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月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~  作者: さとう
第五章 雷の国イスズ

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船、海、イカ

 水の国マティルダを経由し、トウマたちは港にやってきた。

 馬車から降り、シロガネは言う。


「この港……いえ、この区画は全て、雷の国イスズが管理しています」

「そうなのか? 水の国マティルダにあるのに?」

「はい。前も言いましたが、ここはもともと雷の国の領地でしたので。ここから出る船は全て、イスズ人のが作った物です」

「ほー、アシェ知ってたか?」

「初めて聞いたわ。イスズ人の作った船、どんなのかしら」


 アシェは吹っ切れたのか、トウマに対しても普通の態度だった。

 トウマは港を散策したがったが却下。さっそくイスズ行きの船へ。

 シロガネは、多く並ぶ船の中でも特に立派な船へ行き、そこにいた船乗りに妙な『筒』を見せた。


「イカヅチ家のシロガネだ。女皇ミドリ様の命により、至急イスズに戻らねばならん。三部屋用意しろ」

「こ、これは……イカヅチ家の紋章。そして、イスズ政府の、紋章!? は、ははぁ!!」


 船員は慌てて船へ。一分しないうちに、船長を連れて戻って来た。

 船長はペコペコ頭を下げ、シロガネとアシェ、トウマたちを船内へ案内する。

 案内されたのは豪華な客室だった。しかも、一人一室である。

 乗り込んで一時間もしないうちに、船は出発した。イスズ政府の命令によるものなのか、トウマとアシェにはわからない。

 シロガネは言う。


「イスズまでは四日ほどかかります。それまで、ごゆるりとお過ごしください」

「やった!! アシェ、船内見ようぜ」

「いいわよ。というかアタシ……船、初めてなんだけど」

「なおさら行こうぜ。シロガネも行こうぜ!!」

「わかりました、お供します」


 トウマは子供のようにはしゃぎ、船内を歩く。

 豪華客船というのは伊達ではない。イスズ行きの観光船は大きく立派で、船内には様々な『遊び場』があった。

 いろいろな遊び場があったが、トウマは看板で海を眺めるのが一番気に入った。


「……でっかいなあ」

「……そうね。海……すごい」


 アシェも、初めて見る広大な海を目に焼き付けていた。シロガネは「少し用事がありますので」と離席したので、アシェはチャンスと思いトウマを見て言う。


「あのさ、トウマ」

「ん?」

「その……ごめん」

「ん、何が?」

「アタシさ、アンタにけっこう厳しいこと言ったよね。その……女の気持ち考えろとか。でもさ、間違ったこと言ったとは思ってない。言い方、きつかったけど」

「ああ、そのことか」


 トウマは、看板の柵に寄りかかりアシェに言う。


「俺が、女の気持ちを理解できないのは事実だからな。あれから、いろいろ考えた。マールが貸してくれた恋愛小説読んだり、カトライアに『女心について』って授業受けたけど、まだわかんねえ」

(あの二人、そんなことしてたのか……)

「俺に足りないのって、『愛』だよな」

「……そうね」

「女を抱くってのは、愛がないとダメなんだよな。『愛』……セイレンスがそうだった。俺のこと愛していたとか、本当に理解できない。俺はジジイだったし、セイレンスはまだ十七歳だったのに、なんで俺を生涯愛して、結婚とかもしなかったんだ?」

「…………」

「愛ってのは、年齢も関係ないのか? まだ子供だったセイレンスが、ジジイの俺を愛した? 俺が死んだあとだって、俺以上にいい男なんていたはずなのに……本当に、理解できねえ」

「…………」


 アシェは、トウマが悩み、苦しんでいるところを初めて見た。

 戦いではなく、刀のことでもない。

 感情について悩み、苦しんでいる。


「トウマってさ、馬鹿みたいに強いし、デリカシーないし、ワケわかんないことして周りを驚かすけど……そういうところ、本当に未熟だよね」

「……うぐぅ」


 何も言い返せず、柵に寄りかかって顎を乗せた。


「アシェは愛を知ってるんだろ」

「まぁね。誰かを好きになる、恋する、愛する。まだ経験はないけど、どういうことなのかは理解してるつもりよ。少なくとも、アンタよりね」

「……いいなー、それ俺にもわかるか?」

「たぶんね」


 そう言って、アシェは微笑んだ。

 トウマも笑い、二人の間に穏やかな空気が流れる。


(……あ)


