いざ、雷の国
雷の国への行き方。
水の国マティルダを経由し、船に乗って海へ。
海を渡った先にある大陸が雷の国イスズ。
シロガネから説明を聞き、トウマは驚いた。
「……ということです」
「いやマジで? 大陸って……俺、知らなかったぞ」
「昔は、雷の国は水の国マティルダの領地にありました。しかし、新天地を夢見たイスズ人が海を渡り、雷の国イスズとなったとされています」
「わたくしも、お父様から聞いたことがありますわ。水の国マティルダは本来、領地の半分ほどの大きさだったと」
マールも頷く。
トウマは「へぇ~」と驚いていた。
「セイレンスのやつ、海の向こうに大陸があるなんて知ってたのかなー」
「ご存じなかったと思われます。国家を制定したセイレンス様がお亡くなりになったあと、イスズ人の祖先は新天地に向かったとのことですから」
「へー、アシェは知ってたか?」
「……さーね」
アシェはそっぽ向きお茶をすする。
その様子に、カトライアがトウマに耳打ち。
「ちょっと、アシェ……どうしたのよ」
「いやー、ちょっとやっちまってな。俺が悪いんだ」
「はぁ?」
「そこ、コソコソしないで普通に話しなさいよ」
アシェに睨まれ、カトライアとトウマは離れた。
マールはカトライアをチラッと見ると、カトライアは小さく頷いた。
◇◇◇◇◇◇
夕方。
トウマは、カトライアとマールに呼び出され、ビャクレンと二人で町のカフェに来ていた。
個室を取り、注文を済ませたあと本題へ。
「で……トウマ、アシェに何を言ったの?」
「いやあ……」
トウマは話した。
男として女を知りたいこと。アシェに頼んだこと。アシェに断られたのでビャクレンに頼もうとして『邪魔だけはするな』と言ったこと。
それを言ったら、アシェが不機嫌になったことだ。
話を聞き、マールとカトライアは顔を合わせため息を吐いた。
「トウマ、あなたが悪いわ」
「ええ、これ以上なく」
「……そうらしいんだよなあ。俺、何を間違えたんだ?」
「あのねー……『これから抱かせてください、ダメなら別の女のところ行くんで邪魔しないでね』なんて、普通の女は怒るに決まってるでしょ!!」
「うぐ」
「トウマさん。よく聞いてくださいね……あなたには、『愛』が足りませんわ!!」
「あ、あい?」
愛。
かつて、『愛神』と呼ばれたセイレンス。
トウマを愛していた、と言われている。だがトウマにとってセイレンスは『じゃじゃ馬なお嬢さん』だ。愛という意味は理解しているトウマだが、自分で何かを愛したことは……一つだけあった。
「愛。俺は……コンゴウザンの作った刀を美しいと思った。これは愛だよな」
「「違う(いますわ)!!」」
二人に詰め寄られ、トウマはのけぞる。
するとビャクレンが言う。
「トウマ様。アシェの言うことが理解できないのでしたら、それはそれでいいのでは?}
「え……」
「トウマ様は『愛』を知らずに戦ってこられましたが、何か不都合がありましたか? 天照十二月を相手にしても、何の問題もございませんでした。なら……気にしなくてもよろしいのでは?」
「…………」
「私は、トウマ様に身も心も捧げます。トウマ様の強さを知るため、トウマ様がこの身を抱くことで更なる境地に至れるのでしたら、何の問題もございません」
「……ビャクレン」
「トウマ様。私は、あなたの剣技を『愛』しています。その愛をさらに深めることのお手伝いができるのでしたら……私は、幸せです」
「…………」
トウマは、胸に何かを撃ち込まれたように、ズシッとした重さを感じた。
だが、ビャクレンを手で制する。
「ありがとう。お前の愛……すげえと思う。でも、まだだ。俺は未熟だ……アシェの言うことをしっかり理解しないと、ダメな気がする」
「……トウマ様」
「よし!!」
トウマは立ち上がり、三人に頭を下げる。
「ありがとうみんな!! 俺……もっと考えるよ。そして、愛がわかったら、お前らを抱く。男としてな!!」
「はい!!」
「え……わ、私も?」
「まあ……ふふ、頑張ってくださいね」
「おう!! じゃ!!」
トウマは出て行った。
残されたマールたちは言う。
「……ねえマール、あなたなんか喜んでない?」
「ふふ。トウマさん、カッコイイですしね。わたくし……覚悟が決まれば、その」
「トウマ様。私は、お待ちしています」
◇◇◇◇◇◇
数日後。
出発の準備を終え、トウマたちは馬車の前にいた。
見送りにはマール、カトライア。
「じゃあ、行ってくる!!」
トウマは馬車に乗る。
そして、シロガネは頷いて馬車へ。
アシェも乗ろうとしたが、カトライアに手を引かれた。
「わ、なに?」
「……トウマさんもずっと悩んでますわ。アシェ、あまり厳しいこと、言わないでくださいね」
「……アンタらがトウマに相談受けたの知ってたけど」
「アシェ、トウマはあなたのこと嫌ってないわ。むしろ、好きだと思うわよ」
「カトライア……」
「トウマが愛を知ったら、あなたどうするの?」
「……んー」
「トウマもだけど、あなたも考えた方がいいわよ。受け入れる準備とかね」
「はぁ!?」
カトライアに背を押され、アシェは馬車に乗り込んだ。
「おう、なんか喋ってたのか?」
「…………まあ」
なんとなく、トウマと顔を合わせ辛くなるアシェだった。
◇◇◇◇◇◇
馬車は、水の国マティルダに向かって走り出す。
シロガネは瞑想、トウマは欠伸をし、アシェは『イフリート』をいじっていた……が、なかなか集中できなかった。
「……あーもう」
それも、マールとカトライアが変なことを言うからだった。
トウマをチラッと見ると、刀を見ていた。
「ん、なんだ」
「い、いや……べつに」
アシェは、水の国マティルダを抜けるまで、一人悶々とするのだった。




