」
「あ、思い出した。そういや俺が昔使ってた刀って、月から落ちて来た隕石で作ったやつだっけ……まあいいや」
トウマは、腰の剣にそっと触れて言う。
「お前ら、ここが正念場……最後まで、俺に付き合ってくれ」
トウマの剣は、限界が近かった。
刃こぼれが目立ち、刀身にも亀裂が入っている。トウマの刀神絶技によってかなりの負担を受けたようだ。そんな時だった……月に黒い穴が開いたように見えた。
「ね、ねえ……なんか、月、おかしくない?」
「……くろい、穴」
「来るぞ」
そして、アシェとマールは見た。
真っ赤な何かが、落ちて来た。
光を帯び、真っすぐ『赤い塊』が落ちてくる。
それが『隕石』だとすぐわかった。直径一キロほどの塊が、水の国マティルダに落ちてくる。
「うそ……」
「あ、あああ……」
アシェがイフリートを落とし、マールはしゃがみ込んでしまった。
マティルダ王都に隕石が落下する。恐らく王都は壊滅……いや、消滅する。
王都だけではない。周辺も全て破壊の余波で潰滅する。
恐らく、トウマたちのいる平原も被害を受けるだろう。
月詠教の『月の裁き』……月からの攻撃。地の民があまりにも無力だった。
だが、一人だけ違った。
「隕石は俺が何とかする。さぁて……久しぶりに使うぞ」
トウマは、左右の腰にある刀の柄に手を添える。
アシェ、マールはその様子を見ていた。
「アンタ、何を」
「斬る」
「「……え」」
トウマは、気を全力で練り全身に力を漲らせる。
「俺は月を斬る。だから……あんな落ちてくる石ころ程度、斬れないわけがない。見せてやるよ、俺の奥の手……かつて隕石を斬った斬撃を」
トウマは踏ん張り、全力で跳躍した。
周囲の地面が陥没し、アシェとマールは驚いて転んでしまう。
空を見上げると、トウマが射出されたように飛んで行った。
トウマは上空で、二刀の刀柄に手を添える。
「いくぜ」
武神拳法、戦神気功、刀神絶技、嘘神邪剣。
トウマが生み出した四つの技。そして、その上をいく最終奥義。
トウマは知らない。
かつて、地上に落ちた『月の裁き』を両断したことで、月詠教の、月の民から恐れられたことを。『鉄神』、『脳神』、『愛神』と並ぶ、月が認めた人にして神の境地に立った『斬神』ということを。
トウマと、隕石の距離が近づいていく。
もう、ただの岩壁にしか見えない。
トウマの全身に力が漲っていく。
そして、トウマは叫んだ。
「斬神月刃!! 『星神斬』!!」
数万の斬撃が一瞬で飛び、閃光となり輝いた。
物理を、概念を、空間を、存在を、何もかもを斬るトウマの斬撃が、直径一キロの隕石を斬り裂く。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
刀が砕け散ると同時に、隕石も砕け散る……いや、粒子となって降り注いだ。
斬撃の数が多すぎて、隕石が破片ではなく粒子となってしまったのだ。
トウマも驚いた。
「っはは!! 若いっていいなあ!! 五千も斬れればよかったけど、二万を超えたぞ!! 晩年の鋭さ、若い力が融合した!! 見たか!! 俺はまだまだ強くなれる!! 見てろ、月!! 必ず斬ってやるからなああああああああああ!!」
月に折れた剣の柄を向け、トウマは地上に落下していった。
こうして……水の国マティルダを支配していた月詠教が壊滅。地の民が初めて、月詠教にダメージを与えた歴史に残る日となった。