 アシェは思った。

 今、この時間がずっと続けばいいのに……と。

 そして、頬を染めてトウマから目を逸らす。


(え、うそ……アタシ、マジで)


 トウマが、気になっている。

 ずっと……少しずつ、惹かれているのは理解していた。

 でも、なんだかんだで忙しさもあり、そういう気持ちは後回しにしていた。


「…………」


 トウマは、真剣な表情で海を見ていた。


(……アタシ、こいつのこと)

「アシェ」

「っは、はあ!? なな、んなわけないし!!」

「何言ってんだお前……まあいいや、マギア持ってるか?」

「え? いや、部屋にあるけど」

「じゃあいいや」


 トウマは柵を乗り越え、看板の先端へ。


「ちょ、危ないわよ!!」

「何かいるぞ」

「え……」


 すると、看板にシロガネが走って来た。


「トウマ様、アシェ!! 海底に何かいます、船内へ……え?」

「ちょ、トウマ……ま、まさか」


 トウマは、上着を脱ぎ、刀を抜いて鞘を置いた。


「じゃ、行ってくる。へへへ、今夜の晩飯、でっかいの食えるぜ」

「ば、ば」

「と、と、トウマさ」


 アシェ、シロガネが何か言う前に、トウマは海に飛び込んだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 トウマは海に飛び込んだ。


(嘘神邪剣で海を斬れば、呼吸はできるけど……あえてやらない)


 水中では動きが鈍い。

 だが、トウマは水中を走るように移動する。


(戦神気功、『水蹴りの如く』)


 水中を蹴って移動。

 かつて風呂に入っていた時に思いついた技だが、まさか今、使い道があるとは思わなかった。

 そして、海底に移動……そこで見たのは、あまりにも巨大な『触手』だった。

 毒々しい鉛色の、合計八本の触手。そして本体も同じ色。

 大きさは三十メートル以上、触手も五十メートル以上ある。トウマは目を凝らし、その正体を見た。


(イカ!! うおお、でかいイカ!! 俺の好物じゃん!!)

 

 トウマは、炙り焼きしたイカが何より好きだった。

 クラーケン。海の覇者と呼ばれる王。

 年に数度、豪華客船を狙って沈め、そこにいる人間を喰らう。

 だが、災難としか言いようがない。


(炙り焼き、刺身、鍋……ククク、食い応えある。船旅での食事が豪華になる……!!)


 ぞわりと、食欲から来る殺意が、クラーケンを包み込んだ。

 こんな、二メートルもない、細い鉄の刃を持ってるだけの人間が。


(じゃあ……いただきまぁぁぁ~す)


 自分を遥かに超えるバケモノであるとクラーケンが認識した時、全てが手遅れだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 炙り焼き、鍋、刺身、煮物……トウマとアシェとシロガネのテーブルには、仕留めたばかりのクラーケンが大量に並んでいた。


「うっほー!! うんまそう!! じゃあいただきまーす!! うんめええええ!!」

「「…………」」


 現在、トウマはクラーケン料理を満喫していた。

 海から戻ったトウマは、仕留めたクラーケンの触手を何本か持って来た。そして、豪華客船で待機していた船乗りたちと素潜りし、クラーケンの『残骸』を切り分け、船に運んだのである。

 乗客のほとんどはクラーケンのことは知らない。たまたま仕入れた絶品クラーケン料理が、船内レストランのメニューに加わった。


「はぁぁ、マジうまい。おいおいお前らも食えよ!!」

「……なんかもう、アンタのことで悩むのやめるわ」

「さすがトウマ様です……では、いただきます。ん、おいしい」


 アシェはイカ焼きを食べ、楽しそうにイカを食べるトウマを見て思う。


(……馬鹿だけど、やっぱ嫌いじゃない。むしろ……好きかも)


 女を抱く。トウマの願いをどうするか、アシェは一度真剣に考えるのだった。

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